March 26, 2018 / 10:03 AM / a month ago

コラム:日米政治リスクで円高はどこまで進むか=佐々木融氏

[東京 26日] - 日米の政治リスクが急速に高まり、不安定な相場展開が続いている。日本では、12日に財務省が森友学園への国有地売却を巡る文書書き換えを認めて以降、政局が混乱。米国では、13日にティラーソン国務長官が解任され、22日にはマクマスター大統領補佐官も解任、トランプ大統領の主任弁護士ダウド氏は辞任と、ホワイトハウスの流動化が止まらない。

加えて、22日には、トランプ大統領が米通商法301条に基づき、中国による知的財産権侵害に対する制裁措置の発動を命じる文書に署名。23日には、米通商拡大法232条に基づく鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動した。日本についても、トランプ大統領は不満を口にしており、適用対象外とはならなかった。

このように政治リスクが急速に高まった過去2週間で、日本円は英ポンドとともに主要通貨の中で強い通貨となった。一方、ドルは中位に位置している。つまり、過去2週間の106円台後半からのドル円相場の下落は、「米国の保護主義によるドル売り」というより、「政治リスクを懸念したリスクオフの円買い」の側面が強いのだ。

<ガードを下げて打ち合うボクシング>

米国政府が中国に対して、米通商法301条に基づいて取るという措置は、主に以下の3つだ。

●中国による知的財産権侵害を世界貿易機関(WTO)に提訴する

●航空宇宙分野、情報通信関連、機械など約1300品目程度、金額にして500―600億ドル程度の製品に対して25%の関税を課す(対象品目リストは15日以内に策定)

●中国による技術取得につながる対米投資の制限措置をまとめる

ちなみに、トランプ大統領は関税対象となる中国製品の規模について最大600億ドルと述べたが、ホワイトハウスの当初の説明によれば約500億ドル。また、米メディアへのインタビューでロス商務長官は、正確な総額は今後決まるとした。ここではとりあえず500億ドルを前提に議論したい。

まず500億ドルの品目に25%の関税を課すだけならば、米国の全輸入の0.5%程度であり、中国の輸出の2.2%にしか影響しない。米国と中国の対国内総生産(GDP)比ではそれぞれ0.06%と0.1%で、マクロ経済的にはさほど大きなインパクトにはならない。また、対米輸出の上位品目は米企業の製品だったり、主要部品が米企業製であるケースも多いようで、実際にどこまで関税が適用されるのかは不透明だ。

何より、結局は中国が米国に対して報復措置を取ることから、どちらの得にもならないことは明らかだ。ガードを下げて打ち合うボクシングのようなものであり、打ったら打ち返される。従って、実際にどこまで関税の引き上げ合戦を続けられるかは疑問だ。

すでに鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に対する対抗措置として、中国は米国産豚肉に25%、ワインやナッツ類などに15%の追加関税を課すことを発表しているが、これらの品目の輸入総額は30億ドル程度。関税の上乗せ額は6.5億ドル程度で、米国が中国産の鉄鋼やアルミニウムに適用する追加関税とほぼ釣り合っている。つまり、米国が500億ドルの中国からの輸入品に25%の関税(125億ドル)を課せば、中国は米国からの輸入品に125億ドル分の関税を課すことになるだろう。

むしろ、世界の金融資本市場にとっての問題は、米国と中国が続けるチキンレースに対する恐怖感だけで市場が混乱してしまうことかもしれない。中国が1.17兆ドル保有する米国債を売却するかもしれないという憶測も広まっているが、実際に売却しても誰の得にもならないのは明らかだ。しかし、米国債市場がこうした思惑に反応してしまう可能性は否定できない。

<短期的ポジションはすでに円ロングか>

しかし当社は、世界の企業収益は今年も前年比2桁台の強い伸びを示すと予想している。こうした企業収益の力強い伸びを背景に、設備投資も堅調だろう。世界のマクロ経済ファンダメンタルズは依然として強いのだ。

また、そもそも米中は実際に殴り合いを始める前に、話し合いの席につくと考えた方が現実的だろう。そうした中、短期的な円ショートポジションの手じまいはほぼ完了したと考えても良さそうだ。

むろん、今週は年度末でもあり、また政治的な不透明感もすぐには晴れそうにない。年初以来の20日移動平均線からの最大下方乖離率を現状レベルに当てはめると、最大103円台半ば程度までのオーバーシュートのリスクは見ておく必要はありそうだ。

ただ、日米の政治的な不透明さが多少でも晴れれば、4月に入り本邦企業・投資家による対外投資が積極化する可能性とも相まって、世界的な資産価格下落にも歯止めがかかり、円高圧力も落ち着くものと考えられる。103円台半ば程度までのオーバーシュートが起きたとしても、短期的な動きに終わる可能性が高いのではないかとみている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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