April 11, 2018 / 9:25 AM / 4 months ago

コラム:米為替報告書と日米首脳会談後の円相場シナリオ=佐々木融氏

佐々木融  JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長

 4月11日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、円高リスクとしては米為替報告書よりも日米首脳会談に警戒が必要だが、ドル円相場の基調は円安方向だと分析。写真は都内のディーリングルーム。2017年1月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 11日] - 米財務省は毎年2回、原則4月15日と10月15日を期限として半期為替報告書(以下、報告書)を議会に提出することになっている。期限は守られないことも多いが、トランプ政権下での発行は2017年4月14日と同年10月17日の2回。ほぼ順守されており、今回も今週中あるいは来週早々にも提出・公表される可能性が高い。

米財務省は2016年4月、為替政策の評価に関する新たな枠組みを導入している。同枠組みでは、以下の3つの基準に抵触した場合、「為替操作国」と見なされることになる。

●財の対米貿易黒字が少なくとも200億ドル超

●経常黒字額の対国内総生産(GDP)比が3%超

●過去12カ月のネット外貨購入が継続的(8カ月以上)で対GDP比2%超

この新たな枠組み導入後に為替操作国と見なされた国はないが、基本的に2つの基準に抵触すると、「監視対象国」リストに入る。前回(昨年10月)の報告書では、中国、日本、韓国、ドイツ、スイスの5カ国がリストに入った。中国、日本、韓国、ドイツは過去4回の報告書で毎回、監視対象国リストに名を連ねている。

今回も為替操作国と見なされる国はないと考えられるが、引き続き中国、日本、韓国、ドイツは監視対象国リストに入る可能性が高い。

<米為替報告書の円高インパクトは限定的か>

中国の財の対米貿易黒字は、2016年の3470億ドルから2017年は3752億ドルに8%程度増加している。中国が米国の財の貿易赤字に占める割合も46%と高いままだ。経常黒字の対GDP比は1.8%から1.4%に縮小しているが、監視対象国リストに前回残ったことに鑑みれば、今回も外れることはないだろう。

日本の2017年の財の対米貿易黒字は688億ドルであり、2016年とほぼ変わらなかったが、経常黒字の対GDP比が微増している。しかし、総じてみれば介入も行っておらず、対米貿易黒字も経常収支も大きな変化はなく、前回に比べて米国側の対応が変わるとは考えにくい。

一方、円相場に関しては、前々回(昨年4月)の報告書で、「円の実質実効レートは過去20年間の平均に比べ20%割安となっている」という文言が新たに加えられた。これは日銀が算出する実質実効レートを用いているとみられ、昨年末時点の円の実質実効レートは昨年6月末に比べるとさらに円安が進んでおり、過去20年間の平均に比べ24%割安となっている。

ただし、前回(昨年10月)の報告書では、中国や日本に対して、ポジティブなトーンで政策課題を示していた。前々回(昨年4月)の報告書における批判的なトーンは鳴りを潜めた。こうした書きぶりがどう変わるかも注目されるが、総じてみれば、今回の報告書が円相場に大きな影響を与える可能性は低いだろう。

<ドル円と日米金利差に相関回復の兆し>

前述した通り米財務省の為替報告書は恐らく今週末か来週初めに公表されるとみられるが、その直後、4月17日から20日に安倍晋三首相の訪米が予定されており、トランプ大統領との首脳会談を合計2日間行う見通しだ。

この際、3月の韓国との「為替条項」のような形で米政府高官側から、日本の為替政策、金融政策に関して何かしらの注文めいた発言が飛び出すと、ドル円相場に円高方向の圧力が加わることになる。

米政府高官は3月27日、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しで大筋合意したと発表。同時に両国が競争的な通貨切り下げを禁じる「為替条項」の導入でも合意したと明らかにした。為替条項は、競争的な通貨切り下げを禁じ、金融政策の透明性と説明責任を約束するという内容で、今後詳細を詰めて協定を結ぶとした。

韓国政府側は、為替条項はFTAとは別の事案であることを明確にし、FTAに絡めて発表した米国側の意図を、今秋の中間選挙を控えて国内向けの効果を狙ったものではないかと推測した。仮にその見立てが正しければ、日米間で「為替条項」のような議題が浮上しても、円高インパクトは比較的短期なものにとどまり、時間の経過とともに弱まっていくものと思われる。

筆者は引き続き、4―6月期は徐々に本邦企業、投資家による対外投資が活発化することにより、円安方向への動きが強まり、ドル円相場は111円台方向に反発するとみている。

4月に入った後も中国が米国に対する報復関税措置を発表したり、トランプ大統領が中国からの輸入品1000億ドル相当に対しても追加関税を検討しているとの報道が流れたりしたが、為替市場では円が最も弱く、スイスフラン、米ドル、ユーロも弱い典型的なリスクオン相場となっている。

シリア情勢は緊迫しているが、仮に米国がシリアのアサド政権への軍事攻撃に踏み切ったとしても、米ロ間の衝突にでも発展しない限り、市場への影響は限定的だろう。北朝鮮絡みのイベントも、11日の最高人民会議に続き、15日には太陽節(故金日成主席の生誕記念日)が控えているが、少なくとも27日に予定されている南北首脳会談までは朝鮮半島情勢は大きなリスクにはならないだろう。

むしろ、足元で注目したいのは、日米長期金利差とドル円相場の相関が戻りつつあることだ。これは特に2月以降の円高を引き起こしていた何らかの大きなフローが一段落した可能性を示唆しているかもしれない。3月米消費者物価指数(CPI)や米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(3月20―21日開催分)公表を受けて再び利上げ期待が高まれば、ドル円は素直に上昇するかもしれない。

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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