April 24, 2018 / 9:25 AM / a month ago

コラム:欧州投資家が見る「歴史的円安」相場の持続力=佐々木融氏

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長

 4月24日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、欧州投資家の間では、日本の政局リスクの織り込みが進んでいないようにみえると指摘。写真は英ポンド、日本円、米ドル紙幣。シンガポールで2017年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White)

[東京 24日] - ドル円相場は4月以降、予想通り反発基調に入ったようだ。4月23日には2月13日以来の108円台に上昇(24日本稿執筆時点は108円台後半で推移)。3月30日の106円台から2円余りドル高円安が進んだ。今後1―2カ月で111円程度まで上昇すると当社は引き続き予想している。

背景にある本邦投資家の動きを追うと、3月は外国株式・投資ファンド持分が6700億円程度の売り越しとなっていたが、4月前半の2週間とも買い越しに転じた。外債持分については3月最終週、4月第1週と比較的多額の売り越しとなっていたが、4月第2週には買い越しにシフト。つまり、新年度に入って以降、対外証券投資に伴う円安の動きがそれなりに見え始めたと言っていいだろう。

ただ、正直なところ、4月以降のドル円相場の上昇ドライバーは「ドル高」という側面も強く、この点はやや予想外の展開だ。4月に入ってからの主要10通貨の動きを見ると、円がスイスフランに次いで2番目に弱い通貨となっている一方で、ドルはカナダドルに次いで2番目に強い通貨となっている。ドル高をけん引しているのは米長期金利の上昇で、これまで崩れていた日米長期金利差とドル円相場の相関は4月以降再び強まり始めているのだ。

また、米名目金利上昇の背景として、米実質金利上昇の寄与も目立つ。過去1週間で見ると、米名目10年金利は15ベーシスポイント(bp)ほど上昇しているが、そのうち9bpは実質金利の上昇によるものだ。

ここ1週間で発表された米経済指標は予想を上回るものが多い。そうした中で、米国と北朝鮮や中国との関係に対する懸念が後退していることも、市場センチメントの改善に寄与しているのかもしれない。

<欧州投資家は円高リスクを慎重に見極め>

ところで筆者は先週、ロンドン、ストックホルム、ヘルシンキを訪問し、現地の投資家と会合を行ったが、その際、円相場に対して欧州投資家が抱く共通認識を強く感じた。それは、実質実効レートで見た円が歴史的に安い水準にあるということだ。

実際、米財務省も半期為替報告で指摘しているように、日銀が算出する円の実質実効レートの現状水準は、過去20年間の平均から25%程度低い水準にある。

今回の出張は、計画段階でのアポイントメントの入り方が非常に速かったため、日本に対する欧州投資家の関心の高さを感じた。日本関連の材料が何らかの市場の動きにつながるのではないかとの思いからか、特に次の点を尋ねられることが多かった。「円が歴史的に安い水準にある中、日銀の金融政策、政治リスク、貿易摩擦といった円高方向へのリスクがいつ顕現化して、どのくらい円高になる可能性があるのか」という問いだ。

もっとも、年後半に向けた日本関連の材料を見越して、現時点で大きくポジションを傾けようとか、すでに傾けているといった投資家はいなかった。また、今後数カ月の円安見通しに対し、強く異論を唱える投資家もいなかった。

短期的なポジションとして円ショートに多少傾けているとの声は2、3社から聞かれたが、リスクとリターンのバランスを考えると、ある程度円安に進んだ時に、日銀の金融政策など上記のリスク要因を見極めつつ、円ロングに傾けた方が良いのではないかとの声が強かった。

<日本の政局リスクは織り込み不足か>

もう1つ興味深かったのは、日銀の金融政策の変化に対して多少なりとも備えができつつあるように感じた点だ。昨年末に当社が、「日銀は2018年末までにイールドカーブ・コントロール政策の10年金利のターゲットを(現在の0%程度から)50bpまで引き上げる」との見通しを公表した際には、海外投資家からはかなり強い懐疑的な見方が示されたが、今回はその見方が比較的受け入れられていたような気がした。

当社がその後、日銀の10年金利ターゲットに関する予想を50bpから25bpまで下げたことが理由なのか、実際に日本のインフレ率が緩やかに上昇していることが理由なのかは定かではないが、欧州投資家は、日銀が今後、金融政策を多少変更してもそれほど反応しないかもしれない。

日銀が10年金利ターゲットを現在の0%程度から25bp引き上げても、それほど円高にはならないという筆者の見通しに対しても、強い反論は聞かれなかった。これにも意外感があった。

また、今回会った欧州投資家は総じて日本の政治スキャンダルの内容に関してよく知っている様子だった。しかし、この問題が政権に与える影響に関しては楽観的に見ている向きが多かった。

安倍晋三首相が9月の自民党総裁選に勝って、今年末時点も首相でいる確率は五分五分ではないかとの見方を当方から示すと、概して、かなり驚いていたようだった。日銀の金融政策とは異なり、日本の政局に関しては変化に対する織り込みが進んでいないようにみえる。年末に向けたリスク要因の1つとして重要となってくるかもしれない。

日本株に関しては、円相場との相関が以前に比べて弱くなっており、ドル円相場の上値が多少重くても、日経平均株価が企業収益に支えられて上昇する可能性は高いとの見方に強い異論は聞かれなかった。前述したように円が歴史的な円安水準で推移していることから、円に対するリスクをヘッジしないまま日本株に投資するメリットに関しても、多くの投資家が同意していた。

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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