June 25, 2018 / 9:09 AM / 19 days ago

コラム:ドル円の年間レンジ、上半期で決まりか=佐々木融氏

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長

 6月25日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、ドル円相場について、今年も過去3年と同様、年前半のレンジを高値・安値とも抜けずに終わる可能性が高いと予想。写真は日本円と米ドル紙幣、シンガポールで2017年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White)

[東京 25日] - 今年も折り返し地点が近づいた。そこで、今回はドル円相場について、年前半を振り返った上で、年後半の見通しを考えてみたい。

今年前半のドル円相場を振り返る上では、昨年の動きまでさかのぼってみると分かりやすい。昨年は、ドルが主要通貨の中で最弱通貨となり、円もドル、ニュージーランドドルに次いで3番目に弱い通貨となった。つまり、ドルも円も弱い通貨となったことで、結果的に1980年以降の38年間で4番目に狭い年間レンジとなった。

昨年は世界経済の成長率が前年よりも大きく加速し、市場のボラティリティーも全般的に低水準で推移した。この結果、コモディティー以外の多くの資産クラスでリスク調整後リターンが長期平均の2―3倍の高パフォーマンスとなった。こうした環境下で円やドルが売られるのは典型的なリスクオンのときのパターンと言える。

今年前半の世界経済は年率3.4%程度の成長となる見通しで、潜在成長率を1%程度上回り、昨年11月末時点の当社見通しよりも0.2%ポイント程度上振れている。また、企業収益も高水準を維持している。

しかし、今年前半のリスク性資産のパフォーマンスは総じて良くなかった。こうした現象を引き起こした要因の1つとして考えられるのは昨年の反動だろう。

<取引レンジに関する過去3年の教訓>

実際、今年前半のドルは主要通貨中3番目に強い通貨、円は最強通貨になっている。IMMにおける投機的ポジションを見ても、ドルも円も昨年中に積み上げられたショートポジションが今年前半に巻き戻されている。

米国の景気拡大期間が戦後2番目の長さとなっていることもあって、同国の景気後退に対する投資家の不安心理が強く、いくつかの小さな地政学的なショックが投資家にポジションの手じまいを強いてしまった可能性が考えられる。この結果、今年前半のドル円相場は、昨年とは逆にドルも円も強い通貨となったことで、結果的には同じような狭いレンジ内での推移が続いている。

ちなみに、年前半の取引レンジが今年と同様に8%程度の狭いレンジとなることはそれほど珍しくない。1980年以降で見て年前半の取引レンジが今年よりも狭かったことは8回あった。

それよりも興味深いのは、近年、年前半の取引レンジがそのまま年間の取引レンジになる傾向が出てきている点だ。1980年以降、年後半のドル円相場が、その年の前半の取引レンジの高値・安値どちらも更新しなかった例は3回しかない(1989年、2015年、2016年)。しかし、その数少ない3回のうち2回は3年前と2年前に続けて発生している。

さらに、それに続く昨年は年後半に年前半の安値を0.7%程度更新しただけで終わっている。つまり、年前半のレンジがほぼ1年間のレンジと同じになっているという状況が、過去3年間続いていると言える。

<4月以降のドル急反発は続かない>

今年の後半はどうなるだろうか。結論から言えば、今年も年前半のレンジ(104.56円から113.39円)を抜けずに終わる可能性が高いのではないかと考えている。まず、ドルの上昇は続かないとみている。

ドルは今年第1四半期には弱い通貨だったが、第2四半期に急反発した。ドル名目実効レートは昨年初から今年1月までの13カ月間で約10%下落したが、4月以降の急反発で下落分の半分を巻き戻した。

4月以降のドル急反発の背景には2つの要因があったと考えられる。1つは米国経済の一人勝ちである。当社エコノミストは、米国以外の主要国の第2四半期成長率(前期比年率)についておおむね2%台と予想しているが、米国については4%に達するとみている。

ドルは、昨年のように世界経済が全体的に堅調なときには、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを行っていても軟調に推移する傾向があるが、米国経済が一人勝ちの状態になり、他の中銀とFRBの金融政策スタンスに明らかな差が見られ始めるようになると強くなる傾向がある。

また、そうした環境が短期的なドルショートポジションの巻き戻しを誘発したこともドル急反発の一因となっただろう。IMMにおける投機的なドルショートポジションは4月時点で2011年8月以来の水準まで傾いていたが、その後急速に巻き戻しが進み、直近の6月19日時点のデータでは約1年ぶりのロングポジションに転換している

しかし、こうした環境は年後半まで続かないだろう。当社エコノミストは、年後半には米国経済の強さが他国にも波及して、世界経済が全体として堅調に推移すると予想している。また、英国、スウェーデン、カナダの中銀は年後半に利上げを行うとみている。

加えて、トランプ政権の保護主義的な政策スタンスを背景とした貿易摩擦に対する懸念が残る中で、米国の双子の赤字をファイナンスするのは容易ではない。米国の財政収支と経常収支の赤字は来年には対国内総生産(GDP)比で計9%台まで膨らむと予想される。さらには、トランプ大統領の司法妨害疑惑に関する捜査の結果次第では、ドルにネガティブな影響が及ぶ可能性もある。

<円が弱い通貨に戻る可能性は低い>

ドルが反落基調をたどると予想する一方で、円は弱い通貨に戻るのは難しいとみている。世界経済の好調さが維持されることは円安要因だが、世界を巻き込む貿易摩擦は短期的なリスク回避の円買いにつながりやすい。

また、メキシコやブラジルの選挙が新興諸国の政治の混乱を引き起こし、円を弱い通貨とする流れを一時的に阻止してしまうかもしれない。さらに、国内でも9月の自民党総裁選で安倍晋三総裁(首相)が敗れる可能性が意識されるようなことになると、円の下値が支えられる。

逆にこれらのリスク要因がほとんど顕現化せず、円安が予想以上に進んだ場合には、日銀が国内金融機関への悪影響に配慮して、イールドカーブ・コントロール政策をやや柔軟化し、10年国債金利が0.1%超に上昇するのを容認するかもしれない。その結果、円安に進んだ分は帳消しになるだろう。

とはいえ、潜在成長率を上回る世界経済の持続的な成長が予想される中、極端に円高になることもないだろう。国内投資家・企業による対外投資も引き続き高水準だ。

従って、年後半のドル円相場はレンジの下限に向けて軟化する可能性が高いとはみるものの、結果的に過去3年間と同様、ほぼ年前半のレンジ内での動きに終始するのではないかと予想している。

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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