July 23, 2018 / 10:12 AM / 21 days ago

コラム:強い円と弱いドルの復活は本当か=佐々木融氏

[東京 23日] - 先週金曜日のニューヨーク時間帯からこの週末にかけて、日本の複数メディアが、日銀が現行の金融政策の「柔軟化」に取り組む可能性を報じた。日本国債先物価格は先週金曜日のニューヨーク時間帯にすでに大きく下落し、10年金利が0.10%近傍まで上昇するのを織り込んだ。

 7月23日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、日銀の金融政策やトランプ米大統領の保護主義的姿勢はドル円の波乱要因だが、今年も年後半は年前半のレンジを大きく抜けられそうにないと指摘。写真はドル円相場のチャートと日米の国旗。都内の金融機関で2013年6月撮影(2018年 ロイター/Yuya Shino)

23日、日本国債10年金利が0.09%まで上昇した後、日銀が指値オペを通知すると、金利は低下したが、結局再び0.09%程度まで上昇した。ドル円相場は、先週金曜日の高値からみれば、1.5%程度下落しているが、後述するようにトランプ米大統領の発言によるドル安の部分も考えると、動きは比較的小幅にとどまっている。

前回9日付のコラム「市場は日銀に何を求めているのか」でも指摘した通り、最近の円相場をみると、日銀が多少動いた程度では大幅な円高にはならないと思われる。本邦企業・投資家による対外直接投資、対外証券投資は引き続き大きく、円高の動きを止めている。

日米10年金利差とドル円相場の相関も引き続き不安定で、日米長期金利差が縮小したらドル円が下落すると必ずしも言い切れない状態である。

また、日銀は10年金利の上昇を一定程度許容しても、それはあくまでも金融政策の「柔軟化」であり、引き締めではないというコミュニケーションを行うだろう。

金融システムが不安定化して、日本経済が大きな打撃を受け、景気後退に陥るようだと、日本企業や投資家による積極的な対外投資はなくなり、大幅な円高となる危険が増す。その時には2円や3円の円高では済まないだろう。

ちなみに、6月日銀短観における大企業・製造業の2018年度のドル円想定レートは107.26円である。ドル円相場の水準としてもある程度余裕がある今のうちに、金融政策に柔軟性を持たせておく必要はあると考えられる。

<「トランプ砲」のドル安効果>

一方、米ドルは反落基調に戻るリスクが高まっている。トランプ大統領の保護主義的な姿勢は強く、厄介なことに再び為替相場に言及し始めている。

19日には、米CNBCのインタビューで「われわれはEU(欧州連合)に対して昨年もこれまでも1500億ドルの赤字を出している。EU諸国は簡単に金を儲け、そして通貨は下落している。中国の通貨は岩のように下落し、われわれの通貨は上昇している。そしてわれわれは不利な立場に立たされている」と発言。さらには、各国に対する赤字額を述べながら、「日本についてだって言える」と日本にも言及しかけた。

また、20日にはツイッターで「中国、欧州や他の国が通貨を操作し、金利を低くしている。その間、米国は金利を上げ、ドルは強くなり、われわれの偉大な競争力を奪う」と投稿した。

経常黒字国である日本の当局者が自国通貨高は好ましいと言ったら円高が加速してしまうのと同様、経常赤字国である米国の当局者が自国通貨安は好ましいと言ってしまうと通貨は大きく下落してしまうリスクが高まる。

さらに、米国では減税と財政支出の拡大で、今後「双子の赤字」が急速に拡大することが予想される。ただでさえ、投資資金を引き付けてドルを支えなければならない状況下で、ドル安が好ましいかのような発言をするのはドルにとってはかなりの重しとなってしまう可能性がある。

<結局1ドル105円止まりの可能性>

今年前半のドル円相場は1―3月期に113円台から104円台まで下落、4―6月期には逆に反発し、7月半ばには113円台まで戻し、1―3月期の下落を帳消しにした。

1―3月期は円が主要通貨の中で最も強くなり、米ドルが弱い通貨となった。一方、4月から7月半ばは米ドルが主要通貨の中で最も強くなり、円が弱い通貨となった。先週後半以降の日米を巡る状況は、今年の夏は再び円が強く、米ドルが弱くなるという順番が戻ってくる可能性が高いことを示唆している。

しかし、日銀も急速に円高が進むような政策の調整の仕方はしないだろう。また、米国もムニューシン財務長官が懸命に火消しに回っているのをみると、米当局としてドル安政策を推し進めようというところまでは行っていないようだ。

ドル円相場はこの夏、1―3月期と同じ「円高・ドル安」に戻り、再び下落基調となる可能性が高い。それでも下落は結局105円近辺止まりで年前半のレンジを抜けないのではないだろうか。ドル円相場は過去3年間、年前半のレンジがほぼ1年間のレンジになっている。

日銀のイールドカーブ・コントロール政策も、トランプ大統領の保護主義的な姿勢も、ドル円相場にとっては波乱要因だが、今年もまた、年後半は年前半のレンジを大きく抜けられそうにない。

佐々木融氏(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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