August 3, 2018 / 10:02 AM / 2 months ago

コラム:日銀「政策ダイエット」後の円相場シナリオ=佐々木融氏

[東京 3日] - 日銀は7月31日、金融政策の微調整をいくつか実施した。主なメッセージは以下の3つだと筆者は考える。

 8月3日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、日銀の政策微調整を受けて、今後日本の10年国債金利が仮に0.2%や0.3%に上昇したとしても円相場には大きな影響を与えないだろうと予想。写真は日本の国旗と円。シンガポールで2017年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White)

1)物価の上昇圧力が予想以上に弱いことは認めざるを得ない。

2)従って、従来予想していた以上の長い期間にわたって異例の超金融緩和政策を続けなければならない。

3)しかし、現状のやや強引な超金融緩和政策をあまりに長期間続けていると、市場機能の低下など、さまざまな副作用も出てくる。ゆえに、副作用が必要以上に大きくならない形での、長期戦の超金融緩和政策を続ける。

この例えが適切かどうかは分からないが、ダイエットをしようと思う人が水だけ飲んで生活すれば、体重は手っ取り早く減るかもしれない。しかし、短期間ならいざ知らず、なかなか体重が減らないからと、そのように過激なダイエットを長期間続けたら、生命の危機にさらされる。

時間をかけてダイエットを行う覚悟がある人には、それなりのやり方がある。日銀が7月会合で示したのは、まさにそうしたことだと思う。これで、日本の金融資本市場はある程度健全さを取り戻すことができそうだ。

<なぜ円安方向に動いたか>

実際、日銀が実施した政策微調整は、市場が期待ないし予想していたものをほぼ全て網羅していたという点に鑑みれば、平均的な市場の期待以上の微調整だったと言えるのではないだろうか。

さらに、こうした網羅的な微調整にもかかわらず、マーケットに悪影響を与えなかったという点において、市場の期待のコントロールから微調整の方法に至るまで上手なやり方だったと言えそうだ。

特に為替・株式市場に悪影響を与えなかったという点で、日銀と日本の市場参加者とのコミュニケーションが改善していると感じる。これは今後の日本経済にとって好ましいことだと言える。

むろん、表面的な方向性だけみれば、7月会合での政策微調整は緩和と逆方向に映るが、日銀は今回、金融政策を緩和方向か引き締め方向かのどちらかに動かそうとしたわけではない。そこを議論する必要はあまりないだろう。

筆者は7月9日付のコラム「市場は日銀に何を求めているのか」で、日銀は長期金利の上昇をもう少し許容すべきだと書いたが、その際、日銀がそうしても「さほど」円高にはならないと指摘した。「さほど」と書いた裏には、多少は円高になるだろうとの読みがあったわけだが、実際には円安に動いた。日銀が金融政策の微調整を発表してから約27時間でドル円相場は1%程度上昇した。

こうした動きとなった背景としては、日銀決定会合の1週間余り前から、イールドカーブ・コントロール政策の柔軟化の可能性について各メディアが報道していたため、すでに円高が進んでいたことも考えられる。日銀の政策発表後に円安になったのは、ポジションの手じまいという面が強かったのだろう。典型的な「うわさで買って、事実で売る」展開が円相場で起きたと言えるだろう。

もう1つ重要な点は、日本の長期金利が上昇すると、欧米の長期金利が上昇してしまうことだ。日本の長期金利が上昇したら円が買われるとのロジックの裏には、日米・日欧長期金利差が縮小するという考えがあるが、実際には欧米の長期金利も一緒に上昇してしまうので、金利差は縮小しなかった。

欧米の長期金利がこうした動きをするのは、日本の投資家が欧米債券を売却して、金利が高くなった日本の国債を購入するのではないかとの思惑が高まるからだ。こうした思惑は今後も続くと考えられるため、今後日本の10年国債金利が仮に0.2%、もしくは0.3%に上昇したとしても円相場には大きな影響を与えないだろう。

<日米新通商協議に要警戒>

さて、市場参加者は変わり身が早く、円相場は日銀の次の材料に目を向け始めている可能性がある。次に円相場にとって重要なのは、8月9日から始まる日米間の新通商協議(FFR)だろう。

これも今はあまり警戒している人はいないかもしれないが、トランプ米大統領がツイッタ―でつぶやけば一晩であっと言う間に最重要材料になってしまうので要注意だ。

日本の対米貿易はそもそも偏っている。通関ベースでみると、日本の昨年の貿易収支は全体で2.9兆円の黒字だが、対米黒字は7.0兆円と倍以上になっている。そして、その対米黒字の半分以上の4.5兆円が自動車の貿易黒字だ。

補足すれば、日本は米国に4.6兆円の自動車を輸出しているが、日本は米国から0.1兆円しか自動車を輸入していない。欧州との自動車貿易はバランスしているので、米国とのアンバランスは日本に原因があるわけではない。しかし、そう言って分かってもらえそうな相手でもなさそうだ。

また、米財務省は半期為替報告の中で円は実質実効レートベースでみて過去20年間の平均から25%も割安になっていると指摘している。こうした点をトランプ大統領が口にし始めると、円高・ドル安方向に比較的大きな圧力をかけてしまうことになる。

佐々木融氏(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below