December 3, 2018 / 4:52 AM / 12 days ago

コラム:米中貿易休戦、1ドル115円台試す展開に=佐々木融氏

[東京 3日] - トランプ米大統領と習近平・中国国家主席がアルゼンチンのブエノスアイレスで1日会談し、米中貿易摩擦がいったん休戦を迎えたことで、2019年1─3月期の中国経済見通しにはポジティブな結果となった。

 12月3日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新たな協定「USMCA」も正式調印され、米国を中心とした国際社会との通商摩擦はいったん年末年始の休戦期間に入ったと指摘。写真は中国の習近平国家主席とトランプ米大統領が握手をするところ。2017年11月に北京で撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

もともとJPモルガンのエコノミストは、米政府による追加関税引き上げの可能性を踏まえ、同期間の中国成長率を前期比年率プラス5.9%と、18年10─12月期の同プラス6.1%から鈍化すると予想していた。しかし、今回の結果を受けて、第1・四半期の成長率鈍化は避けられる可能性が高まった。ここ4─5週間は安定している中国株式市場が反発基調となれば、市場のセンチメント全体にもプラスの影響を与えると考えられる。

また、ブエノスアイレスでは米中首脳会談に先立ち、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国、カナダ、メキシコの新たな貿易協定「USMCA」も正式に調印された。各国議会による承認がこれから必要だが、 米国を中心とした国際社会との通商摩擦は、いったん年末年始の休戦期間に入ったと言えそうだ。

<約1年9カ月ぶりの展開に>

こうした動きを受け、円相場はどのように動くだろうか。リスクテイクに対する投資家のセンチメントが改善すれば、一段と円安基調が強まる可能性が高い。ドル円相場は17年半ば以降、4回ほど114円台半ばまで上昇した後に反落しており、上抜けに失敗してきた。今度こそ、17年3月14日以来、約1年9カ月ぶりに115円台乗せを試す展開となるかもしれない。

リスクセンチメントの改善を後押ししそうな要因はほかにもある。12月5日には米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が上下両院の合同経済委員会で証言を行うほか、FRBが地区連銀経済報告(ベージュブック)を公表する(ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の葬儀で日程変更の可能性もある)。7日には11月米雇用統計の発表が予定されている。

足元のフェデラル・ファンド(FF)金利先物市場は、年内は9日の1回、来年は1.2回程度しかFRBの利上げを織り込んでいないため、さらなる利上げ期待の後退を招くにはハードルが高い。しかし、ある程度利上げのペースが遅くなる可能性を示唆する内容となれば、市場のセンチメントにポジティブな影響を与えそうだ。

パウエル議長による11月28日のハト派的な発言以降、FRBの利上げ期待とドル円相場は相関を崩し始めており、「利上げ期待後退はドル安」という関係にはなっていない。利上げ期待後退によるリスクセンチメントの好転から円安となり、ドル円相場の上昇につながると見たほうが良さそうだ。

<米中協議、90日で合意可能か>

もちろん、これで市場の懸念がなくなるわけではない。米国の通商政策が、来年も市場の大きな懸念材料として残ることは間違いない。

米中首脳が今回合意した90日間の通商協議に関しては、中国に進出した多国籍企業に技術の移転を義務付ける強制技術移転や、知的財産などの問題をこの期間内で片付けるのは困難と考えられる。

さらに、90日間の猶予が終了する3月1日は全国人民代表大会(全人代)直前となるため、中国にとっては微妙なタイミングに重なる(中国側は来年1月1日からの90日間、つまり3月31日までとだと解釈していると取れるような報道もある)。

交渉がまとまとまらなければ、4月半ばに米財務省が公表する「半期為替報告書」で中国が為替操作国に認定される可能性も高まる。また、中国側は、米国がすでに25%の関税を課している500億ドル(約5.7兆円)分の制裁措置も取り消す方向で議論するとしているが、米国側はこれについて言及していない。

<日米交渉への影響>

来年1月半ばから交渉が始まる日米間の物品貿易協定(TAG)に関しては、米国側がブエノスアイレスでの成果を受けて、日本にも多大な妥協を迫る可能性がある。日本の対米貿易黒字7兆円のうち、4兆5000億円は自動車輸出である。報道によると、日本政府は最大9機の早期警戒機E2Dを約3000億円、最大100機のF35戦闘機を最大1兆円で追加購入することを検討しているようだが、自動車でも何らかの圧力を受ける可能性は小さくはないだろう。

USMCAに盛り込まれた「為替条項」を日米TAGに加えることも、米側は要求してくるかもしれない。この為替条項は日本の為替政策、金融政策の手足を縛るような内容ではないが、協定に含めるかどうかを巡る両国の意見の隔たりが、円相場に影響を与える可能性は排除できない。

このほか、目先のイベントとしては、4日から英議会で欧州連合(EU)離脱案(ブレグジット)の審議がスタートし、11日には採決が予定されている。結果次第では、センチメントが再び悪化するリスクも意識しておいたほうが良いだろう。

佐々木融氏(写真は筆者提供)

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(編集:久保信博)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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