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コラム:ドル110円前倒しも、円高加速の岐路に=佐々木融氏
2016年2月9日 / 10:14 / 2年後

コラム:ドル110円前倒しも、円高加速の岐路に=佐々木融氏

[東京 9日] - ドル円相場は東京時間の9日午前、ついに115円を下抜け、2014年11月以来、およそ1年3カ月ぶりとなる114円台まで下落した。

年明けの120円台からすでに5%近く下落していることになるが、主要国通貨の年初来騰落率をみると、最も強いのが円、次がユーロで、米ドルは上から5番目と中位に位置している。一方、最も弱いのがオーストラリアドルとニュージーランドドルで、それぞれ対円で8%程度も下落している。

つまり、年初来の円高は典型的な「リスクオフ相場」と言って良いだろう。中国をはじめとする新興国経済に対する懸念が続く中、昨年第4四半期に米国やユーロ圏経済もスローダウンし始め、投資家の不安感が一層高まっていると考えられる。

また、そうした流れが、日銀によるマイナス金利導入をもってしても止まらなかったことで、不安感があおられた可能性もありそうだ。

筆者は3月末頃にドル円相場が115円程度まで下落すると予想していたため、予想を上回るペースで円高が進んでいると言える。こうなると、年末時点の予想レートである110円も早い段階で実現する可能性も考えられる。その大きなカギを握るのは、以下説明するように、日本の投資家・企業かもしれない。

<経常収支と直接投資に絡むフローは円買いに転換>

財務省が8日公表した2015年の国際収支データを用いてフローの分析をしてみると、日本の投資家・企業が円高の「運命」を握っていることがよく分かる。

国際収支データによると、2015年1年間の経常収支は16.6兆円の黒字となり、前年に比べ黒字額が6.3倍、金額にして14.0兆円も増加した。実は過去、これほど経常黒字が急増したことはない。演出したのは、貿易収支の改善である。15年の貿易赤字は0.6兆円と、14年の10.4兆円から9.8兆円も改善した。

加えて、第1次所得収支の黒字拡大が経常黒字拡大に寄与した。15年の第1次所得収支は前年比2.7兆円増加し、初めて20兆円台に乗せた(15年中の経常黒字は全て第1次所得収支が稼いだ)。

また、日本企業の海外進出の流れが続いていることを受け、15年は対外直接投資も16.0兆円と過去最高を記録した。

筆者は、円を売却する形で行われる直接投資は全体の半分程度と推計している。したがって、経常黒字から、再投資収益(15年は3.5兆円)と直接投資の半分を差し引いた額が、経常収支と直接投資を通じた円売買額と推計される。それによれば、15年は5.1兆円の円買いと、3年連続の円売りから転じる結果となった。

<損切りの円買い戻しで一段の円高も>

一方、対外証券投資に目を向けると、15年中の動きで目立ったのは、外国株投資の急増である。国内投資家の外国株買い越し額は13.5兆円と過去最高を記録した。内訳は信託勘定(年金基金)が6.4兆円、投信が6.2兆円の買い越しとなっている。

当社は国内投資家による外国株投資は全て為替ヘッジ無しと想定しており、同じく為替ヘッジ無しと想定される外国債券投資(3.8兆円)を加えると、15年中の国内投資家による対外証券投資に絡む円売りは17.3兆円に上ったと考えられる。

経常収支と対外直接投資に絡むフローからの推計円買い額が5.1兆円で、国内投資家による対外証券投資に絡むフローからの推計円売り額が17.3兆円、これに外国人投資家による日本株買いのフローの一部が為替ヘッジ無しだったと想定すると、15年中に国境をまたいで、円相場に影響があったと想定されるフローは11.8兆円の円売りとなる。14年の13.1兆円に続いて2年連続の大幅な円売りだ。

過去にさかのぼってこうしたフローをみると、米国金融危機の混乱以降、11年まではフローと円相場の方向性が同じになっている。しかし、アベノミクスが始まった12年と13年はベーシックバランスのフローがほぼゼロに近い中で急速に円安が進んでいるのが分かる。つまり、この2年間の円安は投機的な円売りにより支えられたものとみられ、円ショートポジションが大幅に積み上がった可能性が考えられる。

その後、14年は貿易赤字拡大を主因にフローが比較的大幅な円売りとなり、実効レートも円安で方向が同じとなったが、15年は引き続きフローが大幅な円売りとなったにもかかわらず、実効レートは若干円高方向に進んでいる。

それでも若干でとどまったのは、海外勢を中心に12―13年に造成されたとみられる円ショートポジションの手仕舞いが、国内投資家による対外証券投資から発生した円売りで吸収されたからだと思われる。

したがって、今後の円相場は、昨年の対外証券投資を通じて、大規模な円売りを行った国内投資家がどのように動くかがカギを握ることになろう。特に、15年中に国内投資家が大規模に投資した外国株は、現在全て含み損を抱えていると考えられる。損切りのための円買い戻しが出てくるようであれば、一段と円高が進むことになるだろう。

また、当社は日本企業が保有する海外留保利益は50兆円程度に上ると推計している。昨年末までの約3年間、円安傾向が続くと予想されていた中で、企業は海外で得た収益を国内に戻さず、海外に留保しておくインセンティブがあったのだろう。これらの留保利益の一部が円高による損失を回避するため、年度末に向けて国内に還流してくる可能性もある。

15年中に行われた過去最大、16.0兆円もの対外直接投資も、海外経済情勢の悪化、円高進行に鑑みると、投資収益が悪化しているとみられ、日本企業がリスクを避ける行動に出る可能性が高くなりそうだ。海外に留保した利益で新たな投資を行うような環境ではないかもしれない。

今後さらに円高が進むかどうかは、国内投資家と日本企業による本格的な円買い戻しが発生するか否かにかかっている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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