April 24, 2016 / 4:36 AM / 3 years ago

コラム:円安加速を阻む3つの要因=佐々木融氏

[東京 24日] - 22日金曜日は、日銀の追加緩和期待の高まりから大幅に円安が進み、ドル円相場は3週間ぶりの水準となる111.80円近辺まで上昇した。

110円を手前にした実需による円買いと、日銀の追加緩和期待を受けた短期筋による円売りとの攻防が続き、筆者は前者優勢になると見ていたが、最後は後者が勝ったようだ。

28日の日銀金融政策決定会合まで円安が進み、ドル円相場も113―114円程度まで上昇する可能性はあるだろう。ただ、急上昇した相場は急反落するリスクも大きいため、決定会合を過ぎた後は急速なドル安・円高リスクに警戒しておいたほうが良いかもしれない。

日銀が今後打ち出せる策としては、上場投資信託(ETF)の購入額追加など、株式市場に影響を与えるものもまだあるが、円相場を押し下げるような手段はあまり残されていない。また、国際的な圧力を考えると、何かしらの形で円相場に影響を与える可能性のある手段をとることは考えづらい。

加えて、28日から2015年度決算発表を行う企業が増え始め、ゴールデンウィーク明けの5月第2週に決算発表が本格化するが、今回の決算発表は多くの株式アナリストがレポートの執筆スタイルを変更しているため、予想外の結果が続出する可能性がある。株価が大きく上下動するリスクには要注意だ。ボラティリティーの上昇は円の買い戻しにつながる可能性もある。

<日銀とGPIFの再共演でも円安効果は限定的>

中長期的に見ても、トレンドは引き続き円高方向にあり、日銀による金融緩和が円安方向への大きな動きのきっかけになる可能性は小さいと見ている。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は昨年、14年度の運用結果を7月上旬に公表したが、15年度については、参議院選挙前となってしまうことを避けるためか、7月29日に発表するとしている。この日は日銀の金融政策決定会合も予定されており、14年10月31日のように、日銀による追加緩和とGPIFによるアセットアロケーションの変更が同時に発表される可能性がある演出となっている。

筆者は、日銀とGPIFが再び同時に行動を起こす可能性はそれなりに高いのではないかと考えている。しかし、それでも当時のようにドル円相場が109円台から121円台まで、1カ月強で10%以上も上昇するような動きにはならないと考えている。

それには大きく分けて3つの理由がある。

まず、第1に貿易収支が当時と現在では全く正反対となっていることだ。月別の貿易収支(通関統計)を3カ月移動平均で見ると、直近の貿易収支は1165億円と、アベノミクス開始後初めて黒字となった。一方、14年10月、11月近辺の貿易収支は3カ月移動平均で9000億円弱の大幅な赤字だった。

また、季節性を考慮して、1―3月期の合計で貿易収支を見ると、今年1―3月期の貿易収支合計額は3494億円の黒字と、10年1―3月期以来の黒字幅となっている。ちなみに、14年1―3月期の貿易収支合計額は5.1兆円の赤字、15年1―3月期は1.4兆円の赤字となっている。足元の貿易収支がいかに急速に改善しているかが分かる。

第2の理由は、証券投資フローである。前述の通りGPIFは14年10月31日に、基本ポートフォリオの見直しを発表し、リスク性資産の保有比率を高めることを発表したが、年金基金はその年の夏頃からすでに外貨建て資産投資を活発化させていた。もっとも、直近の国内投資家による外国株投資は4週連続の売り越しとなっており、4週間の合計売り越し額は7900億円に上っている。4週連続売り越しは14年2月以来のことだ。

今年の2月から3月は国内投資家による外債投資が8.8兆円にも膨らんだが、そのほとんどは為替ヘッジ付と考えられ、為替相場への影響は限定的だ。

<14年10月当時とは大きく異なるドルの動き>

第3の理由はドルの動きだ。前述の通り、14年10月31日の日銀による追加緩和とGPIFの基本ポートフォリオ変更発表から、12月8日にいったんのピークをつけるまでドル円相場は1カ月強の間に10%超上昇した。

しかし、その間の主要通貨の騰落率を見ると、円は確かに最弱通貨だが、一方でドルが圧倒的に最強通貨となっていた。つまり、当時のドル円相場の急上昇は、「ドル高」の要素も強かったと言える。ちなみに、同期間の豪ドル円相場は3%程度しか円安になっていない。

ドル名目実効レートは、14年7月頃から急速な上昇トレンドに入っており、同年10月31日から12月8日はまさにその真っただ中だった。同期間のドル名目実効レートは4.5%程度上昇しているが、長期的に見れば、このドル上昇トレンドは今年1月まで続いている。

その後、ドルは下落トレンドに入り、過去3カ月で6%弱下落している。本コラムでも何度か指摘している通り、ドルは米国が利上げ局面に入ると逆に下落トレンドに入る傾向がある。ドルの動きは14年10月から12月当時とは全く逆なのだ。

このようにドル円相場を取り巻く環境は、日銀が追加緩和を行い、GPIFが基本ポートフォリオの変更を同時に発表した14年10月31日当時とは大きく異なっている。日銀による追加緩和期待、ないしは実際の追加緩和による円安効果は、今年1月29日と同様に限定的なものとなるだろう。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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