May 12, 2016 / 6:46 AM / 2 years ago

コラム:マイナス金利を輸出し始めた日本=佐々木融氏

[東京 12日] - 財務省が12日発表した3月の経常収支は2.98兆円の黒字と、黒字額としては2007年3月以来9年ぶりの高水準となった。1―3月合計では5.9兆円。経常黒字が急速に拡大した昨年の同時期に比べても36%増加している。昨年以降の、国際収支から発生する円の需給変化が依然、続いていることが分かる。

さらに、証券投資のフローも明らかに変化し始めた。国内投資家は4月に外国株を1.0兆円売り越した。国内投資家が外国株を売り越すのは2014年11月以来1年半ぶりのことだ。外国株の売り主体は投信で、0.8兆円の売り越しとなった。これは統計が遡れる05年以降で最大の売り越し額だ。

投信は14年12月から今年3月までの16カ月間で7.4兆円もの外国株を買い越した。そして、今やそのほとんどが含み損を抱えていると考えられる。今後も損失確定の外国株売り、つまり円の買い戻しが続く可能性は高い。経常収支、証券投資双方の側面から見て、今後も円高基調が続く公算は大きいのである。

<円安効果を伴わないポートフォリオリバランス>

一方で、国内投資家による外国債券投資はかなりの勢いで行われている。今年2月から4月の3カ月間で国内投資家は外債を9.4兆円も買い越した。しかし、そのうち6.9兆円は銀行と生保によるもので、ほとんどが為替リスクを取らない形での投資で、円売りにはつながっていないと考えられる。

国内投資家が3カ月間でこれだけ多額の外債投資を行ったのは10年央以来約5年半ぶりのことだ。また、生保に限って見ると、この3カ月間で外債買い越し額は3.4兆円に上り、これは統計が遡れる05年以来最大の買い越しとなっている。

銀行や生保が2月以降、これだけ多額の外債投資を行い始めたのは、1月29日に日銀がマイナス金利を導入したためと考えられる。日銀がマイナス金利を導入してから、日本国債利回りは、10年がマイナス圏に落ち込み、30年でも0.3%台まで急落している。つまり、まともにリターンを稼げるような国債が日本には無くなってきているのだ。だから、銀行や生保は外債に目を向け始めている。

これだけ見れば、まさに日銀が狙った通りのポートフォリオリバランスが起きているように思えるが、残念ながら、銀行や生保はマイナス金利導入により、先行きの収益に対する懸念を強めている。こうした状況で大きなリスクを取ることはできない。したがって、ほとんどが為替リスクを取らない、為替ヘッジ付での外債投資となってしまっている。

為替ヘッジ付の外債投資は、日本国債に投資をしているのとほぼ同じようなリスク量で、より高いリターンを稼げる可能性がある。すなわち、為替ヘッジ付の外債投資は、日本国債投資の代替手段となっていると言えるのだ。

つまり、日銀の量的・質的緩和とマイナス金利の組み合わせは、強烈なポートフォリオリバランス効果を発揮していると言うことはできそうだ。ただし、それに付随して起こることが期待されていた円安効果は出現していない。むしろ、為替への影響としては、円高方向への影響を与えてしまっている可能性さえある。

というのも、国内投資家がこれだけ大量に外債投資を行っているということは、欧米の長期金利を本来あるべき水準より押し下げている可能性があるからだ。

現在、日本の投資家はドルの為替リスクをヘッジする際に余分なコストを払うことを強いられているが、それでも米10年国債利回りから1.3―1.4%程度差し引いた利回りが日本の30年国債利回りよりも高ければ、為替ヘッジ付で米10年国債に投資した方が、同じようなリスク量で、より高いリターンが得られる。

日本からこうした投資が今後も大量に米国に流れるとすれば、米10年国債利回りは、日本国債利回りからそれほど高い水準まで上昇しなくなることも考えられる。日本国債市場と米国債市場が、国内投資家の投資行動を通じて、半ば一体化してしまうようなイメージだ。

<政策効果は国内より海外の実体経済に波及か>

こうした状況下で米国景気が順調に回復し、同国のインフレ期待が緩やかに上昇していくのであれば、米実質金利は低下する。つまり、日銀が行っている量的・質的緩和政策とマイナス金利政策の組み合わせは、欧米の実質金利を押し下げて、円高圧力の高まりに貢献してしまっている可能性も否定はできないのである。

日銀による量的・質的緩和とマイナス金利政策は、銀行や生保のヘッジ付外債投資を通じて欧米諸国に輸出されているとも言えるかもしれない。日銀はマイナス金利政策の効果が国内の実体経済に波及していくには、ある程度時間が必要としているが、これだけ国境を越えた資本の移動が自由かつ活発に行われる世界では、期待された同政策効果が国内の実体経済には波及せず、むしろ諸外国の実体経済に波及してしまうことも考えられるのではないだろうか。

ちなみに、国別データは3月分までしか公表されていないが、2月と3月の2カ月間で、国内投資家による米国向け債券投資額は6.8兆円にも達している。これは統計が遡れる05年以来で最大の額だ。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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