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コラム:英離脱に過剰反応、ドル90円台定着は来年=佐々木融氏

[東京 25日] - 23日に英国で行われた欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票は、51.9%対48.1%で離脱派が勝利した。投票率は72.2%と比較的高く、英国民は43年間続いた欧州における共同体メンバーというステータスを捨てることを決断した。この結果を受け、キャメロン首相は10月までに辞任する意向を示した。

 6月25日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、英国民投票の離脱派勝利を受けた99円台へのドル円急落は過剰反応であり、当面は100円から105円のレンジで推移する可能性が高いと予想。提供写真(2016年 ロイター)

歴史的な出来事を目の当たりにして、24日の市場は大荒れとなった。

為替市場における最も大きな動きは、離脱派勝利の可能性が急速に高まった日本時間のお昼前後に発生し、その後の欧米市場では比較的穏やかな動きにとどまった。主要通貨(エマージング通貨含む)では、英ポンドが独歩安、円が独歩高となった。

ポンドドル相場は一時、1985年以来約30年ぶりとなる1.32ドル台まで急落。ポンド円相場の下落率は当初15%を上回り、2012年12月以来約3年半ぶりとなる133円台までポンド安円高が進んだが、その後やや値を戻し、24日一日を通じた下落率は11%となった。ユーロ円相場も同様に、12年12月以来となる109円台まで、いったんユーロ安円高方向に急激に動いた後、小反発した。

円の次に強い通貨は米ドルだったが、ドル円相場の下落率も一時7%に達し(13年11月以来約2年半ぶりとなる99円ちょうどまでドル安円高が進行)、一日を通じても3.7%の下落となった。

株式市場では日経平均株価が7.9%急落、年初来安値を更新した(一時14年10月以来の安値を記録)。ハンセン(2.9%下落)や上海総合(1.3%下落)に比べて弱さが目立ち、当事国である英国のFTSE100(3.2%下落)や、独DAX(6.8%下落)よりも下落幅が大きくなっている。

もっとも、欧州主要国の株価の中では、週末に総選挙を控えていたスペインのIBEX35指数(12.4%下落)とイタリアのFTSE・MIB指数(12.5%下落)の弱さが目立っている。ちなみに、米S&P500指数は3.6%の下落にとどまった。

主要各国の長期金利も大きく低下した。日本の30年国債利回りは過去最低となる0.13%まで一時低下。英国とドイツの10年国債利回りもそれぞれ過去最低となる1.01%とマイナス0.16%まで一時大きく低下した。周辺国国債の対独スプレッドは拡大し、特にドイツとスペインの10年国債利回り差は167ベーシスポイント(bp)と14年5月以来約2年ぶりの水準まで拡大している。

米10年国債利回りは一時12年7月以来約4年ぶりとなる1.40%近辺まで急落。金曜日のニューヨーク(NY)引けベースで見ても1.56%と、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和第三弾(QE3)を開始する直前の12年8月以来の水準まで低下している。これで、フェデラルファンド(FF)金利先物がFRBによる1回の利上げを100%織り込んでいるのは18年7月となってしまった。

<目先の取引レンジは1ドル100円から105円か>

当社は、英国のEU残留を予測していたが、仮に離脱派が勝利した場合、ドル円は101円程度まで下落すると予想していた。したがって、99円ちょうどまでの下落は予想を上回るものだった。

しかし、過去1カ月ほど相関を強めている日米金利差から見ると、2年金利差、10年金利差のいずれとも整合的なドル円の水準は102―103円程度である。100円を割り込んだ後、すぐに103円台に戻し、結局102円台前半でNYの取引を終えたのは順当な動きだったことを示唆している。

また、今後2年間利上げを織り込んでいないことに鑑みると、米金利の低下も過剰反応の感があり、この点からも、ドル円が短期的にさらに下げ足を強める可能性は低そうに見える。

今回の結果は、経済的にも政治的にも、英国および他の欧州諸国に多大なショックを与えることになるだろう。ただ、このショックは基本的に欧州に限定されたものであり、世界全体を巻き込むことはないと見ている。

もちろん、長期的には欧州域外に対する影響も無視できないかもしれないが、今後1年間の日本や米国経済に対する影響は極めて限定的と言えそうだ。08年のリーマンショックのように、これをきっかけに金融危機に至るような性質のものでもないと考えられる。

筆者は、来年に向けてドル円は90円台へ下落していくと予想しているが、現段階では99円への円高は過剰反応であり、さらなる円高進行の可能性は高くないと見ている。ただ、英国経済・政治に関する不透明感が払しょくされるまでは投資家のリスク回避姿勢が強まりやすく、また米国の早期利上げが難しくなったと見られることから、105円を超えて上昇するのも難しいだろう。したがって、目先数カ月程度は100円から105円のレンジ内で推移する可能性が高いだろう。

また、日経平均株価の急落も、ドル円の急落に対する過剰反応だと捉えている。年初からのドル円と日経平均株価の相関関係は必ずしも高くはないが、それでも1ドル=103円台と整合的な日経平均株価は1万5500円前後となる。欧州へのエクスポージャーが大きい企業の収益に対する懸念が高まることは否めないが、日本企業の収益全体に大きな影響を与えるといった結果にはならないだろう。

当社は、ポンドドル相場はEU離脱の際には1.32ドルまで下落すると予想していた。したがって、ポンドはすでにターゲットに達している。しかし、英国のEU離脱シナリオが現実化したことに伴う大規模なヘッジのポンド売りを招来する可能性があることから、短期的にポンドが一段と下落する可能性は排除できない。

目先、ポンドの動きに影響を及ぼす可能性がある要因としては、1)新政権の動向、2)他のEU諸国の反応、3)スコットランド要因、すなわち独立を問う住民投票再実施の可能性、4)英中銀の反応、5)ポンド買い介入の有無、などが挙げられる。

ちなみに、当社は、EU離脱を受けて英中銀は7月と8月に25bpずつの利下げを実施すると予想を変更した。また、英中銀は通貨安の金融緩和効果をむしろ歓迎すると見ており、ポンド買い介入の可能性は低いと考えている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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