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コラム:日本株を押し上げる「ドルの次に弱い円」=佐々木融氏
September 22, 2017 / 12:53 AM / in 3 months

コラム:日本株を押し上げる「ドルの次に弱い円」=佐々木融氏

[東京 22日] - 19―20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果はほぼ事前の予想通りとなったが、米金利が上昇し、ドル全面高の展開となった。もっとも、米金利の上昇に比べると、ドルの反発度合いは小さい。

例えば、米10年国債金利は8月中頃の水準まで上昇しているが、ドル名目実効レートは当時から直近のボトムまでの下落分の3割程度しか戻していない。また、FOMCによる来年末までの利上げ織り込み回数は約1.8回と7月上旬並みにまで増加してきたが、現在のドル名目実効レートは当時に比べて3%以上もドル安水準だ。

今年のドルは年初からほぼ一貫して下落基調を続け、先週以降やや下げ止まっているが、戻りは弱い。当社が指摘してきた通り、トランプ米政権の保護主義的姿勢と、新興国経済の復活を受けたドルから新興諸国への資本逆流によるドル安の根は深いと考えられる。

<円下落の背景、主に3つの原因>

ドルがさほど強くない中でも、ドル円相場は過去2週間弱で107円台から112円台まで急速に上昇した。この背景にあるのは円の下落だ。

北朝鮮による何らかの行動が懸念された9月9日の北朝鮮建国記念日が何事もなく過ぎたためか、円は主要通貨全般に対して下落を始め、名目実効レートベースでみると過去2週間弱で2.9%も下落した。5月上旬以来の急落ペースであり、2016年3月以来1年半ぶりの水準まで下落している。この結果、年初来でみると、円はドルの次に弱い通貨となっている。

この背景には、主に3つの原因があると考えられる。

まず、世界経済が安定的に拡大を続けており、市場参加者のリスク許容度が高くなっていることだ。

世界経済の成長率は2012年から昨年までの5年間、前年比2.6%から3.0%の狭いレンジ内で推移し続けている。過去25年間、ここまで長い間、かくも狭い成長率レンジで推移したことはない。

さらに、今年の世界経済成長率についても、当社は前年比3.1%と予想しており、過去5年間のレンジの上限に近い。このように安定した世界経済が、市場のボラティリティーを低下させている結果、市場参加者のリスク許容度が高くなり、円が資本調達通貨として売られる傾向が強まっているものと考えられる。

第2に、本邦企業による対外直接投資の拡大だ。日本の対外直接投資(ネット)はアベノミクスが始動した2013年以降、それまで超えたことのない10兆円を毎年上回るようになった。そして、今年はそれがさらに加速し、1―7月ですでに10.4兆円を記録している。

安定的に成長する世界経済を背景に、本邦企業の財務基盤が強くなっている一方、日本国内には相変わらず魅力的な投資機会がないことがこうした動きの背景にあると考えられる。対外直接投資のフローの半分程度は実際に円売りを伴っている可能性があり、円安に寄与しているとみられる。

第3に、本邦投資家による対外証券投資の増加だ。本邦投資家の対外証券投資は公的年金基金が運用姿勢を積極化し始めた2014年後半から2015年中を通じて活発化したが、その後2016年から2017年前半までは下火になっていた。もっとも、今年5月以降再び活発化し、5月から8月まで毎月1兆円以上の外国株式投資が行われ、4カ月の累計投資額は4.6兆円に上っている。

2015年当時は4カ月で5.8兆円の投資が行われたこともあるが、それに準ずるペースでの投資が続いている。当時と異なり外国株式投資の主体が投資信託となっているため、外株投資に伴う円売りがどの程度出ているか定かではないが、円安の動きに一定程度寄与していることは間違いない。

<株価への影響はドル円よりクロス円が鍵>

さて、ドル円相場と日経平均株価の相関が高いことはよく知られているが、過去1年間の相関をみると、ドル円相場の上値が重いにもかかわらず、日経平均株価の上昇が続いている。ドル円相場は依然として年初のレベルから5%程度ドル安・円高水準にあるのに、日経平均株価は2015年8月以来約2年ぶりの水準まで上昇している。

しかし、前述した通り、ドル円相場の上値の重さは、主にドルの弱さが理由で、円は総合的にみて軟調に推移している。そこで、円名目実効レートと日経平均株価を比較してみると、両者の相関が比較的高いことが分かる。

つまり、日本の株式市場は最弱通貨ドルと円の交換レートであるドル円相場に見切りをつけ、円の全体的な強弱を示す円名目実効レートに着目した動きを始めたようにみえるのだ。

ドル円相場はドルが弱いためここからの上昇はそれほど多くを望めず、恐らく114円台に乗せられるかどうかという程度だろう。しかし、ドルと円が両方とも弱い状況が続けば、クロス円での円安基調は続き、結果として円名目実効レートはさらに下落を続ける可能性がある。

円名目実効レートは2015年6月につけたボトムに比べればまだ14%も高い。過去1年間の相関関係がそのまま続くとすると、円名目実効レートで1%円安が進むと日経平均株価が300円程度上昇する計算となる。日経平均株価は、円安が現状レベルから5%進むと、2万1700円程度、10%なら2万3100円程度まで上昇する計算となる。

今後、為替相場から日経平均株価への影響を考える上では、ドル円相場ではなく、円名目実効レート、つまり、ユーロ円、英ポンド円、豪ドル円などのクロス円の動向を幅広くみていく必要があるだろう。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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