February 20, 2018 / 9:35 AM / 4 months ago

コラム:株と為替と金利、相関はなぜ崩れたのか=佐々木融氏

[東京 20日] - 世界的な株価急落を受け、為替相場は2月に入って以降、しばらく円高・ドル高となったが、ボラティリティ―・インデックス(VIX指数)の急騰ぶりに比べると、円の上昇は限定的なものにとどまっていた。

しかし、先週(2月12日週)に入ると、日経平均株価を含む世界の株価が反発し、VIX指数も急落。世界の金融資本市場は落ち着きを取り戻したが、円の上昇は止まらず、むしろ加速した。

さらに、先週はドルが再び下落基調に戻ったため、円高・ドル安となり、ドル円相場は2016年11月以来となる105円台まで急落した。先週1週間で見ると、円は主要通貨の中で「最強通貨」、ドルは「最弱通貨」となったのだ。

<企業収益の為替離れと海外勢のヘッジ外し>

なぜ、日経平均株価が反発しても円高は続いたのだろうか。先週の木曜日と金曜日に日経平均株価は反発し、2日間で2.7%も上昇した。それでも、この2日間で円は独歩高となった。本日(20日)は逆に、円安でも日経平均株価は下落している。

しかし、もともと日経平均株価とドル円相場の相関関係は昨年秋ごろから不安定な状況が続いている。その背景としては、以下の2点が考えられる。

第1に、内需主導型企業の収益改善により、2016年ごろから企業収益とドル円相場の相関関係が弱まっている。つまり、日本の企業収益全体の「為替離れ」が生じていると考えられる。

第2に、実質ベースで見ると、円は歴史的な割安水準にあることから、海外投資家が為替ヘッジなしで日本株を買い始めている可能性がある。日本株を買うために、円を買うことになるため、日経平均株価は押し上げるが、ドル円の上値は抑えることになる。

つまり、今後も日経平均株価と円相場の間に相関があるとの前提に立たない方が良いとも言えるだろう。むしろ、海外投資家が日本株を買うと円高圧力が強まると見始めた方が良いのかもしれない。

以前、本コラムでも検証したことがあったが、そもそも日経平均株価とドル円相場の強い正の相関関係が続いたのは、過去10年程度でしかなく、かつテクニカルな要因もかなり影響していた可能性が高い。

<投機筋の損切りと季節的フローも影響か>

しかし、日経平均株価との相関はともかく、世界の株価が反発しているのに、なぜ円高が続くのかという疑問は引き続き残る。これに関しては、以下の2点が可能性として考えられる。

第1に、ドル円相場が昨年のレンジの下限に近づいたところでドル安トレンドが再開してしまったため、投機的な円ショート・ポジションが損切りを余儀なくさせられている可能性だ。シカゴIMM通貨先物における投機的ポジション・データによると、先週火曜日(13日)の時点で円ショートはやや増加しており、その後の円上昇でポジションが減少しているかが注目される。

第2に、季節的な円買いのフローが出ている可能性だ。2月に米国債の償還や利払いなどが膨らむことによって、2月半ばから3月半ばに円高になる傾向がある。

ただし、こうした季節的な円高は本来、もう少しタイミングが遅く発生する傾向がある。毎年、2月21日から3月17日(週末にあたる時はその翌営業日)という期間のドル円相場の動きを見ると、過去15年間で11回も円高になっている。

もちろん、年によって期間や円高度合いにばらつきがあり、今回はこうした影響が早めに出てきているのかもしれない。例えば、2016年は今回同様2月前半で円高が急速に進み、その後しばらく横ばいとなっている。

<春先には110―112円台に戻る可能性も>

最後に、日米金利差が拡大しても、ドル円相場が下落基調をたどったのはなぜなのだろうか。

日米金利差とドル円相場に関しては、1月末から2月初頭にかけて一時的に正の相関が回復したものの、もともと2018年初以来、逆相関関係を強めていた。「日米金利差拡大=ドル円下落」となっていた背景としては、以下の2点が指摘できる。

第1に、ドルと米長期金利の逆相関関係が年初来、強まっていることだ(米長期金利上昇=ドル売り)。単純に考えれば、世界の投資家が米国債売り、ドルを売っている可能性が考えられる。

第2に、円の名目実効レートと米長期金利の関係は通常、逆相関関係(米長期金利上昇=円安)だが、1月後半ごろから急速に正の相関関係になり始めていることが指摘できる(米長期金利上昇=円高)。これも単純に考えれば、年度末に向けて本邦投資家が米国債を売り、ドルを売却している可能性を示唆している。

本邦投資家が為替ヘッジなしで米国債を保有している場合、米長期金利上昇と円高(ドル安)が同時に発生すると含み損が大幅に増加するため、損切りを余儀なくされていると考えることもできるかもしれない。ちなみに、対内対外証券投資の週間データによると、本邦投資家は先々週まで2週連続で外債を売り越しており、売り越し額は1.8兆円と多額に上っていた。

このように、株価上昇・日米金利差拡大でも円高が続いていたのは、ポジションの手じまいや季節的なフローが影響していた可能性が高いと考えられる。

なお、現時点でポジションが全て手じまわれたとは思えない。また、季節的にはむしろこれから円高圧力が強まりやすい可能性もある。従って、円高方向への動きが終了したと考えるのは少し早過ぎるかもしれない。

もっとも、世界経済は引き続き堅調であり、季節的なフロー、ポジションの手じまい以外で円が強くなる要因もあまりないため、3月半ば以降、ないしは4月以降には円が反落し、ドル円相場も110―112円台に戻るのではないかと考えている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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