March 12, 2018 / 9:53 AM / 5 months ago

コラム:日米政治リスクをしのぐ円安ドライバー=佐々木融氏

[東京 12日] - 先週(3月5日週)は円相場に影響を与えるファクターが多い週だったが、結果的に円は主要通貨の中でスイスフランに次いで2番目に弱い通貨となり、ドル円相場は週初の105円台前半から、金曜日の米2月雇用統計発表後には一時107円台まで上昇した。

円安方向への動きに影響した要素としては、以下のことが考えられる。

●ドイツ第2党・社会民主党(SPD)の党員投票結果が4日判明し、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との大連立合意が賛成多数で承認された。

●2日の衆議院での黒田東彦日銀総裁の発言を受けた円買いの影響が、6日の参議院での黒田総裁自身の発言、副総裁候補の発言で打ち消されていった。

●南北首脳会談が4月に、米朝首脳会談が5月までに行われるとの報道を受けて、北朝鮮情勢に対する懸念が後退した。

一方、円高方向に影響を与えた要素としては、米国の保護主義圧力の高まりに対する懸念が考えられる。特にコーン米国家経済会議(NEC)委員長の辞任報道は円相場を大きく上昇させた。

また、金曜日(9日)の米2月雇用統計発表後からニューヨークの取引終了までの主要通貨は、円、米ドル、スイスフランが同程度に弱く、ユーロが次に弱い一方で、豪ドル、加ドルが強くなるという典型的なリスクオンの下での動き方となった。

実際、米主要株価指数は1.7―1.8%程度上昇。ナスダック総合指数は2月の下げを全て帳消しにし、過去最高値を更新した。さらに、ボラティリティー・インデックス(VIX指数)は15を割り込み、急騰前の2月初頭以来の水準まで低下している。

<円は反落基調入りの公算大>

振り返れば、2月は円独歩高だった。2月初頭からドル円相場がボトムを付けた3月2日までの間でみると、円は主要通貨の中で2番目に強かったドルに対してさえ3%超上昇した。

2月に円が急騰した理由としては、世界的な株価急落を受けたボラティリティーの急上昇に加えて、日銀金融政策の早期正常化および米保護主義に対する懸念が挙げられる。しかし、足元、こうした2月に円相場を押し上げた要因にはすでに変化がみられ始めている。

第1に、世界的に株価は総じて下げ止まったようにみえる。前述したように、VIX指数は2月初頭のレベルに低下している。

第2に、日銀金融政策の早期正常化に対する懸念も後退したと考えられる。実際、日本国債20年金利は昨年9月以来の水準まで低下している。

第3に、米保護主義は後述するように、まだ安心はできないが、ひとまず過度な懸念は後退したように思える。トランプ米大統領は最初に花火を打ち上げる時は派手だが、着地点は意外に合理的だ。

また、米朝首脳会談が実施されるとの期待が高まり、北朝鮮情勢に対する懸念が一気に後退していることも、円安方向の要因となってくることが考えられる。

今後、年度末、新年度に向けては、海外勢の興味も本邦投資家がどの程度為替リスクをとって外債投資を行うのかという点にシフトしてくる可能性もあり、円は反落基調に入っていく公算が大きいと考える。

<米保護主義と森友文書問題の影響は>

もっとも、警戒が必要なのは、米国の保護主義的スタンスだろう。この問題については、今後一段と悪化する可能性もある。

特に数カ月のうちに結果が出てくると予想される、中国の知的財産慣行に関する米通商法第301条に基づく調査は要注意だ。これまでの第201条に基づくソーラーパネルと洗濯機に対する関税賦課、第232条に基づく鉄鋼とアルミニウムに対する輸入関税に比べれば、貿易戦争を誘発する可能性がかなり高い。

ちなみに、トランプ大統領は日本時間3月11日(日)午前2時半ごろに、「日本の安倍(晋三)首相と話した。首相は北朝鮮との協議に非常に前向きだ。われわれは、米国が対日貿易で1000億ドルもの赤字を抱える状態の解消に向けた日本市場の開放についても話し合った。(対日貿易は)公平でも、持続可能でもない。すべてうまくいくだろう」とツイートしている。

昨年の米国の対日貿易赤字は688億ドルであり、やや数字が誇張されているように思えるが、トランプ大統領が日米貿易に絡んでドル円相場の水準に言及すると危ない。

また、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書を巡るスキャンダルにより、日本の政治に不透明感が強まると、これも円高方向への圧力となる可能性もある。日本経済や企業収益に影響するような話ではないが、海外勢を中心に、安倍政権の支持率低下を材料に円を買ってくる向きは多いかもしれない。

しかし、トランプ大統領が制裁として関税を課すとした5品目(材木、ソーラーパネル、洗濯機、鉄鋼、アルミニウム)は合計しても米国の輸入額の3%、国内総生産(GDP)の0.3%にしかならない。従って、当社のエコノミストは、今回の保護主義の高まりを受けても世界の成長率予想を変更していない。つまり、今後しばらくは、世界経済、企業収益の堅調さが市場参加者のリスクテーク志向を支える可能性が高いと考えられる。

直近2月の米ISM製造業景気指数、米コンファレンス・ボード消費者信頼感指数は今回の景気拡大局面での最高レベルを更新し、新規失業保険申請件数は2月最終週に最低レベルを更新しており、当社のグローバル株式リサーチ・チームは、長期金利が上昇していても、企業収益に対しては強気である。

このように世界景気が堅調である中では、日本経済も恩恵を受け、政治の混乱による相場への影響も減殺され得る。当面は日本の政治絡みの悪いニュースに反応して、円が買われる局面もあるかもしれないが、影響は短期的、かつ限定的なものにとどまるとみている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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