May 24, 2018 / 7:20 AM / 5 months ago

コラム:世界経済に悲観無用、新興国通貨安の真相=佐々木融氏

佐々木融  JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長

 5月24日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、通貨安が新興国経済の成長率押し下げに作用し、世界経済の成長率鈍化を招くと考えるのは早計だと分析。写真は各国紙幣、フランクフルトで2017年5月撮影(2018年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

[東京 24日] - ドルは名目実効レートベースで見て4月半ばから先週まで5週間連続で上昇し、年初からの下落分を全て帳消しにした。週間ベースでは、先週の上昇率(1.2%)は過去5週間の中で最も大きい。

ドルはこの5週間、米10年国債金利の動きと相関を強めており、米長期金利上昇と短期筋によるドルショートポジションの巻き戻しとが相まって、大きな反発につながったものと考えられる。

こうした中、新興国通貨が売られており、「米長期金利上昇が新興国からの資金流出を招いている」と懸念する声が上がっている。実際、4月半ば以降、主要新興国通貨は対ドルで軒並み下落している。しかし、アルゼンチンペソとトルコリラの下落は確かに目立つものの、その他の新興国通貨の下落はそれほど大きなものとは言えない。

アルゼンチンペソとトルコリラの次に対ドルで大きく下落しているのはポーランドズロチとメキシコペソで、下落率は8%程度だが、同じ期間、ニュージーランドドルや英ポンドも対ドルで6%超下落している。

2017年初から2018年1月末のドルが下落基調をたどっていた期間に、新興国通貨は対ドルで大きく上昇していたことに鑑みれば、ドルが反発する中で新興国通貨が多少反落するのは不思議なことではない。

さらに、足元の下落幅が大きいアルゼンチンペソとトルコリラは対外ポジションの弱さや高インフレ率を背景に、そもそもドルが下落基調をたどっている時も売られており、4月中旬以降の下落の原因はドルの上昇だけではないと言える。

<先進国経済回復が世界成長率押し上げへ>

最近、新興国通貨が売られていることを受けて、新興国経済の成長率鈍化が世界経済の成長率鈍化につながるのではないかとの懸念も浮上している。

実際、今年1―3月期の世界経済成長率は前期比年率プラス3.1%と、昨年10―12月期に比べ0.2%ポイント鈍化している。しかし、今年1―3月期の世界経済減速は、昨年央に4%近くまで加速した後の反動といった側面が強い。さらに言えば、2%台で推移していた一昨年の2016年より現在の方が伸び率は高い。

また、足元で新興国通貨が売られていることで、今年1―3月期の成長率鈍化も新興国経済主導のように見られがちだが、弱かったのはむしろ先進国経済の方だ。

今年1―3月期の新興国の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率プラス5.4%と昨年10―12月期に比べ0.7%ポイントも加速している。一方、先進国の実質GDP成長率はプラス1.7%と昨年10―12月期に比べ逆に0.7%ポイントも減速している。

今年4―6月期の成長率は、新興国が5.0%までやや鈍化するものの、先進国が2.5%まで回復することにより、世界全体の成長率も3.4%まで回復すると当社では予想している。

直近で新興国通貨が大きく下落した事例として記憶に新しいのは、ドルが力強い上昇基調をたどった2013年5月から2016年1月までのケースだろう。

この時は、1)2013年5月に当時の米連邦準備理事会(FRB)議長だったバーナンキ氏が緩和縮小を示唆した「バーナンキ・ショック」による米長期金利の急上昇(ただし2014年に入ってからは急低下)、2)2014年後半以降のエネルギー・コモディティー価格の急落を背景とする新興国経済全体の鈍化、などが新興国通貨急落とドル押し上げの背景だったと考えられる。

この期間の新興国通貨売りは激しく、アルゼンチンペソ、ロシアルーブル、ブラジルレアルなどは対ドルで50―60%下落した。しかし、2014年から2015年にかけては新興国経済が鈍化する一方で、先進国経済が成長率を加速させていった。この結果、世界全体の実質GDP成長率(前年比)は、2013年2.7%、2014年2.9%、2015年3.0%と、むしろ伸びを高めていった。

また、新興国経済の成長率は2016年初まで大幅に減速した後、通貨安のおかげもあってか2017年は急速に回復している。つまり、新興国通貨が大幅に下落することが世界経済の減速につながるとは限らないのだ。

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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