June 4, 2018 / 9:30 AM / 5 months ago

コラム:世界景気再加速で円安トレンド復活は本当か=佐々木融氏

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長

 6月4日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、世界経済が全体として堅調に推移するならば、ドルも円も弱い通貨となり、ドル円相場はレンジ内での上下動を続ける可能性が高いと指摘。写真は主要国紙幣、北京で2月撮影(2018年 ロイター/Jason Lee)

[東京 4日] - 円は先々週、12週間ぶりに「最強通貨」となった後、先週は下から3番目のパフォーマンスとなり、名目実効レートベースでみると小幅反落した。ドルは下から4番目で円とほぼ同等に弱かったが、名目実効レートベースでみると小幅反発し、勢いは衰えながらも4月半ば以降の上昇基調を維持しているようにもみえる。

また、先週の円の動きで印象的だったのは、6月1日に日銀が国債買い入れオペの減額を発表したにもかかわらず、円が下落したことだ。日銀は国債買い入れオペで金融政策の先行きに対するインプリケーション(含意)は伝えないとしてきたが、特に為替市場は神経質に反応していた。

金曜日の値動きは、市場が日銀の意図を理解したというよりは、そもそも円の地合いが弱くなってきていることを示唆していると考えられる。

<6月のドットチャートは要注意>

米朝首脳会談は6月12日に予定通り行われることに決まり、イタリアでは結局、新政権が発足した。また、後述するように、米雇用統計は米国経済が引き続き堅調な成長を続けていることを示唆した。

むろん、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコからの鉄鋼・アルミニウム輸入に対する追加関税発動といった、米国の保護主義姿勢の強まりを示す材料もあった。また、イタリアの政局もこれで安定するわけではない。だが、先週初めに懸念された材料よりは、期待された材料の方が多く実現したことで、結果的にリスク選好度が改善し、円が弱くなったと言えるだろう。

5月の米非農業部門雇用者数の伸びは、22.3万人増と市場予想(19万人増)を上回り、失業率は0.1%ポイント低下の3.8%となった。小数点第3位までみると、3.754%となり、これは1969年12月以来の低水準となる。

平均時給は前月比プラス0.3%とやや予想(プラス0.2%)を上回り、前年比ではプラス2.7%まで上昇。また、事業所調査の詳細をみると、多くの産業で雇用の伸びが堅調だった。ディフュージョンインデックス(雇用の伸びが増加した産業の割合が上昇すればインデックスも上昇)は67.6%となり、現行の景気回復局面における最高水準に再び上昇した。

最近、米連邦準備理事会(FRB)高官の発言の中には、中立金利や利上げ停止水準に関する内容が増えている。中立金利に関する議論の中身について、6月13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文、パウエルFRB議長の記者会見でどこまで明確になるかは定かではないが、FOMC委員の政策金利に関する予想分布(ドットチャート)は注目を集めるだろう。

2018年末の政策金利に関する3月時点の予想は、2.25%(2018年中に合計3回の利上げを予想)と2.50%(同4回)に集中し(6人ずつ)、中央値は2.25%だった。しかし、1人が見通しを引き上げるだけでも、中央値は2.50%へと移ることになる。また、政策金利の長期見通し(Longer-run)に関しても、1人が2.75%から3.00%へ引き上げるだけで、中央値は2.875%から3.00%へと移る。

すでに市場では政策金利の2018年末見通しや長期見通しなどの中央値が引き上げられるリスクをある程度織り込んでいると考えているが、短期的には米長期金利の変動要因となる可能性もあるため、念のため注意しておきたい。ちなみに、当社は引き続き年内計4回の利上げを予想している(3月に続き、6月、9月、12月に実施)。

<ドルも円も弱い通貨となる可能性>

また、当社の米国エコノミストは先週、第2四半期の米実質国内総生産(GDP)成長率予測を前期比年率プラス2.25%から同プラス2.75%へと引き上げた。5月雇用統計だけでなく、他の経済指標も第2四半期の堅調な企業活動を示している。この結果、世界全体の第2四半期の実質成長率予想も同プラス3.3%から同プラス3.4%に上方修正した。

当社エコノミストは米国だけでなく、日本、ユーロ圏、英国などの主要国経済も第2四半期に再加速すると予想している。昨年第2四半期をピークに減速しつつあった世界の経済成長率は、今年第1四半期をボトムに再び再加速してきている可能性がある。新興諸国の経済指標もポジティブサプライズが増えてきており、結果的に世界全体の経済指標もポジティブサプライズの方が多くなり始めている。

地政学リスクに対する懸念は残りながらも、実体経済の強さを背景に市場参加者がリスクテークに積極的になり始めれば、円の軟調地合いが続く可能性が高まる。

ただ、ドル円相場については、目先1カ月ほどで111円程度までの上昇余地はあるものの、年後半については頭打ちになるとみており、年末のターゲットは106円に維持する。FRBが利上げを行っている間は、基本的にドルは弱くなる傾向がある。米国経済だけが強く、FRBの利上げ期待だけが強い場合にはドルが買われる場合もあるが、世界経済が全体として強く、広範に中銀の利上げが予想されるような状況では、ドルも円と同様、資本調達通貨としての役割が大きくなり下落する。

結局、世界経済が全体として堅調に推移するようであれば、ドルも円も弱い通貨となり、ドル円相場はレンジ内での上下動を続ける可能性が高そうだ。

佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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