October 24, 2018 / 9:36 AM / 24 days ago

コラム:「年末円安」のアノマリーは繰り返されるか=佐々木融氏

[東京 24日] - 10日発生した米株価急落に伴う市場の混乱は、ボラティリティー・インデックス(恐怖指数、VIX指数)が急騰した今年2月の株価急落との類似性が指摘されている。たとえば、いずれも米10年債金利がそれまでのピークを越えて上昇後、しばらくして発生した。

 10月24日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、一段と日米の実質金利差が拡大し、ドル円を押し上げる可能性が出てくると指摘。写真は紙幣で飾られたクリスマスツリー。2014年1月、トルコのイスタンブールで撮影。(2018年 ロイター/Murad Seze)

2月の混乱は1週間(5営業日)で終了。終値ベースでみると米株価指数は1週間で9%弱下落し、その後の2週間強で下落分のほとんどを取り戻した。最初の2営業日で24ポイント急騰したVIX指数も、株価が戻す中で反落した。

一方、今回の動揺は2月のときよりも長い。この原稿を執筆している23日時点でもまだ収束しておらず、およそ2週間続いている。しかし、米株の下落幅は5%弱と、2月に比べて半分程度にとどまっている。VIX指数の上昇も、2月に比べて半分程度だ。米10年債金利は2月も10月もやや大きめに低下したが、すぐに反転上昇し、どちらも大きな動きにはつながっていない。

JPモルガンの米国株式ストラテジストによると、システムトレードを行っている市場参加者のテクニカルな売りは、19日までに80%程度が終了。一方、7─9月期における米企業決算の1株利益(EPS)は前年同期比25%増の42ドルと、市場予想の40.5ドル(同21%増)を上回る見通しである。

JPモルガンは、好決算と直近の株価下落を受けて、S&P500種銘柄による自社株買いが増加する可能性があると予想している。今年の自社株買いはこれまで8000億ドル(約90兆円)程度とみていたが、現在は9000億ドルから1兆ドルに上方修正した。米株は反発に向かう可能性が高い。

<年末に向けた相場展開は>

こうした中で、為替相場は年末に向けてどう動く可能性があるだろうか。2月の混乱時には円が主要通貨と主要新興国通貨の中で最強、ドルが2番目に強く、いずれも名目実効レートベースで1.5%程度上昇した。今回の局面では新興国通貨の一部で強さが目立ち、円もドルも全体的に中位のパフォーマンスにとどまり、名目実効レートベースでの上昇もさほど大きくない。

通貨先物を扱うシカゴマーカンタイル取引所のIMMで、円は2月も10月もほぼ同程度の売り持ちだったことを考慮すると、今回は円の買い戻し圧力が弱いのが印象的だ。実需の円売りフローが大きいと見るべきなのだろう。

そもそもここ数年、10─12月期はドル高・円安が目立つ。ドルは、名目実効レートベースでこの時期、2011年から16年まで6年連続で上昇(昨年は下落)している。一方、同ベースの円は12年から17年までの6年間のうち、5回下落している。しかも円の下落幅の平均は、ドルの上昇幅の平均より倍以上大きい。この結果、ドル円相場は12年から17年まで6年連続で10─12月期に上昇している。

<米中間選挙に注目>

目先の為替相場にとって最大の注目は、11月6日に迫った米中間選挙だろう。下院で民主党が過半数を奪還するとの見方がコンセンサスとなっているため、結果が予想通りとなれば、影響は限定的かもしれない。

しかし、上下両院で共和党が過半数を維持するような事態になれば、トランプ政権による追加減税に対して期待が高まる。米経済が「一人勝ち」との見方が強まり、さらにドルが買われやすくなるかもしれない。ただ、IMMを通じた投機筋のドル買い持ちは、ドルがピークアウトした16年12月末と同程度にまで積み上がっている。ドルが一段と大きく上昇するためのハードルは低くない。

エネルギーや食品価格を除いた先進国のコアCPI(消費者物価指数)の伸び率は足元で大きく鈍化している。JPモルガンのエコノミスト・チームによると、9月までの3カ月間の伸びは年率プラス0.7%と、5年ぶりの低水準となっている。米国のコアCPIも7月ごろをピークに伸びが鈍化傾向にあるが、米国は長短名目金利が上昇しており、実質金利が比較的大きく上昇している。

米国の政策金利からコアCPIの伸び率を引いたベースでみた実質金利は、08年2月以来10年半ぶりにプラス圏に入りかけている。一方、日本ではコアインフレ率がいくぶん上昇基調に入りながら、名目金利はほとんど変化しておらず、実質金利は低下基調にある。

結果として、日米の実質政策金利差は15年3月以来の水準まで拡大している。今後も米国ではインフレ率が落ち着く中で金利が上昇を続け、日本ではインフレ率が底堅く推移するようであれば、一段と日米の実質金利差が拡大し、ドル円を押し上げる可能性が出てくる。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

佐々木融氏(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below