April 15, 2016 / 9:41 AM / 3 years ago

コラム:中国経済は最悪期を脱したのか=西濱徹氏

[東京 15日] - 中国の1―3月期実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比プラス6.7%と前期(同6.8%)から一段と減速。2009年1―3月期(同6.2%)以来となる7年ぶりの低い伸びにとどまった。

当研究所試算の季節調整値を元に計算した前期比年率ベースで見ても、前期から減速基調が強まるなど、中国経済は依然として減速感を抜け出せていないように見える。

しかし、先月開催された全国人民代表大会(全人代)を受けて、国際金融市場における中国経済に対する過度な悲観論は修正されているようだ。実際、以下に述べるように、中国経済をめぐる環境は徐々に変化しつつある。

<製造業の景況感は大幅改善、輸出も拡大>

こうした傾向は、3月単月の経済指標の動きからも明確に読み解くことが可能だ。長期にわたって下落トレンドが続いてきた製造業購買担当者景況感(PMI)は全人代の前後に大きく改善。3月には政府版が好不況の分かれ目となる50を上回る水準に回復したほか、民間版(財新PMI)も大幅に上昇している。

足元の中国のGDPでは、第3次産業の割合が50%を上回るなどサービス業に対する依存度が高まっているものの、国内経済においては雇用面で、また世界経済との関係においても製造業への依存度が高い。したがって、製造業の回復は世界経済全体にとっても底打ちを促す一因になるとの期待が高まっている。

3月の貿易額(輸出+輸入)は依然として前年を下回る伸びにとどまっているが、輸出については9カ月ぶりに前年を上回る伸びに転じた。これは今年の春節(旧正月)の連休が2月初旬だった一方、昨年は2月下旬であったために影響がずれ込んだ可能性はあるが、底打ちを示唆する兆候がうかがえる。

他方、輸入については国際商品市況の低迷が足かせになっているものの、鉄鋼石や石炭、原油など鉱物資源の輸入量は着実に拡大傾向を強めるなど、先行きにおける経済活動の活発化を期待させる動きも見られる。

事実、中国による需要拡大の動きもこのところの原油をはじめとする国際商品市況の上昇を促す一因になっている。これが結果的に国際金融市場の混乱一服につながっているとすれば、中国経済の底打ち期待は世界経済にとってプラスに作用していると判断できよう。

貿易の底打ちを反映するように、3月の鉱工業生産は前年同月比プラス6.8%と前月(同5.4%)から大きく加速。前月比の拡大ペースも1―2月と比較して加速感を増している。

ただし、主体別では外資との合弁企業で生産調整の動きが終わっていない一方、国有企業や民間企業など中国国内資本が中心となって増産の動きを強めていることには注意が必要だ。

全人代において共産党と政府は、構造改革の必要性を強調する一方、当面の景気下振れを避けるべくインフラ投資の拡充をはじめとする景気下支え策も打ち出しており、こうした動きを反映するようにセメントや鉄鋼製品などの生産設備や在庫の過剰感が懸念される財で生産拡大の動きが顕著になっている。

党と政府がこれまでサプライサイド改革の一環として重視する「ゾンビ企業の淘汰」が一連の動きによって後ずれすれば、中国経済が抱える構造問題は一段と深刻なものになるリスクもはらんでいると言えよう。

<3月の景気底入れは公共投資と不動産投資に大きく依存>

一方、党と政府が経済成長のけん引役として期待を寄せる個人消費の動向を示す小売売上高は、3月は前年同月比プラス10.5%、前月比でも1―2月と比較して加速感を増している。しかし、依然として景気を大きくけん引するには至っていない。減税や一昨年来の金融緩和の効果も重なり、自動車や家財など耐久消費財に対する需要は底堅いものの、一般消費財やサービスに対する需要は勢いを取り戻せていない。

こうした状況は、ディスインフレ基調が続いていることにも現われている。足元では一般消費財のほかサービス関連で物価上昇圧力は後退しており、食料品やエネルギーを除いたコアインフレ率は当局の定めるインフレ目標を大きく下回る水準で推移している。

また、党と政府が計画する「ゾンビ企業の淘汰」が一段と前進することで関連部門を中心に大量の失業が発生するリスクや、食料品物価の上昇に伴う供給インフレが進むことで経済的な格差拡大が助長される可能性には注意が必要だ。

なお、3月単月の景気を大きく押し上げることに最も貢献したのは固定資本投資の伸びと見られ、1―3月ベースで前年同月比プラス10.7%と小売売上高を上回る伸びとなっている。3月単月ベースの前月比も1―2月に比べて加速感が増している。

中央並びに地方政府が実施する公共投資のほか、国有企業による投資計画の拡大が全体の押し上げにつながっている一方、民間部門では投資が一段と減速感を増していることを勘案すれば、足元における投資拡大の動きは公的部門に対する依存を強めていることを示唆している。

さらに、1―3月ベースの不動産投資は前年同月比プラス6.2%と伸びは依然として低いものの、約1年ぶりの水準に加速するなど急速に回復しており、不動産販売でも加速感が強まっている。一昨年来の金融緩和によって同国金融市場では「カネ余り」の状況が続くなか、昨年来の株式市場での「バブル崩壊」を受けて、大都市を中心とする一部の不動産市場に再び資金が回帰する動きも見られる。

こうした状況を勘案すれば、当局も認めるように足元の景気は「安定しつつある」と評することができる。その一方、先行きについては当局も「下押し圧力は過小評価できない」との見方を示しているように、下振れリスクは小さくない。事実、3月の景気底入れは公共投資と不動産投資に大きく依存している姿が見て取れるなか、これらが息の長い景気回復を促す要因となり得るかは不透明である。

すでにバブルの様相を呈している深セン市や上海市では、先月末にローンの頭金規制をはじめとする不動産投資規制が実施されており、足元では不動産販売が急減するなどの効果が発現している。他方、このところの不動産市場の活況は従来からの銀行などによる不動産ローンのみならず、資金の貸し手と借り手をインターネットで仲介する「ピアツーピア(P2P)金融」など新たなツールを用いた資金調達の活発化も影響していると見られる。つまり、急激に市況が悪化する事態となれば、金融市場に新たなリスクを誘発する可能性も懸念される。

当面の景気については、公的部門を主体とした生産拡大を促す動きが下支えにつながると見込まれるが、その後については、一進一退の展開となる可能性に留意しておく必要があろう。

*西濱徹氏は、第一生命経済研究所の主席エコノミスト。2001年に国際協力銀行に入行し、円借款案件業務やソブリンリスク審査業務などに従事。2008年に第一生命経済研究所に入社し、2015年4月より現職。現在は、アジアを中心とする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析を担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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