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コラム:対北朝鮮で腰定まらぬ韓国、経済も揺らぐか=西濱徹氏
2017年9月12日 / 02:19 / 2ヶ月後

コラム:対北朝鮮で腰定まらぬ韓国、経済も揺らぐか=西濱徹氏

[東京 12日] - 韓国の文在寅政権発足から4カ月が経った。朝鮮半島では、北朝鮮が米国に対する挑発姿勢を強めるなど、急速に緊張感が高まっている。文政権は発足当初の支持率が8割を超え、その後は1987年の民主化を経て翌年に誕生した盧泰愚政権以降で最高を更新した。

背景には、政官財を巡るスキャンダルの直撃を受け、朴槿恵前政権の末期の支持率が1桁台と過去最低を更新する事態に見舞われた反動も大きく影響しているとみられる。

なお、文政権の支持率は直近の世論調査でも依然7割前後と比較的高水準で推移している。だが、北朝鮮情勢が緊迫の度合いを強める中で徐々に支持率に下押し圧力が掛かっている状況にある。

文政権は発足当初から北朝鮮との対話路線を掲げる融和姿勢をみせてきたが、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射に続き、水爆実験に踏み切るなど態度を硬化させる状況が続き、結果的に路線修正を余儀なくされている。

また、韓国国内で反対論が根強い在韓米軍による高高度防衛ミサイル防衛システム(THAAD)を巡っても、文氏は就任前に朴前政権下での配備決定過程が不透明であるとして批判してきたが、その後は北朝鮮による度重なる挑発を受けて方針転換を迫られ、結果的に9月7日に配備完了に至った。

このように、大統領就任前に態度を曖昧にしてきた事項について、その後の情勢悪化を受けて現実路線に転換せざるを得ない事態が続いており、文政権の誕生を後押しした左派支持層からは「ブレた」との評価につながっている模様である。

<中国「禁韓令」の影響がじわじわ拡大>

文政権のこうした姿勢は、韓国が外交的な課題にうまく対処できない要因になっているとみられる。北朝鮮問題を巡っては、米国や日本と共同歩調をとりつつ、北朝鮮に対して厳しい態度で接することが求められる一方、上述したように韓国国内では左派支持層を中心に北朝鮮に対して融和的な対応を求める声が根強くある。

さらに、在韓米軍によるTHAAD配備を巡っては、そのレーダーの探知距離内に中国本土が覆われることから、中国政府が強硬に反対する姿勢を示していることに加えて、中国国内では実質的な「禁韓令」のような措置がとられている。

結果、韓国への中国人観光客が激減して関連産業にダメージが生じているほか、中国国内における韓国製品の締め出しの動きや、韓国系企業に対する嫌がらせの増加に伴い、すでに業績などに悪影響が懸念される事態となっている。このように経済的な影響が表面化していることも、韓国国内においてTHAAD配備に反対する動きが根強く残る要因になっているとみられる。

ただし、背景には朴前政権時代から韓国が中国への傾倒の動きを強めるとともに、経済的な結び付きを深めてきたことが大きく影響しており、足元ではそうした姿勢が完全に裏目に出たものと考えられる。

<人気取りが経済の屋台骨を揺るがす恐れ>

足元の韓国経済に目を移せば、世界経済の自律回復の動きに歩調を合わせる形で輸出の底入れが進んでおり、外需主導により回復の動きをみせている。中国による嫌がらせは輸出の重しになっているが、米国をはじめとする世界経済の回復がその影響を相殺している。

さらに、7月には文政権の下で策定された補正予算が成立し、政府はこれによって今年の経済成長率が0.2ポイント押し上げられるとの試算を発表している。今年の経済成長率は久々に3%を上回る可能性もある。

一方、韓国の雇用環境を巡っては、足元の失業率は4%を下回るなど表面上は良好にみえるが、若年層に限れば失業率は10%を上回っており、求職行為そのものを諦める自発的失業が多発するなどの社会問題を抱えている。こうしたことから、文政権が策定した補正予算では若年層を対象に公的セクターでの雇用拡大を図るほか、民間セクターにおける雇用拡大に向けて中小企業を対象に支援金を支給するなどの対策が盛り込まれた。

また、文政権が発表した政策運営方針である「国政運営5カ年計画」と「100大国政課題」に基づく形で、来年からの最低賃金の大幅引き上げを決定しており、政府は総雇用者数の1割近くがその恩恵を受けるとの見方を示す。

ただし、今回の補正予算では中小企業を対象とする雇用拡大に伴う支援金が給付されるものの、来年以降の賃金引き上げに伴い今後は支援金の規模が雪ダルマ式に膨れ上がることが懸念されている。

さらに、文政権は選挙公約に掲げた「脱原発」の一環として新規建設の中断を発表し、発電量に占める原子力の比率を引き下げる方針を示す一方、建設工事の完全中止については「世論が決める」といった曖昧な姿勢をみせるなど情勢は不透明だ。

その上、「100大国政課題」の実現に向けて、大企業を対象とする法人増税や富裕層を対象にした増税も検討されるなど、経済の大宗を牛耳る財閥企業を中心に、韓国国内における中長期的な事業計画が立てづらい状況となっている。こうした短期的な人気取りに終始した経済政策が、韓国経済の屋台骨を大きく揺るがす可能性にも注意が必要と言えよう。

<「未来志向の日韓関係」に逆行の動きも>

このように、文政権が直面する外交・経済を巡る問題は複雑に入り組んでいる。文政権は熱狂的な左派支持層からの期待を集める形で誕生しており、これらの層では北朝鮮を「同胞」として意識する姿勢が強いことを勘案すれば、再び方針が大きく揺れる可能性はくすぶる。

日本にとっては北朝鮮問題を巡って、日米とともに共同歩調をとることの重要性を韓国に理解させることが必要であり、この分断を狙う中国やロシアの動きをつぶさにみながら対応していくことが求められる。

他方、文政権の下で左派支持層の影響力が拡大していることは、日本との関係において、すでにさまざまな問題を生んでいる。文氏はこれまでも、日本による統治時代に労働力として動員され、日本企業で働いた朝鮮半島出身の徴用工や従軍慰安婦を巡る両国間の協定や合意を蒸し返す発言を行うなど、同氏が度々話す「未来志向の日韓関係」に逆行する流れもみられる。

安倍政権としては、北朝鮮問題など協調すべきところは現実に即して動く一方、反論すべきは徹底的に反論するという是々非々での対応をとる必要があろう。

*西濱徹氏は、第一生命経済研究所の主席エコノミスト。2001年に国際協力銀行に入行し、円借款案件業務やソブリンリスク審査業務などに従事。2008年に第一生命経済研究所に入社し、2015年4月より現職。現在は、アジアを中心とする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析を担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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