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コラム:パウエルFRB議長でイエレン路線継続の幻想=鈴木敏之氏
2017年11月3日 / 02:11 / 12日前

コラム:パウエルFRB議長でイエレン路線継続の幻想=鈴木敏之氏

[東京 3日] - トランプ米大統領が11月2日、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の後継にパウエルFRB理事を指名した。正式に就任するには上院の承認が必要となるが、恐らくそのハードルはさほど高くないだろう。イエレン議長が任期満了を迎える来年2月3日には、パウエルFRBが船出することになりそうだ。

パウエル氏は弁護士であり、財務次官の公職経験、そして民間金融機関での実務経験も併せ持つオールマイティーの人物だ。最近の講演の演題をみても、金融規制に加えて、ブロックチェーンや金融イノベーションなど、時代の求めるセントラルバンカーの知見を有し、秀逸の存在である。議長指名時にパウエル氏が発した声明でも、金融システムを強靭(きょうじん)にしたことが、危機克服をもたらしたと強調しており、金融の制度づくりで足跡を残すFRB議長となることだろう。

マクロ経済学をバックグラウンドにして金融政策の決定を行う能力は、この5年間のFRB理事の経験で培われている。また、民間での金融実務経験と法知識を基に複雑化する金融システムの全体に目配りする能力において、イエレン議長や、同じく後継候補に挙がっていたスタンフォード大学のテイラー教授の力量に勝(まさ)るとの判断で、パウエル氏が選ばれたのだとすれば、納得のいく人選と言えよう。

ただ、市場参加者は祝福するだけでなく(パウエル氏の関心が金融システムの強靭化に重きを置いているとしても)、金融政策決定の最高責任者の座に就く同氏が、実際にどのような行動をとるのか、今から頭の体操をしておく必要がある。以下、パウエル氏の経済観や政策観、そして同氏の下で予想される新たな不確実性を検討したい。

<パウエル氏の経済観>

まず、パウエル氏の経済観は経済成長理論に忠実である。長きにわたって、米国の潜在成長率が低下していることへの問題意識が強い。

同氏が2016年5月26日に行った講演に注目すると、教科書通りに潜在成長率を労働投入と労働生産性に分け、さらに労働生産性については資本投入と全要素生産性(TFP)の動向を議論するアプローチをとっている。雇用、労働投入だけを重く扱ったイエレン議長との相違を感じさせる。

労働投入に関しては、人口要因などによって過去に比べ落ち込んでいる可能性を指摘しているものの、危機後の経済復調で雇用情勢は改善していると述べている。危機後の経済成長の落ち込みは労働生産性の成長が低下しているためとし、投資が鈍いのは需要が弱いためという判断を示している。

TFP上昇率の鈍化については、危機の前から起きているとして、ダイナミズムが低下していると指摘。その上で、米国経済の潜在成長率は3%から低下し、2%程度になっているとの見立てを昨年5月講演では語っている。

なお、この議論の中で、潜在成長率の低下は、経済の中立利子率(自然利子率)の低下に通じると述べている。また、同講演の質疑応答では、潜在成長率と中立利子率の変化はほぼ「1対1(one for one)」の関係にあるとの見解も示していた。パウエル時代になると、金利の変更は、潜在成長率に関する同氏の見方の変化に一段と左右されることを心得ておかなければならない。

<パウエル氏の政策観>

パウエル氏は同講演で、経済政策の役割は危機によるサプライサイドへのダメージをなるべく小さくすることにあるとしている。イエレン議長は、7月の議会証言時点で、3%の成長は難しいと発言した。サプライサイドを修復すれば、もっと成長率は高められるという発想を持つパウエル氏との相違がここにみえる。

一方、パウエル氏は、政策決定者はサプライサイドの対応に努めるべきだとしながらも、金融政策が果たせる部分は限られていると主張している。金融政策にできることは、経済の回復、成長を着実にすることに限定されていると言う。政策決定者がサプライサイドの対応に努めないと、さらに潜在成長率が下がってしまうという問題が生じるというのだ。

そして、経済の回復、成長を着実にするためにとるべき金融政策は正常化であり、徐々に利上げを進めていくことを支持している。また、インフレ率の2%目標も重視している。イエレン議長と理屈が完全に一致していなくても、とるべき政策では一致していたのである。

パウエル氏は一貫して、その文脈で利上げが遅れることの問題も指摘している。インフレ率を安定させられなければ、潜在成長率の低下を食い止められないという立場である。今のイエレン議長がかなりタカ派の立場をとっているように、目下の経済情勢では、一部でハト派とみられているパウエル氏もタカ派的な立場を選ぶ可能性には注意が必要だろう。

また、パウエル氏は、過剰な緩和が資産価格の過剰な上昇につながれば、ダメージが生じるというスタンスだ。資産価格の過剰な上昇を防ぎ、また資産価格の調整で起きるダメージを小さくするためにマクロプルーデンス政策(金融システムの安定策)が重要であることを主張している。

結果として、徐々に利上げをする政策、いわゆるイエレン政策を支持しているが、その政策を採用する理由をみると、サプライサイドの経済学を基盤にする共和党の立場をとっていることになる。

<パウエルFRBを巡る不確実性>

パウエル議長になる場合、2つの不確実性がある。第1は、足元の米国経済の状態と、政策の整合性である。

当座の政策運営は、上述の流れで、イエレン政策を踏襲することになろう。だが、その路線が今の良好過ぎる経済状態に合っていない可能性もある。

そもそも米国の成長率は第2四半期が3.1%、第3四半期が3.0%と、パウエル氏が昨年5月に見積もった潜在成長率2%よりもかなり高い。失業率は10月には4.1%まで下がっている。株価は割高にみえるほど堅調である。徐々に利上げをすればよいと言っていた経済状態とは異なる。

一方で、インフレ率は2%目標には届きそうにない。2月の議長就任早々にも、パウエル氏は半年次の議会証言に臨むが、そこで示される政策判断が果たして現行と同じなのか、不確実性がある。

この問題については、12月12―13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のイエレン議長会見が重大なヒントを与えてくれそうだ。パウエル議長就任を見越して、円滑な移行のための布石が、同FOMCで打たれる可能性があるからだ。

第2はFRBの大幅刷新、特に副議長の選任である。FRBは、現在でも理事の空席がある。パウエル氏が議長になって、イエレン氏が理事職を退けば、空席は4人になる。政策の連続性は期待できないかもしれない。

特に金融政策を所管する副議長の存在は重い。振り返れば1987年以降のFRB議長は、グリーンスパン氏、バーナンキ氏、イエレン氏と経済学博士が続いた。パウエル氏が経済学博士ではないため、経済学の学識をバックグラウンドに持つ人物が恐らく副議長に選任されよう(大統領が指名)。

副議長は、2人体制になる。1人は金融規制担当で、共和党系のクォールズ氏がすでに指名され、上院で承認されている。もう1人は民主党系から選び、バランスをとるかもしれない。その金融政策を所管する副議長がパワフルだと、「イエレン=パウエル政策」路線を否定するかもしれない。その場合、FOMCを大きく分断する意見対立が始まる可能性もある。

視界不良が、引き続き解消されないことは銘記しておかなければならない。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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