February 2, 2018 / 2:25 AM / 7 months ago

コラム:パウエルFRBはタカ派かハト派か=鈴木敏之氏

[東京 2日] - パウエル米連邦準備理事会(FRB)新議長の下で、FRBは、前任のイエレン議長時代よりもタカ派になるのか、ハト派になるのか、その見極めは難しい。それは、タカ派とハト派に分類しにくい時代になっているからだ。

インフレの災禍は計り知れない。しかし、インフレの芽はとにかく摘み取れという「タカ」は、恐竜のように絶滅してしまった。むしろ、インフレ抑制策は、株価を押し下げ、景気後退を引き起こし、失業を増やし、多くの人々を不幸にするとみている向きが多いように思える。「真のタカ」は、昨年リッチモンド地区連銀の総裁職から退いたラッカー氏が最後ではないか。

確かに、今でもタカ派と呼べる米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーはいる。例えば、カンザスシティー地区連銀のジョージ総裁だ。ただし、同氏のタカ派姿勢は、金融システムの安定を重視していることが最大の理由である。フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁やクリーブランド地区連銀のメスター総裁も、かつてのタカ派に比べると穏健だ。

なぜ、旧来型のタカ派は絶滅してしまったのか。第1の理由は、そもそもインフレが人類最大の経済的な脅威ではなくなっていることである。

世界経済は今、絶好調と言っていい。米国の失業率は4.1%(12月)と、17年ぶりの低水準にあり、FOMCのみる長期均衡の失業率4.6%よりも低い。日本の有効求人倍率は1.59倍(12月)と、1974年1月以来の高水準を維持している。

ただ、多くの主要国において、労働需給が引き締まっているにもかかわらず、賃金上昇は限定的だ。フィリップス曲線の信奉者はやがて賃金上昇、そしてインフレ率上昇が起こることを心配(あるいは期待)しているが、一方で、この景気拡大の寿命が尽きた時に政策対応の手段が残されているのかを心配しているエコノミストもいる。

インフレは制御不能になる前ならば退治できるが、デフレは克服できる保証がないとの見方は根強い。デフレ圧力がいまだ懸念される時代に、インフレが心配だと言って、引き締めを求めても、周囲の納得や支持は得られないということなのだろうか。

<タカ派とハト派の分類が難しい訳>

第2の理由は、金融政策の決定メカニズムの変化だ。グリーンスパンFRB議長時代は、マエストロ(巨匠)と呼ばれた同氏の存在が絶対的だったので、彼と異なる意見は現実の政策にならなかったと言っていい。その分、極論も自由に主張ができたところがあった。

しかし、バーナンキFRB議長時代になると、コンセンサス重視になったので、FOMCメンバー各人の責任が格段に重くなった。インフレが心配だから利上げを急ごうとの主張が採用されて、経済が落ち込めば、言い出した当人が責任を負わざるを得なくなったことが、極論を自制させた。また、イエレン議長はスタッフとともに精緻な経済見通しを作り上げていたので、これを崩すことは難しかった。タカは自由に大空を飛べなくなったのだ。

旧来のタカ派の絶滅以上に厄介なのが、タカ派からハト派になったり、その逆にハト派からタカ派になったりする転向者の続出である。誰よりもイエレン氏本人だ。

イエレン前議長と言えば、筋金入りのハトのはずだった。しかし今は、インフレ率が低いのは一時的だと主張し、ハリケーンの経済被害はやがて復興需要に変わると述べ、3%成長は実現できないと言う。いずれもタカ派寄りの主張だ。

金融政策の正常化を自身のレガシー(遺産)にしたいところもあるのだろう。ただ、先述した長期均衡の失業率(4.6%)よりも、統計上の失業率がある程度の期間、高いと見込まれる時は、誰よりもハト派となり、その逆の場合は、誰よりもタカ派になっていたというのが実相ではないか。

まだ就任していないが、理事に指名されているグッドフレンド教授も、インフレ率が目標の2%を上回ると見込まれる時はタカ派だが、2%に届きそうにない今はハト派的な姿勢を示唆している。ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、2010年の量的緩和第二弾の時は、緩和を支持する急先鋒のハト派だったが、今は次に金融緩和が必要になる時に備えて利下げの幅を確保することを重視し、利上げを求めるタカ派である。

シカゴ地区連銀のエバンズ総裁は、就任時は中立であり、「フクロウ」と言われたが、今はハト派の最右翼だ。採決で利上げに反対までしている。ミネアポリス地区連銀のコチャラコタ前総裁は、バーナンキ元FRB議長に説得されたとされるが、タカ派からハト派に転向した。

パウエル新議長自身が弁護士出身である通り、エコノミスト出身でないFOMCメンバーが増えていることも、視界を曇らせる。FOMCメンバーになるほどのエコノミストであれば、金融政策に通じており、その分、著作や発言から、タカ派傾向やハト派傾向が読み取られるため、自説をなかなか曲げられない。だが、非エコノミスト出身のFOMCメンバーには、その縛りがない。これも、タカ派、ハト派の分類を難しくさせる。

では、パウエルFRBは、イエレン時代よりもタカ派になるか、ハト派になるか。パウエル新議長は、2012年からFRB理事を務めており、徐々に利上げとバランスシート縮小を進める現在の「イエレン・プラン」を推進してきた立場である。利上げを進める以上、穏健とはいえタカ派なので、今年の投票メンバーのメスター総裁は採決に反対しないだろう。つまり、当座の金融政策運営は「イエレン・プラン」の踏襲だ。

だが、今後のFRB理事会メンバーを見れば、タカ派になったイエレン氏は去り、残るブレイナード理事はハト派であり、理事に指名されたグッドフレンド教授は今のインフレ情勢ではハト派である。パウエル議長とクオールズ副議長(金融規制担当)が、それを押さえつけてまで、タカ派にはならないだろう。

今後、指名される副議長(金融政策統括)が、よほどのタカ派でない限り、FRB理事会はハト派に傾くということだ。昨年のFOMC投票メンバーだったエバンズ総裁、カシュカリ現ミネアポリス地区連銀総裁というハト派が投票権を失うので、2018年のFOMCはタカ派に傾くという見方もあろうが、そうはならないと筆者はみている。

*情報を更新して、再送します。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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