March 22, 2018 / 9:05 AM / 4 months ago

コラム:米FRB「弁護士」議長の苦難=鈴木敏之氏

[東京 22日] - パウエル米連邦準備理事会(FRB)新議長の下で、最初の連邦公開市場委員会(FOMC)が20―21日開催され、0.25%の利上げが決まった。

同日発表された声明、FOMCメンバーの経済見通し、記者会見での質疑応答で見えたパウエル議長の考え方から、米金融政策の行方を展望したい。

<「FRBプット」への期待をけん制>

今回の経済見通しは、一見すると理解しにくい。成長率については、2018年が前回(2017年12月時点)の2.5%から2.7%に、2019年が同2.1%から2.4%に大きく上方修正され、失業率も引き下げられた。

一方で、インフレ率は小幅上方修正にとどめ、潜在成長率にあたるロングランの成長率も据え置いた。要するに、パウエル議長は、生産性の上昇がいつ、どれだけ起こるか読み切れないが、いずれ起こる(生産性上昇が物価上昇を抑制する)という見方を持っていることになる。

イエレン前議長は、供給力の余剰(スラック)が小さくなると、賃金、インフレ率が上がるという「フィリップス曲線」を判断の根幹に据えていた。パウエル議長は、フィリップス曲線の関係よりも税制改革を通じて生産性が伸びる期待をもとに経済見通しを立て、金融政策を決めようとしているのだろう。インフレについて相対的に楽観しているという意味では、パウエル議長は、イエレン前議長よりも「ハト派」にみえる。

他方、21日の会見で記者から質問があった関税(保護貿易)の問題については、FOMC内の議論として、1)貿易政策の変更が現在の見通しに影響を与えるべきとの考えはない、2)ビジネスリーダーにとって貿易政策が先行きの懸念材料になっている、との2点を強調した。いずれの言い回しも、政権への配慮がにじむが、深読みすれば、保護貿易化は経済のダウンサイドリスクになりかねないと言いたいのかもしれない。

また、資産市場に関しては、株と不動産が割高になっている可能性を示唆しながらも、住宅価格に過熱はないとし、さらに米国の金融システムは資本充実、流動性確保、ストレステストの徹底を通じて強靭(きょうじん)になっているので、資産価格調整に耐えられるという見解も示した。積極的に利上げをするなどして、資産価格上昇を抑制するつもりはないということである。

バブルについては、破裂するまで分からないとする「FEDビュー」と、積極的に抑制すべきという「BISビュー」があるが、パウエル議長も結局は前者に立っていることになる。一方で、金融システムの強靭さに言及することで、市場が混乱した際にFRBが助け舟を出すという「FRBプット」への過度な期待をけん制しているのだろう。

<放置されるFRB理事「空席」問題>

パウエル議長が直面している苦難も見えてきた。FRB理事の空席を放置している問題が深刻なのだ。

定員は7人だが、今はパウエル議長、クオールズ副議長(金融規制監督担当)、ブレイナード理事の3人しかいない。大統領が指名し、上院が承認する流れだが、その指名の動きはあまりに遅い。

そもそも金融政策を所管する副議長が、指名もされていない。目下、グッドフレンド教授の上院での理事承認が難航しているが、今の議会勢力から見ると、今後指名される理事も上院承認に苦労するかもしれない。

確かに、新理事が加わると、政策の進め方を大きく変えなくてはならない可能性が浮上するが、理事の数が少ないと、FOMC採決で投票権のある地区連銀総裁の顔を立てなければならなくなる。

新たな理事が加わってから、前言修正を迫られないように、弁護士出身のパウエル氏としては、幅の広い解釈が可能な言い方をしておきたくなるだろう。

<非現実的な来年以降の利上げ見通し>

さて、次回の利上げはいつになるのか。筆者は、6月12―13日のFOMCで、2015年12月以降の利上げ局面における7回目の利上げが行われる可能性が高いとみている。

そもそもFOMCは、0.25%ずつの利上げであれば、2018年中にあと2回利上げをする見方を提示済みだ。6月を見送ると、9月と12月に利上げをしなければならなくなり、自由度を制約されてしまう。

ただ、パウエル議長は会見で、先に行くほど不確実性が大きくなると予防線を張っている。2月分の経済指標を見ると、ISM製造業景気指数は60.8、非農業部門雇用者増加数は前月比31.3万人増と、非常に強い。さすがに、この強さの継続は見込みにくく、いくらか減速するだろう。特に保護主義化の動きが、世界景気そして米国景気を冷やす可能性は意識しておかなければならない。また、利上げがやがてブレーキとして利いてくることもあり得る。

前述したFOMCメンバーの経済見通しを見ると、2019年には0.75%、2020年には0.5%の利上げが行われる計算となる。だが、2018年にあと2回(0.25%ずつ)の利上げはあるにしても、今後景気拡大の勢いが鈍化し始める可能性を考えると、2019年3回と2020年2回の利上げは現実的なシナリオではないだろう。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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