May 7, 2018 / 9:36 AM / 6 months ago

コラム:パウエルFRB、自動操縦解除後に待つ「隘路」=鈴木敏之氏

鈴木敏之 三菱UFJ銀行 シニアマーケットエコノミスト

 5月7日、三菱UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は、パウエルFRB議長(写真)はイエレン体制以来の自動操縦を解除し、自身の判断を下さなければならない局面に来ていると指摘。写真は3月米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で撮影(2018年 ロイター/Aaron P. Bernstein)

[東京 7日] - パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が就任した当初は、自身も理事として決定に参画した「段階的利上げ」政策を進めることで、特段の問題はなかった。景気は拡大しており、雇用は安定的に増加、インフレ率は目標に届かない状態でも失業率が低いので上昇が見込める。自動操縦に任せておけば良かったのである。

その後、時間が経過し、パウエル議長は自動操縦を解除し、自身の判断を下さなければならない局面に来ている。米国経済は巨大で、しかもスピードがかなり出ている「船」だ。大変な隘路(あいろ)で、巧みに操船をしなければならない。

FRB議長は7月に米議会証言に臨み、今後の金融政策について説明をする。そのためには、次回6月12―13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、方向性についてFOMCメンバーに納得してもらう必要がある。その際、パウエル議長は主に以下の3つの難題に直面することになろう。

●見えない「トランプ減税」効果

まず減税効果が見えてこない。周知の通り、トランプ政権は昨年末、大型の財政発動を決めた。景気の良いときに財政拡張策をとったのだから、本来は経済が過熱し、それを受けて、金融引き締めで対処するかどうかが、パウエルFRBの最大の課題になると当初は思われていた。

ところが、ここまでのところ、現実は違う。第1・四半期の国内総生産(GDP)を見ると、個人消費は鈍く、小売売上高も弱い。果たして財政拡張の効果が出るのに時間がかかっているだけなのか、それとも得体(えたい)の知れないことが起きているのか、見通しにくい情勢だ。

もしも前者、すなわち、やがて効果が出てくるのであれば、利上げを速めておかなければならない。

●見えてきたインフレ目標達成

もう1つ厄介なことは、インフレ率の動きだ。イエレン前FRB議長は、金融緩和のもとで経済活動が潜在成長率を上回れば、スラック(余剰資源)が小さくなり、その結果、インフレ率が高まってインフレ目標に到達できるという判断を示していた。2017年にインフレ率の上昇が頓挫したのは、携帯電話サービス料金値下げなどの一時的な要因のせいだとした。

一方、パウエル議長は、こうした議論から距離を置き、賃金は労働生産性の伸びと世界的な一般物価の動きを反映するものだとの立場をとっている。つまり、2008年の金融危機後の生産性上昇率停滞および昨今の世界的な物価安定に鑑みれば、賃金上昇は限定的ということになる(横軸に失業率、縦軸にインフレ率を置いたフィリップス曲線はフラットとなる)。

困ったことに、両論とも正しい。携帯電話サービス料金値下げの影響が消えたところで、個人消費支出(PCE)物価指数も食品とエネルギーを除いたコアPCEで前年同月比プラス1.9%(3月)になった。コアPCEが前月比0.2%ずつ上がっていけば、年内にも前年同月比のインフレ率は2%台半ば近くに到達する。FOMCの見通しよりも、目標インフレ率よりもはるかに高くなる。

さらに、ここにきて、米供給管理協会(ISM)製造業景気指数を見ると、米経済の供給余力がなくなってきていることもうかがえる。こうした点からすれば、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を景気に中立的な水準よりも低く設定することは不適切と言えよう。

ところが、賃金上昇率に目を移すと、違う光景が見えてくる。4月の雇用統計でも1時間当たりの平均賃金は前年同月比プラス2.6%でしかないのだ(前月比はプラス0.1%と3月の同0.2%より鈍化)。人手不足であっても、企業は賃上げまでして雇用を増やそうとしていない。こうした企業行動は、3月FOMC議事要旨を見ても、議論されていた。この点に着目するならば、ブレーキを強めることは、景気後退を引き起こしたり、インフレ率の低下を招いたりする恐れがある。

●景気ピークアウトの可能性

3つ目の厄介事としては、世界景気が拡大のピークを過ぎた可能性が各種指標によって示唆されていることだ。米国ではISM製造業景気指数が低下してきている。欧州では、ドイツのIFO景況指数が5カ月連続で低下。ユーロ圏全体の景況を1つの数字で表すユーロコイン指数も4月にやや大きめの低下を示している。中国の購買担当者景気指数(PMI)も然りだ。

米国について見ると、長い景気拡大が続いて寿命が来たのか、生産のボトルネックに達して勢いが鈍ったのか、ネット販売の隆盛で成り立たなくなったビジネス分野で雇用調整が始まったのか、それとも保護主義的な動きで将来の不確実性が高まったのか、季節調整の歪みにすぎないのか、原因はなかなか判別できそうにない。

<今年4回の利上げを強めに示唆か>

とどのつまり、パウエル議長は、上記のような点を見極めて、段階的利上げを強めるかどうかの判断を、次回6月12―13日のFOMCで下さなければならない。しかも、その判断は、今後の金融政策を決定する際に「両腕」となるべき、金融政策担当FRB副議長とFOMC副議長が未就任の状態で下さなければならない。

米コロンビア大学教授で米債券運用会社の幹部であるクラリダ氏がFRB副議長に指名されたが、上院の指名承認公聴会はまだ開かれておらず、6月12日までに就任できるかは定かではない。また、FOMC副議長を務めるニューヨーク連銀の総裁に、サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁が就くのは6月18日である。

では、パウエル議長はいかなる決断を下すのか。発言から推察すると、FOMCメンバーの中央値をとることになりそうだ。3月FOMCでは、2018年の利上げ見通しについて、「計0.75%の3回」と「計1.0%の4回」は拮抗していた。1人でも見解を変えるメンバーがいれば、中心線が動く。クラリダ副議長の上院承認が急ピッチで進めば話は変わるが、恐らく6月FOMCに間に合わないだろう(カンザス州銀行監督官のボウマン氏の理事就任も6月FOMCには間に合いそうにない)。

決断は、パウエル議長自身が、一時的にせよインフレ率が目標に到達した環境下で、緩和を続けることへの抵抗をどの程度感じているかという問題になりそうだ。保険の発想に従えば、9月追加利上げをほのめかすとともに、2018年4回利上げの可能性をより強めに示唆して、今後の経済データをにらみつつ、両腕となるクラリダ氏とウィリアムズ氏の就任を待つという米金融政策の「航路」を想定しておきたい。

鈴木敏之 三菱UFJ銀行 シニアマーケットエコノミスト(写真は筆者提供)

*鈴木敏之氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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