June 7, 2016 / 10:01 AM / 2 years ago

コラム:米利上げの行方が決する7月8日=鈴木敏之氏

[東京 7日] - 5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数がわずか3.8万人増という衝撃的な数字だった。大規模ストライキの直接的影響が4万人弱あったといわれるが、そのことを加味しても、著しく弱い数字である。

非農業部門雇用者数はそもそも変動が激しいことから、5月の数字は公表当初、「Fluke(一時的な振れ)」と見られたが、今ではその見方への懐疑論が出ている。仮に米国の雇用は順調に拡大しているという見方が崩れるとすれば、その影響はあまりに大きい。

次回の6月雇用統計の発表日は7月8日だが、もしもこのときに発表される非農業部門雇用者数も増加数の戻りが弱い場合は、経済シナリオが至るところで崩れることになりかねない。

<小売雇用の勢い鈍化は一大事>

5月雇用統計は、不安の波紋を広げている。まず、移動平均である。米金融当局者は、非農業部門雇用者増加数の振れが大きいので、移動平均で話をする。4月分の同雇用者増加数は、当初16.0万人と発表されたが、今月3日に12.3万人に下方改定された(同時に、その前の3月分も下方改定された)。3カ月移動平均を見ると、すう勢的に低下していることになる。

また、製造業雇用が減っている。国内総生産(GDP)統計で見ると、米国経済は、個人消費はしっかりしているが、設備投資と輸出が弱く、在庫投資もマイナス寄与になっている。企業部門、特に製造業部門が低調であるが、それが雇用にも及んでいるという不安を払拭できない。

小売流通配送の数字もさえない。これまで雇用は着実に増加しており、危機後の家計のバランスシート調整は一巡し、ガソリン代・燃料費の低下は実質的な減税である。

米国の家計部門には追い風が吹いているはずであり、実際に冬場は小売の雇用増加の勢いは強かった。ところが、4月、5月と勢いが鈍ってしまっているのだ。着実な雇用拡大を支えてきた小売の勢いが鈍るのは、一大事である。

また、今回は一時的雇用の数字も落ちた。企業は先行きを強気に見て人手が要るとき、まず一時的雇用を増やすところがある。すなわち、雇用全体の先行指標といえる。これが、今回は2.1万人の大きめの減少となったのだ。一時的雇用は、4月こそ5000人の増加だったが、その前3カ月連続で前月比減が続いている。

この一時的雇用の減少は、耐久財受注(航空機を除く非国防資本財受注)の推移と同調している。米国企業が先行きを消極的に見始めていることが、雇用全体の先行指標である一時的雇用の動きや耐久財受注に表れているといえる。その源は、企業収益の伸び悩みにあることが危惧される。

そして、6日に発表された労働市場情勢指数(LMCI)も、4月までの数字が大きく下方修正され、5月はマイナス4.8というさらに大きな落ち込みになった。この動きも、非農業部門雇用者数の動きに先行する。

<利上げ継続方針の看板は当面堅持か>

米連邦準備理事会(FRB)は、前回の当初16万人という弱い非農業部門雇用者数増加を受けて、市場が利上げは無理と見なしても、ひるむことなく、強硬姿勢で利上げ再開の幹部発言を繰り返した。

5月18日に発表された4月26―27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨に、圧倒的多くのメンバーが、条件を満たせば6月に利上げをすることが妥当という記述があった。

さらに5月27日には、ハーバード大学のマンキュー教授との対談で、イエレンFRB議長は、聞き手のマンキュー教授が、金融政策については何も言わなくてもいいという気遣いを示したのに、わざわざ数カ月以内の利上げの可能性に言及した。FRBとしては、全力を投じて、利上げの可能性を浸透させようとしてきた。

しかし、5月雇用統計の衝撃的な数字で、利上げ論議はとりあえず、棚上げされたように見える。むろん、FOMCの示した経済見通しは、足元の成長率、インフレ率、失業率から大きく逸れているわけではない。その見通しのもとで、継続的に利上げをしていくことが妥当というのが、FRBの判断の根幹である。

今後、14―15日にFOMC、21日にイエレン議長による半年ごとの上院議会証言、23日に不確実性が大きい英国の欧州連合(EU)離脱・残留を問う国民投票とイベントが続くが、その間、利上げ継続の方針の看板は掲げられ続けよう。

最大の難関は、7月8日発表の6月雇用統計である。これで今回の3.8万人増が「Fluke(一時的な振れ)」でないとなれば、FRBなど世界各国の政策立案者や米大統領選の選挙参謀、企業の経営計画立案者に加え、多くの市場参加者もシナリオ修正を迫られかねない。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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