Reuters logo
コラム:9月米利上げの可能性は消えたか=鈴木敏之氏
2016年7月28日 / 10:23 / 1年後

コラム:9月米利上げの可能性は消えたか=鈴木敏之氏

[東京 28日] - 米連邦公開市場委員会(FOMC)は27日、金融政策の据え置きを決定した。今回は、経済見通し発表と議長会見がない会合であり、米連邦準備理事会(FRB)が発信する情報はFOMC声明のみだ。

その声明から透けて見えるのは、利上げ再開に積極的なタカ派と消極的なハト派の熾烈な対立、そして両者のバランスを取るという難しいかじ取りを迫られたイエレンFRB議長の姿だ。以下、声明の内容から利上げ再開の可能性を考えてみよう。

<利上げ再開に二の足を踏む訳>

まず、FOMC声明は、経済情勢の判断を示すところから始まっている。前回6月声明では「上向いた(have picked up)」だったが、今回は「緩やかな速度で拡大している(has been expanding at a moderate rate)」に判断が引き上げられた。中でも、家計支出(消費)については、「力強く(strongly)伸びた」とした。「力強く」という表現が用いられることは珍しい。

一方で、設備投資は「軟調のままだった(has been soft)」とした。設備投資の軟調は、労働生産性の伸び率の低迷にも通じるため、前回FOMCでスポットライトが当たった懸案だ。

また、雇用に関する記述も錯綜している。6月は「力強かった」と言いながら、5月が「弱かった」ことにも触れている。要するに、次の7月雇用統計(8月5日公表)を見ないと判断できないということだろう。こうした強弱混交の表現から、FOMCメンバー間で米景気議論が収束していないことが見て取れる。

ただ、声明では、供給の余剰(スラック)は昨今、小さくなっているとの認識が示された。具体的には、「総じて、就業者数やその他の雇用市場の指標はここ数カ月間、労働力の活用がいくらか進んだことを示している」とした部分だ。おそらく、そうした認識を示さないと、FOMCの経済見通しの根幹(金融緩和で雇用増加、スラック縮小、インフレ率上昇の主張)が成り立たないからだろう。

期待インフレ率の低迷も、FOMCを悩ませている。今回の声明には、「将来のインフレを示す市場ベースの指標は低いまま(remain low)」との一文がわざわざ盛り込まれた。

FRBが発表する5年先5年物期待インフレ率は、利上げを実施した昨年12月から低下したままである。英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択、強い6月雇用統計(28.7万人増)を経てもなお期待インフレ率の低迷は続いている。これでは、ハト派は利上げ再開に前向きになれない。

<タカ派とハト派の妥協点>

さて、今回のFOMCのもう1つの注目点は、リスクの見方だった。前回6月のFOMCで利上げどころではなかったのは、5月雇用統計(1.1万人増)が非常に弱かったことと、英国民投票というイベントが控えていたためだったことは想像に難しくない。

もっとも、英国民投票については、EU離脱という予想外の結果となったものの、今のところ、米国経済に大きな負の影響は見られない。それどころか、恐怖指数(VIX)は、むしろ緩和の行き過ぎでバブル膨張を心配する必要がある水準まで低下している。株も最高値更新を繰り返す展開となっている。

今回のFOMC声明には、「世界の経済や金融の動向を引き続き注意深く監視する」との一文が残されたが、国際金融面は安定しており、本来はこの一文が改変されてもおかしくない状況だった。改変されていれば、9月利上げ再開の見方も盛り上がっただろう。

この一文の扱いについては、おそらくタカ派とハト派の間で激論があったのだろう。結局、落としどころは、上記の表現を残しつつ、その前段に「短期的な経済見通しへのリスクは低下した」と加えることだった。

今後、英EU離脱問題が米国の実体経済を悪化させるなど不都合な状態にならなければ、利上げ再開への布石を打ったことにできる。また、そうした不都合な状態になれば、7月時点でのリスク低下に言及しただけということにできる。要するに、利上げの再開は、今後の情勢次第という形にしたのである。

<意見集約を急ぐ必要はない>

次回FOMCは、9月20―21日だ。2カ月も先なので、意見対立を無理に急いで収束させる必要はない。では、9月になれば、利上げは再開されるのだろうか。実は、そこには高いハードルがある。

まず、米国経済は景気の底から7年が経過し、成熟しており、拡大の勢いが鈍っている。インフレ率を高めるほどの需給の逼迫を引き起こせそうにはない。

国際通貨基金(IMF)は、2016年の世界経済成長見通しを、世界不況の警戒ラインである3%の間際(3.1%)まで引き下げた。米国経済だけが健全と言っても過言ではない状態で、金利上昇がもたらす世界経済へのストレスは小さくないだろう。

そして何よりも、イエレン議長の金融政策の進め方である。とにかく、政策変更には慎重だ。

今回のFOMC声明は、利上げ再開の扉を開くものだったとは言えるが、扉が開いても、実際にその先に踏み出すかどうかは不明だ。6月FOMC時の心配事が消えたのだから、「さあ利上げ再開」でも良いのに、結果として、決断を見送った。利上げ再開のハードルは依然として、高いと見るべきだろう。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below