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コラム:米金融政策、木を見ても森は見えず=鈴木敏之氏
2017年9月21日 / 11:02 / 3ヶ月前

コラム:米金融政策、木を見ても森は見えず=鈴木敏之氏

[東京 21日] - 19―20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、量的緩和からの正常化の重要ステップであるバランスシート縮小開始が決定された。また、利上げの進め方、経済見通しについても相応の情報発信があった。

しかし、端的に言えば、木々は見えても、森全体の姿は見えないFOMCだった。FOMCメンバーの意見がまとまっていないことに加えて、何より米連邦準備理事会(FRB)メンバーの大幅刷新を控えていることが影響したのかもしれない。

以下、今回会合から浮き彫りになった問題点を整理しておこう。

<表舞台を去るバランスシート縮小>

まず、バランスシート縮小については、6月FOMCで「政策正常化の原則と計画」という付属文書が公表され、当初は毎月60億ドルの米国債と40億ドルの住宅ローン担保証券(MBS)の再投資をやめるところから始めて、その後徐々に縮小幅を拡大していく方針が示されていた。今回、粛々とその計画の実行を決めたわけだ。

このように事前に周知徹底を図り、小幅での縮小開始を決めた背景には、2013年5月に当時のバーナンキFRB議長がバランスシート拡大縮小に言及して市場に引き起こした混乱(バーナンキショック、あるいはテーパータントラム)の苦い経験があるからだろう。

危機時の対応として4.5兆ドルまで膨らんだバランスシートの縮小は、バーナンキショックを教訓とすれば、何を引き起こすかわからない。周到な準備を行い、縮小を円滑に開始できそうなところまでこぎ着けたのは、イエレンFRB議長の大きな功績となろう。

いずれにせよ、この先は計画を粛々と進めるだけだ。すなわち、バランスシート縮小は金融政策の表舞台を去ることになる。

<視界不良を招く「2つの事情」>

バランスシート縮小決定よりも、今後について示唆に富む重要な論点は、実はFOMC後に発表された経済見通しに潜んでいる。今回の会合前には、複数のFOMCメンバーが講演などで「インフレ率が低過ぎる」「2%に向かう証拠を見たい」などと述べていた。しかし、同見通しのいわゆるドットチャート(FOMCメンバーの政策金利想定の分布)では、16人中12人が年内の利上げへの支持を示した。

ドットチャートでみる限り、利上げ消極派の人数は増えていないのだ。年末までにはハリケーンの影響が復興需要で相殺されるという見方も含めて、追加利上げに進む意向は再確認されたと言えよう。

もちろん、現段階で12月の利上げを確実視することは禁物だ。低過ぎるインフレが一時的な現象なのか、構造的な要因によるものなのか、今後の指標でどちらに判定されるかによって、当然、情勢は大きく変わってしまうからである。イエレン議長も手持ちの材料だけでは、一時的要因だとFOMCで押し通すことはできないだろう。

そして、経済見通し自体にも不明瞭な部分がある。成長率見通しを引き上げ、インフレ率見通しを引き下げている点だ。

特に2018年のインフレ率見通しを2%から1.9%に引き下げたのは、目標到達時期をずらすやり方であり、利上げの継続方針と整合するか疑問を感じさせる。成長率引き上げ、インフレ率引き下げは、自然失業率の低下を受容する布石に見え、今後の利上げ余地を小さくするからだ。後追いで、数字を修正しているだけのようにも見えてしまう。

では、なぜかくも視界不良になってしまうのか。背景には、2つの事情が指摘できる。まず、失業率が下がっても、かつてのように賃金上昇率が上がらず、インフレ率も上がらないことについて、一時的なのか、本質的な変化が起きてしまっているかの判定を躊躇(ちゅうちょ)していることだ。

もう1つの事情は、来年にかけて、FRBの理事会メンバーが大幅に刷新されることだ。イエレン議長が再任されないと、7つの席の5つに新しい理事が座ることになる。決まりかけているのは、クォールズ元財務次官のFRB副議長(金融規制担当)就任だけだ。理事たちの意向がそろえば、政策が変わってしまうリスクがある。

前述したように、バランスシート縮小着手、年内利上げ再開の決意、経済見通しのそれぞれについては、相応の説明はなされている。だが、きちんと整理された全体像が示されているとは言い難い状況だ。要するに、木は見えても森が見えないのだ。

理事会メンバーの人事の行方に加えて、今後のインフレ指標が一時的変動説と構造的変動説のどちらを支持するかによって、市場が大きく動くことに投資家は備える必要がある。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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