January 21, 2019 / 7:55 AM / 3 months ago

コラム:トランプ政権「株価ファースト」転換でドル安に=池田雄之輔氏

[東京 21日] - 米国株の力強い持ち直しが続き、ドル/円も109円台後半まで上昇してきた。もとより米企業の決算発表シーズンは、マクロ情勢に対する市場の行き過ぎた悲観が修正される好機であり、今回はそれが顕著に表れている。

 1月21日、野村証券の池田雄之輔氏は、米国第一主義を掲げるトランプ政権と、雇用の最大化と物価安定を使命とするFRBの優先課題が、いずれも株価を支えることに転換したと指摘。写真はホワイトハウスで握手するトランプ氏とパウエルFRB議長。2017年11月、ワシントンで撮影(2019年、ロイター/Carlos Barria)

さらにそれを強く後押ししているのが、米国のトランプ大統領とパウエル連邦準備理事会(FRB)議長の変節である。大統領の通商政策は「アメリカファースト(第一主義)」から「株価ファースト」へ、パウエル議長の政策姿勢も雇用最大化と物価安定という「デュアル・マンデート(2つの使命)」から、目先は「株価マンデート」へそれぞれ移行したように見える。

先陣を切ったのはパウエル議長だった。4日のスピーチで、「常に政策スタンスを大幅に変更する用意がある」と述べ、3カ月に1回という利上げペースに決別する考えを示唆した。景気とインフレのシナリオに大きな狂いが生じていない中でのハト派転換である。株価急落を重要視した可能性は否定できない。

このパターンは、3年前(訂正)の状況に似ている。2015年12月、当時のイエレンFRB議長は利上げ開始に踏み出したものの、きわめて弱い状況にあった中国景気との波長が合わずに失敗。年明けに強烈なリスクオフを招き、原油価格は一時1バレル30ドルを割り込んだ。その後、2月末に上海で20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれ、「ドル安合意」があったのでは、と一部でささやかれる中、イエレン議長の政策姿勢は急速にハト派化した。

中国景気が脆弱な中でFRBの利上げが株価急落を招いた点は、現在の局面と通じるものがある。結局、当時のFRBは利上げの歩みを止め、市場の鎮静化を図ることを優先した。

<ドル安主導のリスクオン>

金融市場はどう反応するだろうか。2016年の場合、2月から4月にかけて「ドル安を起点としたリスクオン」が進んだ。市場が景気に対する強気な見方を回復したわけではなく、FRBのハト派姿勢を好感してドル安が起きているこの局面では、「原油高と金価格上昇」、「新興国通貨高とドル安/円高」という、一見珍しい組み合わせが成立する。ドル安が支配的なリスクオン、と描写すると分かりやすいかもしれない。

4日のパウエル議長のハト派的スピーチ以降の金融市場も、基本的にこの線に沿って動いている。株価急反発にもかかわらずドル/円の上値が重いのは、16年と同じ症状がすでに表れていると診断すべきだろう。

2016年2月に「ドル安合意」が噂(うわさ)されたケースでは、4月にかけてリスクオン相場となったものの、長続きはしなかった。EU(欧州連合)離脱(ブレグジット)を決めた6月の英国民投票から11月の米大統領選まで、地政学リスクに強い警戒が強まり、リスクオフに傾いたためである。今回も、ブレグジットの行方が注目されているという共通点がある。

とはいえ、英国、EUともに、3月29日に「合意なき離脱」を迎える最悪のシナリオを回避したいという姿勢は一致している。英国が2回目の国民投票を実施できるような、離脱スケジュールの大幅延期が認められ、市場にとっては一安心となる可能性が高いのではないだろうか。

トランプ政権の通商政策はどう影響するだろうか。ムニューシン米財務長官が対中関税の一部または全部を撤廃することを提案したと報じられたかと思えば、今度は中国が米国からの輸入を増やして対米貿易黒字を2024年までに解消すると報じられた。市場の一部で依然として警戒されている、交渉期限の3月1日で決裂して税率が10%から25%に引き上げられるリスクは大幅に低下していると言えそうだ。

背景には、トランプ政権が「株価ファースト」の色彩を強めていることがある。1月末に開かれる米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表、ムニューシン財務長官、中国の劉鶴副首相の閣僚級交渉でも、知的財産など難しい分野は継続協議として棚上げし、貿易分野での合意を成果として強調する公算が大きい。

<米国があきらめた一人勝ち>

では、米中協議の進展はドル/円にどう作用するだろうか。昨年半ばの為替市場には、「米国の保護主義的政策は他国へのダメージが大きく、ドル一強をもたらす」という大きなテーマがあった。今後はこれが逆転していくイメージを描く必要がある。「米国が一人勝ち政策をあきらめて対話路線に転じる」ということは、結果的に中国と新興国景気の浮揚、米景気の優位性の後退、すなわちドル安を想起させやすい。

パウエル議長とトランプ大統領がくしくも共同歩調を取る「株価ファースト」シナリオでは、豪ドルや新興国通貨の高パフォーマンスが見込まれる一方、ドル/円は上値が重くなるというのが基本路線である。

こうしたドル安主導のリスクオンの賞味期限はいつまでか。1月9日に公表された連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が示唆するように、3月20日のFOMC会合では追加利上げがいったん見送られる公算が大きい。ドル安材料が出尽くすまでは、ドルが売られやすい地合いが続くと見るべきだろう。世界的な株価回復に遅れる格好で、ドル/円が110─115円レンジを取り戻すのは4月以降と見ている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(編集:久保信博)

池田雄之輔氏 野村証券 チーフ為替ストラテジスト(写真は筆者提供)

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

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