April 11, 2019 / 8:40 AM / 12 days ago

コラム:景気回復期待は本物か、反動の円高リスクに警戒=亀岡裕次氏

[東京 11日] - 3月末から足元にかけ、ドル円はクロス円とともに上昇した。世界的な株高などを背景とした「リスクオンの円安」という側面が強いが、この円安は続くだろうか。

 4月11日、大和証券・チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏は、足下のドル円上昇は持続性がなさそうだと指摘。写真は5ドル紙幣と1万円札。2017年6月、シンガポールで撮影(2019年 ロイター/Thomas White/Illustration)

市場がリスクオンに傾いた理由として、1)米中通商協議が合意し、さらに中国の景気対策で世界経済が回復に向かうという期待の盛り上がり、(2)米国の金利低下で株高と景気回復への期待上昇、(3)米中経済指標の一部が改善したこと──が挙げられる。

しかし、これらは持続性があるものとは考えにくい。本コラムではその理由を説明したい。

<米中通商合意に高まる期待>

トランプ米大統領をはじめとした米中の政府高官は、通商協議が順調に進展しているとのメッセージを発信している。両国が懸案事項の大半を解決し、合意に近づいているとの報道もある。市場はこれらを好感し、米中の貿易摩擦が解決に向かうとの期待を高めてきた。

しかし、一部報道によると、米中合意には中国が2025年までに米国からの一次産品輸入を拡大し、米企業による100%出資会社設立を認可するとの公約が盛り込まれる一方、他の公約期限は2029年で、しかも中国側が履行せずとも報復措置を招かないという

拘束力のある公約がごく一部に限られ、履行期限が今から6年以上も先となると、たとえ合意に至っても、米国はこれまでの対中関税をすぐに撤回、あるいは税率を引き下げるなどの動きに出にくいはずだ。米国は公約の履行状況に応じ、長期間にわたって段階的に関税を引き下げることで合意を図るのではないだろうか。

米国の対中関税引き下げが世界の貿易を活性化すると期待していた市場は失望し、これまで膨らんできた景気回復期待の反動がリスクオフに作用しやすくなるだろう。

<中国減税は期待外れか>

市場には、4月から実施された増値税(付加価値税)の引き下げによって中国景気が回復する、または減速が抑えられるという期待もある。たしかに製造業や建設業などを対象にした付加価値税の減税は、企業にはプラスに働く。だが、引き下げられた分を製品の値下げに転嫁する動きが広がらなければ、個人消費など最終需要の拡大に波及する効果は限られる。

中国製造業の購買担当者景気指数(PMI)が3月に改善したのは、減税による需要拡大を期待した面があるだろう。しかし、4月以降に需要が期待ほど伸びず、在庫が積み上がるようだと、景況感や新規の受注、生産の改善は持続しにくい。

高まっていた期待の反動から、市場はリスクオフに傾きやすくなるだろう。

<米金利低下による株高と景気回復>

米国の金利低下が株価や景気にプラスに働く、という期待も広がっている。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを停止し、金利を据え置く姿勢に転じるとともに、年内に資産縮小を終了する方針を示したことが、米長期金利を押し下げ、それが株価上昇に一役買ったことは間違いない。借り換え需要が主だが、住宅ローン申請も増えている。

問題は、長期金利低下による株価押し上げ効果がいつまで続くかである。米株は長期金利の下落とともに上昇したが、相対的には国債利回りの低下幅よりも株式益回り(1株当たり予想利益を株価で割ったもの)の低下幅が大きく、米10年債利回りからS&P500株式益回りを差し引いたイールド・スプレッドは上昇した。

3月の米供給管理協会(ISM)製造業景況指数や新規受注指数は改善したとはいえ、大きく落ち込んだ2018年12月をやや上回る水準にとどまった。景況感の改善が鈍い中では、米国のイールド・スプレッドがさらに上昇する余地は小さいはずだ。長期金利(国債利回り)の低下に応じて株価が上昇することはあっても、株式益回りの低下幅のほうが大きくなるような大幅な株高は進みにくい。

米国では、株安が進んだ2018年12月に消費者マインドが悪化するとともに、可処分所得に対する消費支出の割合を示す消費性向が大きく低下した。消費性向は2019年1月もほとんど上昇していない。しかも減税効果のあった2018年と比べ、2019年は可処分所得の伸びが低い。

2018年12月に落ち込んだ小売売上高の回復が鈍い背景には、こうしたことがある。3―4月は株高を背景に消費性向が上昇し、小売売上高は増えるだろうが、株高が鈍れば個人消費は伸び悩みやすくなる。

米国では新規失業保険の申請件数が減り、3月は雇用者数の増加幅が月間20万人近くまで回復した。景気減速リスクは後退しているようにも見えるが、人材派遣業における雇用者数の減少や、週当たり賃金上昇率の鈍化は、必ずしも雇用環境が改善、つまり雇用がひっ迫する方向にはないことを示唆している。

米景気が市場の期待ほど回復しないと、期待成長率が下がり、長期金利が低下してもリスクオフの株安に傾きやすくなる。それは新たな景気減速要因となる。

以上のように、米中が合意することなどを見越した世界経済の回復期待も、長期金利低下による米株高と景気回復期待も、米中経済指標の改善も、長くは続かないと考えられる。リスクオンの円安が持続するよりも、景気回復期待の反動で、逆にリスクオフの円高に転換する可能性が高まっているとみるべきではないだろうか。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

亀岡裕次氏(写真は筆者提供)

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*編集:久保信博

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