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コラム:円高が招く日銀「長期金利操作」の罠=上野泰也氏
2016年10月17日 / 07:11 / 1年後

コラム:円高が招く日銀「長期金利操作」の罠=上野泰也氏

[東京 17日] - 金融政策運営において「量」の効果を重視している「リフレ派」の一員とみられている原田泰日銀審議委員は12日、長野県金融経済懇談会に出席し、その後記者会見を行った。

原田氏が発したコメントのうち、市場が最も強く関心を抱いたのは、なぜ「量」から「金利」への軸足シフトに「リフレ派」が賛成したのかという一般のマスコミがこぞって取り上げた点ではない。長期金利が低下余地を探る際に日銀が「量」の面でどのように対応するか、すなわち長期金利低下をけん制して止めにかかるのかどうかという点だった。

この記者会見での原田氏の発言をもとにしてケース分けして整理すると、以下のようになろう。

1)経済に非常に大きなポジティブなショックが加わったとき

実は日銀が公表した会見要旨では削られていた部分がある。複数のメディア報道によると実際には「非常に大きくポジティブなことが起きたときに非常に大きく減らすかということだが、基本的に0.1(%)でポジティブなショックのときに買うというのは80兆(円)より上にいくことになると思う」といった発言も、原田氏からあったようである。

筆者の解釈ではこの発言は、10年債を0.1%の指し値オペにより無制限に日銀が買って長期金利の上昇を止めようとする結果、日銀保有長期国債残高の増加額は年間80兆円のめどを超えるという意味だろう。

2)経済にそれほど大きくないポジティブなショックが加わったとき

日銀のホームページに掲載された会見要旨を見ると、原田氏は以下のように答えている。

「ポジティブなショックがあったときに、例えば10年物金利について考えると、当然金利が上がる。金利が上がるようなショックがあったときに金利をゼロに止めようとすることは、良いことがあったときにそれをさらに拡大するような金融政策を行うことになるので、これは金融緩和の強化だ」

つまり、長期金利はある程度上昇するが、操作目標である「ゼロ%程度」の範囲内に収まるように、日銀保有長期国債残高の増加額が年間80兆円になるペースで、そのまま買い入れを続けるということだろう(これは金融緩和政策の強化に当たる)。

3)経済にネガティブなショックが加わったとき

同じく日銀公表の会見要旨では、原田氏はこう述べている。

「仮に日本の輸出を急減させるようなショックがあれば、何もしなければ金利は下がる。金利が下がるときにこれをゼロに止めようとすれば、買い入れ額を減らすことになるが、これは金融を引き締めることになる」

「そうではなく、ネガティブなショックがあったときには、技術的にちょうど80兆円のペースになるかは分からないが、80兆円をめどに買い入れを進め、その結果、金利が下がってもそのままにするということだ」

つまり、日銀が何もしなければ長期金利は低下するが、これを「ゼロ%程度」にとどめるため長期国債買い入れ額を減らすと金融引き締めになってしまう(要するに為替市場で円買いの材料になってしまう)ので、そうはせず、とりあえずそのまま年間80兆円程度のペースで長期国債を買い入れて、長期金利の低下を容認するということだろう。

4)経済に大きくネガティブなショックが加わったとき

この点については、原田氏は明確に「ネガティブなショックが非常に大きければ、追加緩和になると思う」と述べている。長短金利操作に加えて「量」の上積みも選択肢になるのだろう。

<債券市場の疑心暗鬼を解消できるか>

ところで、筆者は「ゼロ%程度」を目標とする日銀の長期金利操作(10年債利回りなどの許容レンジ)について、「上下非対称」(金利上昇方向が狭い一方、金利低下方向は広い)になるだろうという見方を従来から取っている。

そして、原田氏からも前述の通り「ネガティブなショックがあったときに金利が下がってもそのままにする」との考えが示された。また、上記の記者会見では、そうした説明が「ポジティブなショックとネガティブなショックでは政策対応が非対称になることを含意している」とも述べている。

日銀内でこうした原田氏の見解が多数説になっているのかどうかは現時点では不明確だが、仮になっているとすれば、決して見逃してはならないことが1つある。それは、為替が円高ドル安の余地を大きく探る展開となる場合は、上記の3番目のケースに該当し、長期金利の低下を日銀はけん制しにくくなる(現実問題としてできなくなる)可能性が高いということだ。

日銀が掲げる「イールドカーブ・コントロール」の明らかな限界がここにあると、筆者は見ている。長期金利の上昇を指し値オペで止めることは十分可能だが、長期金利の低下が円高を背景とするものである場合には、日銀は手足を縛られてしまうということだ。

だが、市場に目を移せば、足元の為替相場が円安気味で推移していることに加え、投資家の側は日銀の調節姿勢について疑心暗鬼を拭うことができていないため、金利低下の方向を試す動きはまだ出てきていない。「梯子(はしご)を外されるリスクを考えると、期初であっても積極的に動けない」と漏らす運用担当者もいるという(10月12日付ロイター配信「金利ウオッチャー」)。

日銀の新しい枠組みは、「金利」重視派と「量」重視派の妥協の産物で、クリアカットなものにはなっていない上に、実際の長期金利操作においては日銀金融市場局の判断・裁量によるところが少なくない。

債券市場関係者の「疑心暗鬼」を、メッセージ発信や対話を通じて、日銀は今後、どこまで解消できるか。それは、「日銀依存(日銀次第)」となった債券相場(円金利)の動向を通じて、ドル円相場にも少なからず影響を及ぼすテーマである。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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