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コラム:「ポスト安倍」時代の日銀金融政策=上野泰也氏
August 9, 2017 / 2:41 AM / 4 months ago

コラム:「ポスト安倍」時代の日銀金融政策=上野泰也氏

[東京 9日] - 安倍晋三首相が8月3日に行った内閣改造・自民党役員人事について筆者は、リベラル色が濃い岸田派への十分な配慮、出身派閥である細田派の閣僚数減少(これにより身内びいき批判を回避できる)、自らの政策に批判的な野田聖子氏の閣内取り込みなど、党内で求心力を維持する狙いから相当考え抜かれたもので、手堅い布陣だと受け止めた。

改造内閣発足直後の記者会見で安倍首相は、「結果本位の仕事人内閣」だと形容した。実務能力が高い人を優先した組閣を行っているので、実績を少しずつ積み重ねていくうちに内閣支持率は自然に回復していくはずだという期待感が込められているのだろう。

1つの試みとして、第2次・第3次安倍内閣(改造内閣を含む)の閣僚について、新聞で報道されたベースで出身校(大学・大学院といった最終学歴)別の人数を集計してみた。すると興味深いことに、今回の改造内閣では米ハーバード大学院を出身校としている閣僚が4人もおり、東京大学の4人と同数である。米国の大学・大学院全体に広げると5人で、東大を上回る。

むろん、学歴イコール実務能力ということでは全くないわけだが、米国で視野を広げた人が多数登用された点は大きな特徴だ。また、政治家の二世・三世が入ることが多いとされる慶應義塾大学の出身者が今回はゼロというのも目立つ点である。

マスコミ各社の世論調査を見ると、手堅い布陣が奏功しており、安倍内閣の支持率には下げ止まり感がある。ただし、不支持率の方が支持率よりもなお高い調査結果がほとんどであり、改憲案国会発議のタイミングや年内解散の可能性も含め、政治的に緊張感の高い時間帯がまだ続きそうである。

そうした中、筆者が先回り的に注目しているのが、「ポスト安倍」は誰かというテーマだ。為替市場で円売り圧力が根強く、市場全体がドル安地合いであっても対円でドル安がなかなか進まないのは、日銀が掲げる「物価安定の目標」2%が日本経済の実力や国民の物価観からするとあまりにも高すぎて達成のめどが全く立たず、金融政策のベクトルを考えた場合、日本はこの先もずっと緩和方向で決まりだと見なされているからである。

だが、そうした日銀のスタンスを規定しているのは、政治的現実に即して言えば、安倍首相による日銀の金融政策運営へのグリップだ。名目国内総生産(GDP)600兆円目標や財政健全化プランにも物価2%は前提として組み込まれており、「アベノミクス」の下では2%の物価目標は動かない。とすれば、安倍氏の次の首相がどのような経済政策を打ち出すのか、なかんずく2%の物価目標や日銀の大規模緩和をその弊害や副作用も含めてどのようにとらえるかが、重要になってくる。

<2%物価目標撤回はあり得るのか>

日本経済新聞社が今回の内閣改造直後に実施した世論調査をみると、「ポスト安倍」に最もふさわしい人は、石破茂元地方創生相が22%で首位。次点が現職の安倍首相で17%。3位は自民党筆頭副幹事長の小泉進次郎氏で11%。4位は小池百合子東京都知事と、外相から自民党政調会長に回った岸田文雄氏でともに9%だった。

上記のうち、最有力とされた石破氏は6月下旬に米系通信社が配信したインタビューの中で日銀の金融政策について、「金融政策は何のためにやるのか、物価を上げることが自己目的みたいになっているのは変ではないか」「人々の賃金が上がり、設備投資が増えることが目的であって、物価が上がることが目的ではない」と発言し、その修正に含みを持たせた。

だが、記事の文章中にさらりと書かれていた「2%目標は維持すべきとしながらも」という部分に、筆者は強い関心を抱いた。2%の目標が動かないならば、日銀の金融緩和路線自体を大きく動かすことはかなり難しいからである。欧米と協調せずに物価目標2%を日本が一方的に引き下げる場合の円高急進行リスク、実現の可否はともかく財政健全化の絵図を一応描く上では2%の物価上昇がないと都合が悪いといった現実がおそらく、石破氏の頭の中にはあるのだろう。

また、4位に入った岸田氏は安倍首相から禅譲を受けるシナリオを念頭に動いているとされており、実際に禅譲がある(安倍氏の後継指名を得て自民党総裁選に臨んで勝利する)場合には、「アベノミクス」の継承を経済政策面での公約として掲げる可能性が高い。

このように考えると、「ポスト安倍」の下でも、日銀の金融政策のベクトルが「緩和方向」で固定されている現実が大きく変わる可能性はあまりないことが浮かび上がってくる。

したがって、ドル円相場については、今後も米国側の動き、すなわち米連邦準備理事会(FRB)の金融政策のベクトルが引き締め路線のままか、それとも物価・賃金の上がりにくさなどから利上げが停止して中立になり、その先の利下げ観測が市場で浮上してくるかどうかが、大きな鍵を握ることになる。

筆者は引き続き、米利上げ停止と中国リスク再燃を受けて、晩秋から年末年始あたりに100円前後まで円高ドル安が進むのではないかと予想している。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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