June 19, 2018 / 4:27 AM / a month ago

コラム:利上げ路線継続に透けるパウエルFRBのご都合主義=上野泰也氏

[東京 19日] - 6月中旬に数珠つなぎでスケジューリングされた米国・ユーロ圏・日本の金融政策決定会合が、市場の注目を集めた。

 6月19日、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、パウエルFRB議長(写真)は多数派意見に沿った追加利上げがFOMCで決まった後、上振れているPCE価格指数を「ご都合主義」的に引き合いに出し、根拠の1つにしている可能性があると指摘。写真は米ワシントンで6月13日撮影(2018年 ロイター/Yuri Gripas)

米連邦公開市場委員会(FOMC)は、市場の予想通り、0.25%追加利上げを全会一致で決定。フェデラルファンド(FF)翌日物レートの新たな誘導水準は1.75―2.0%で、片足が2%台に乗った。そろそろ「低金利」とは言いにくい水準になりつつある。

FOMC参加者による金利見通し(中央値)でFFレートの「長期」(中立金利)として示されたのは2.875%(誘導レンジに書き換えると2.75―3.0%)。実際のFFレートはそこまであと1%ポイント(0.25%利上げ4回分)に迫っている。

今回のFOMC声明文は、物価について、総合、コア(除く食品・エネルギー)ともに前年同月比で「2%に近づいた」と記し、5月の前回会合時と同じ表現を用いた。

そして、FOMC参加者による個人消費支出(PCE)価格指数・総合の見通し(中央値)は、前回(3月)から2018年と2019年が上方修正され、いずれも2.1%になった。2020年の見通しも同じ数字である。PCE価格指数・コアの見通し(中央値)は、2018年が2.0%に上方修正され、2019年と2020年は前回と同じ2.1%だ。

こうした物価の公式シナリオは、下振れず、大きく上振れることもなしに、向こう3年間にわたって2%の物価目標がほぼ完璧に達成されるという、にわかには信じ難い姿になっている。

失業率はかなり低い水準まで下がっている。シナリオ通りの物価パスの実現に自信があるなら、物価安定と最大雇用という二重の責務を負っている米連邦準備理事会(FRB)は、大喜びで「勝利宣言」をしてもおかしくない。

<本来は利上げ休止で様子見が賢明>

しかし、雇用統計の時間当たり賃金などを見ると、経済のグローバル化や情報技術(IT)革命の影響(デジタル化)といった構造的な要因が作用し続けている結果、米国の賃金(およびサービス分野の物価)の上昇は、基本的には抑制されたままである。

PCE価格指数・総合の前年同月比が3月・4月に目標水準である2.0%に到達したのは、昨年春の携帯電話料金引き下げの「裏」(反動)が統計上出てきたことや、原油価格の水準切り上げによるものである。少なくとも現時点では、持続性を伴った物価目標達成が実現しているとは言えない。

FRBの利上げ路線継続に対しては、イールドカーブのフラット化を通じて、米国債市場が「警告」を突き付けている。2年債と10年債のスプレッドは40ベーシスポイントを下回っており、この先も利上げが継続されるなら、逆イールド化は時間の問題である。

むろん、年金マネーなどによるイールドハント的色彩の濃い米30年債の根強い買い需要が存在するため、米国債イールドカーブの今般のブルフラット化には需給の要因も相応に寄与しているとみられる。だが、基本的にはやはり、リセッション警告シグナルの点灯が近づきつつあると考えるべきだろう。

逆イールドが出現すればリセッション入りが確実というような因果関係はない。だが、そのことにより市場参加者の心理が不安定化して株価急落や金融市場全体の動揺が引き起こされやすくなることを見逃すべきではあるまい。

FRBは利上げを止めて様子を見るべきだというブラード・セントルイス地区連銀総裁の見解に、筆者は賛成である。しかし現実には、6月のFOMCで追加利上げが決まり、ドットチャート(FF金利の予想分布)は上方シフト。年内あと2回の利上げがFOMCの中心シナリオになった。

FOMC後に記者会見したパウエルFRB議長は、強気一辺倒ではなく、「われわれは勝利宣言をするつもりはない」と述べた。最近のインフレ指標は心強いものの、これまで多くの年で物価が目標を下回ってきているためだという。

また、財政の拡張に伴う需要への刺激を相当前向きにとらえつつも、景気見通しにはかなりの不確実性があること、賃金の緩慢な伸びがやや不可解だと考えていること、米国の通商政策を巡る懸念が高まっているとの報告があることなどにも言及していた。

パウエル議長は、賃金がこの先加速するという確信を抱いているようには見えず、今後予想される逆イールドを無視し続けるほど強い自信を抱いているわけでもなさそうである。

<日銀は追加緩和を余儀なくされるか>

賃金・物価の今後について、パウエル議長は、「自信過剰」気味に本心から強気なのか、それとも多数派の意見に沿った追加利上げがFOMCで決まった後、上振れているPCE価格指数の数字を「ご都合主義」的に引き合いに出して根拠の1つにしているのか。

どちらが実態に近いのかは判然としない。だが、一種の結論ありきで金融政策の変更が決まり、その際にたまたま高めの数字になっていた物価指標も根拠の1つとして引き合いに出すというパターンは、年末の量的緩和停止を決定した6月14日の欧州中銀(ECB)理事会でも観察された。

ユーロ圏の統合ベース消費者物価指数(HICP)は、5月分が前年同月比プラス1.9%で、ECBの物価安定の定義に沿う数字ではある。ただし、これはエネルギー価格上昇によってかさ上げされた数字であり、持続性が伴っているとは到底言い難い。

物価動向のベースラインを示しているサービス分野では、価格上昇は均(なら)して見れば鈍いままである。また、ユーロ圏の購買担当者指数(PMI)は1―3月期に続いて、4月・5月も低下した。

それでも、ドラギECB総裁は記者会見で、「理事会は、これまでにインフレの持続的な調整に向け大幅な進展が見られたとの結論に達した」「長期インフレ期待が抑制される中、ユーロ圏経済の基調的な強さ、および金融緩和が引き続き潤沢な水準にあることは、インフレがわれわれの目標に向け引き続き持続的に収束し、純資産買い入れの段階的な縮小後も維持されると確信を持つ根拠となっている」と、景気・物価見通しで強気の姿勢を示した。

こうした米国やユーロ圏の中央銀行とは実に対照的なのが、日銀である。6月15日に出された金融政策決定会合終了後の対外公表文で、消費者物価(除く生鮮食品)前年比についての現状認識は、「1%程度」から「0%台後半」に下方修正された。なんとか追加緩和に追い込まれないようにし、「粘り強い」現状維持でしのごうとしている日銀は、明らかに守勢に回っている。

冒頭で述べたように、米国の利上げ局面は終盤だと考えられる。2019年前半にかけて米利上げ「打ち止め」が市場のコンセンサスになる時、ドル円相場は100円ラインを突破するだろう。そうなれば、日銀は「ヘリコプターマネー」的な外形の追加緩和という円高阻止策発動を余儀なくされるだろうと、筆者は引き続き予想している。

上野泰也 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト(写真は筆者提供)

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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