October 23, 2018 / 5:55 AM / 25 days ago

コラム:為替条項、超円高につながる「地雷」の可能性=上野泰也氏

[東京 23日] - 米財務省が17日公表した最新版の外国為替報告書では、2016年の米大統領戦でトランプ氏が公約した中国の為替操作国認定が実現するかどうかが注目されたが、政権内で穏健派とみられているムニューシン米財務長官は、この認定を見送った。

 10月23日、みずほ証券の上野泰也氏は、日米通商交渉で、日本が「為替条項」を米国から押し付けられるシナリオが、にわかに現実味を帯びてきたと述べ、この条項が潜在的な「地雷」となる可能性を指摘する。2013年撮影(2018年 ロイター/Shohei Miyano)

同報告書によると、中国人民銀行による直接の為替介入は今年、限定的にしか行われていないと財務省は推定。為替操作国に認定されるための基準を中国は満たさなかったという。

とはいえ、中国は、インドや日本、ドイツ、韓国、スイスとともに、引き続き監視対象国に指定された。米財務省は中国人民元の下落を懸念しており、中国人民銀行と協議を続けながら今後6カ月にわたって綿密に監視していく意向だ。

<現実味帯びる日米「為替条項」>

ここにきて米国の為替政策に市場の関心が集まった背景には、上記した中国の問題もさることながら、韓国やメキシコ、カナダに続いて、日本が物品貿易協定(TAG)の本協定あるいは付帯文書で「為替条項」を米国から押し付けられるシナリオが、にわかに現実味を帯びてきたことがある。

ムニューシン財務長官は13日、「われわれの目的は為替問題だ。今後の通商協定には(それらを)盛り込みたい。どの国ともだ。日本だけを対象にしているわけではない」と明言した。これは、トランプ政権内で強硬派とみられるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が以前に述べた内容とも整合しており、為替問題では政権内にブレはない。 

では、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しに際して「為替条項」を受け入れた(と米国サイドが主張している)韓国での状況について、今回の為替報告書ではどのように書かれているだろうか。

該当部分を読むと、韓国ウォンの上昇を食い止めるような為替介入(ウォン売りドル買い介入)の実施状況に、米財務省が非常に高い関心を抱いていることが分かる。

同報告書には、「ウォンはドルに対して17年後半に7%上昇したが、この動きのほとんどは18年に反転した」、さらに「17年11月と18年1月には顕著で憂慮すべき為替介入の増加があり、それらはドルに対するウォンの上昇を緩慢にする目的で行われたようにみえる」といった記述がある。また、「韓国は国内需要を強くすることが重要だ」と指摘しており、これは歴代の米政権が日本に対して輸出依存からの脱却や貿易黒字の削減を強く要求してきた際のロジックと、全く同じである。

「通貨に関する韓国の動きを、最近当局が発表した為替介入の透明性を向上させるという計画も含めて、米財務省は綿密に監視し続ける」という文章で、同報告書のエグゼクティブサマリー(概要)にある韓国の項目は締めくくられている。為替相場は市場が決定するという変動相場制の大原則への信奉に加えて、貿易相手国が競争的な通貨切り下げを行うことは許容しない、という米国の強い意志の一端を感じ取ることができる。

<潜在的に「大きな材料」>

では、日本についてはどのようなことが書いてあるだろうか。

概要では、米国との財貿易で18年6月までの4四半期に700億ドル(約7900億円)の黒字を計上していることや、同期間の経常黒字はGDPの4.0%に達しており、直近10年間の最高水準に近いこと、ほぼ7年にわたって日本は為替介入を行っていないことが指摘されている。

その上で、米財務省が期待することとして、「規模が大きく自由に取引が行われる為替市場において、介入(という手段)は非常に例外的な状況において、適切な(米国との)事前協議を伴った形でのみ、留保される」と明記されている。また、報告書の後半にある詳細な説明部分には、このところの日銀の金融政策運営に関する記述がある。

驚いたことに、日銀が7月末に緩和策の修正を決めた後、ややパニック的な長期金利の急上昇を抑える(市場心理を落ち着かせる)ために8月2日午後に予定外に実施した4000億円の長期国債買い入れについて、「5─10年の日本国債を36億ドル買い入れた」という表現で、しっかり書かれていた。米財務省は日銀によるオペレーションの実施状況も含め、その金融政策運営をつぶさにモニタリングしているようだ。

来年1月にも始まるとみられている日米TAG協議で、米国が日本に対して受け入れを迫る可能性が高い為替条項について、「今すぐ」に円買いに走るべき(さらには日本株売りに動くべき)材料かと言えば、そうではない。

だが、潜在的には非常に大きな材料になる、と筆者は認識している。

なぜなら、将来的に米国の利上げに急ブレーキがかかり、さらには同国の利上げ局面が終了したという観測が広がるなどの事態が発生して、金融政策のベクトル変化を材料に円高・ドル安が大幅に進み、「アベノミクス景気」の土台が揺さぶられる事態になった場合でも、日本の政策当局による為替介入や追加緩和といった円高阻止のための施策が封じ込められてしまうためだ。

為替条項という「地雷」を日本が踏んでしまった場合、円高の流れが強まった際に、それを阻止するために打つべき手が見当たらないという事態に陥ってしまう。

したがって、日本政府としては、なんとか玉虫色の表現を用いた文章を、日米為替条項の「落としどころ」とした上で、米国とは解釈の相違があると主張し続けるなど、円高阻止に必要な政策運営の手足を縛られる事態を極力回避する作戦を考えていかざるを得ないだろう。

ただ、相手があのトランプ大統領であるだけに、どこまでそれがうまく運ぶのかは、むろん未知数である。

*本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

上野泰也氏 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト(写真は筆者提供)

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:下郡美紀

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