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コラム:三つ巴の選挙戦、経済政策はどう違うのか=永井靖敏氏
2017年10月10日 / 03:28 / 9日後

コラム:三つ巴の選挙戦、経済政策はどう違うのか=永井靖敏氏

[東京 10日] - 10日の公示を受け、22日に投開票が行われる衆議院選挙の運動が本格スタートした。安倍晋三首相が解散を決断した時点では、与党勝利が確実視されていたが、希望の党の立ち上げや立憲民主党の結成により、先の読めない展開になっている。

言うまでもないことだが、総選挙の争点は経済政策だけはない。また、経済政策についても、実現可能性を念頭に置く必要がある。ただ、選挙後の経済政策の方向性を読み取る上で、主要政党の経済政策を比較することは重要だ。

<自民党は所得税増税も念頭か>

政策パンフレットによると、自民党はこれまでと同様、「新・三本の矢」を推進するとしている。人づくり革命に力点を置いており、政策の変更点は、子育て世代への投資や社会保障を充実させるため消費税増税分の一部を活用することで、今回の総選挙で国民の信を問うと説明している。

ただし、前回2014年の総選挙前に作成した政策パンフレットでも、「消費税については全額、社会保障の財源とし、国民に還元します」と明記していた。お金に色はないことから、実際の変更点は、消費税の使途変更ではなく、教育投資などへの財政支出の追加とみるべきだろう。

財政健全化目標については、基礎的財政収支の黒字化目標は堅持し、安定的・恒久的財源を確保すると明記しているが、これまで記載していた目標期限に関する「2020年度」とした具体的な表記は削除された。2020年度までの達成が不可能なことは周知の事実で、何らかの修正は必要だったが、達成期限先送りではなく、削除したことで、黒字化目標が有名無実化したと言えそうだ。

財政健全化の手段として、個人所得税改革や各種控除の見直しに言及している点が目新しい。目立たないように記載しているが、自民党は、実質的な所得税増税を検討しているもようだ。高齢化が進むなか、現役世代にはすでに過度な負担が課されている。財政健全化は必要だが、その手段として、現役世代に一段の負担を求める所得税増税は、世代間不平等を高めるだけでなく、現役世代の勤労意欲を削ぐというデメリットが懸念される。

なお、与党が勝利しても、予定通り消費税増税が実施されるとは限らない。振り返れば、安倍首相は2016年6月、2017年4月に予定されていた消費税増税についても、リスクに備える必要があることを理由に挙げ、「これまでのお約束とは異なる、『新しい判断』であります。『公約違反ではないか』とのご批判があることも真摯に受け止めています」と説明し、2年半延期した。再度、「新しい判断」を下す可能性を完全に排除することはできない。

<希望の党は法人課税に軸足か>

希望の党は、消費税増税を凍結する点で、自民党との違いをアピールしている。ただ、政策パンフレットには、消費税増税に「景気条項」が存在していない点を問題視し、2019年10月というタイミングでは景気が失速する可能性が高いという理由で反対している。

つまり、消費税増税に対する考え方は、見かけほど自民党と温度差がない。希望の党が、基礎的財政収支の改善を図る点を指摘した表記も、財政赤字削減の方向性のみ示している自民党とほぼ同じトーンだ。

経済政策の最大の相違点は、財政健全化の財源を企業に求めている点だろう。希望の党は、「約300兆円もの大企業の内部留保の課税を検討する」としている。詳細は不明だが、少なくともこれまで企業が積み上げてきた約300兆円の内部留保に直接課税することは極めて困難だ。内部留保はあくまでも会計上の話で、現預金だけでなく、売掛金や土地建物、機械設備などの固定資産という形態で保有しており、いきなり課税すると、支払い不能に陥る企業が出る恐れがある。二重課税になるという問題もある。

希望の党の小池百合子代表(東京都知事)が、内部留保課税の導入の具体例として、米国、台湾、韓国を挙げたことから、これから稼ぐフローに対する内部留保への課税を想定しているもようだ。企業が利益処分を行う際、内部留保の比率が一定の水準を超えた場合、追加的に課税をする手法で、これなら実現可能性はある。

とはいっても、経済効果は不透明だ。希望の党は、配当機会を通じた株式市場の活性化、雇用創出、設備投資増加をもたらすとしている。ただ、企業が内部留保を増やしたのは、先行き不安に備えるという経営判断に基づいた結果である。税の三原則の1つである「中立性の原則」、すなわち、税制が個人や企業の経済活動における選択を歪めないようにするという点で、内部留保課税は望ましくない。

また、内部留保課税は、一種の法人税増税である。法人税は、国際競争力を高めるため、世界的に引き下げ競争が行われているなか、日本だけが引き上げ方向に動くのは、得策ではないだろう。

希望の党はベーシックインカムも政策集に盛り込んでいる。詳細は不明だが、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンが主張したように、負の所得税と組み合わせれば、税の簡素化、行政の効率化につながり得る。

確かに、ベーシックインカムにはさまざまな問題点が指摘されているが、生活保護を受給していた人に、働いた分の一定割合を還元することで、働くインセンティブを与えられるというメリットが期待できる。「日本をリセット」するほどの力がなければできない抜本的な税制改革であり、実現性は乏しいと言わざるを得ないが、エコノミストとしては興味深い政策だ。

実現可能性のある税制改革として、希望の党は配偶者控除の廃止を掲げている。配偶者控除は、パートで働く多くの主婦にとって、労働時間を一定時間内に抑える要因になっており、「中立性の原則」の観点から望ましくない。女性の活躍の阻害要因になっているほか、企業にとっても現在、人手不足の要因の1つになっている。自公政権下でも廃止に向けた努力をしていたが、一部の反対を受けて問題を先送りしたという経緯がある。

つまり、希望の党は、与党の失点を巧みに突こうとしているようだ。金融政策に関する「日銀の大規模金融緩和は当面維持した上、円滑な出口戦略を政府日銀一体となって模索する」とした方針も、円滑な出口戦略が見えない問題点を批判しているようにも読める。

<立憲民主党は再配分強化を主張>

一方、立憲民主党の最大の特徴は、再配分機能の強化で、その手法として、所得税・相続税、金融課税を挙げている。所得税は、自民党と共通するが、再配分機能の強化という文脈で言及しているため、高額所得者層への増税を意識しているのだろう。

その他の政策は、自民党に近い。これは、これまで自民党が民進党の政策を取り込んだためで、長時間労働の規制、最低賃金の引き上げ、同一価値労働同一賃金の実現などの政策から、自民党との違いを見いだすことはできない。

いずれにせよ、衆議院の枠組みが変化しても、参議院の自公支配は変わらないため、どの新政党も政策パンフレット通りの政策を実現することはできない状況にある。ただし、これまで自民党は野党の政策を取り込むことで、支持層を広げるという手法を用いてきた。政権交代が起きなくても、与党が大幅に議席を失った場合、政策の方向性が変化する可能性があるため、野党の政策や総選挙の結果に注目する必要がある。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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