March 23, 2016 / 6:42 AM / 4 years ago

コラム:日米欧中銀、市場との対話に潜む罠=永井靖敏氏

[東京 23日] - 3月に開催された日米欧中央銀行の金融政策決定会合が市場に与えた影響から、各中銀の特徴が浮き彫りになっている。

欧州中銀(ECB)は、期待以上の行動をしたものの、ドラギ総裁が記者会見で追加利下げに慎重な見方を示したことで、影響を打ち消してしまったと批判されている。日銀は、ほぼコンセンサス通り現状維持の決定を行ったが、サプライズを期待した一部の市場参加者からの失望を誘った。米連邦準備理事会(FRB)は、景況感については強気の姿勢を維持しながらも、利上げ見通し(適正値)を市場に近づけたことで、市場に配慮したと評価されている。

各中銀の対応は、市場との対話に対する考え方に由来しているようだ。ECBの金融政策は、伝統的に有言実行型だ。2012年7月の「ドラギマジック」で、ユーロ危機の鎮静化につながった記憶から、「大言壮語型」という印象を持つ人も少なくないが、「何でもする」とした当時の発言は、「ユーロを守るために責務の範囲内で何でもする用意がある」という当たり前の発言だった。

ECBの場合、政策運営を発動する前に、各国間の調整が求められる。ドラギ総裁の発言後にECBの内部から強い反対意見が出てくると、ユーロ危機の再来につながる恐れもある。ドラギ総裁の発言は、出来ることと出来ないことを明確にすることで、ECBメンバーの意思の統一性を示す狙いがあったと思われる。

<日銀はサプライズ政策の問題点が表面化>

一方、日銀は黒田総裁就任以降、「サプライズ重視型」の政策を実施した。一時的にせよ市場にプラスの影響を与えることで、好循環発生のきっかけになること、サプライズを繰り返すことで、さらなる緩和期待が醸成され、これが市場や実体経済にもプラスの影響を与えることを期待している模様だ。

日銀は、安倍政権から強い後押しを受けて、積極的な金融緩和を行っている。損失発生リスクのある資産を購入することや、損失発生が避けられないマイナス金利の国債を購入することは、日銀の「責務の範囲」を逸脱している可能性はあるが、政府は容認している。使えるものは何でも使うべきという発想なら、サプライズ効果を用いることも正当化できる。

ただし、ここにきて「サプライズ重視型」の政策運営の問題点が、浮き彫りになりつつある。具体的には、市場の期待がエスカレートしたり、政策運営の予見可能性が低下したりすることなどであり、前者については、一部で浮上した3月の追加緩和観測にもつながった。市場は利下げを中心軸とした追加緩和が実施されると予想しており、日銀が今後、「サプライズを伴わない」利下げを行っても、失望を誘う恐れがある。

問題表面化の背景には、結果として長期戦に移行したことがある。短期決戦なら、期待のエスカレートの問題は生じない。例えば、金融危機対応なら、市場の期待以上の行動が正当化される。物価安定目標達成に向けた取り組みも、当初「2年程度を目途」にした「短期決戦型」だった。日銀は依然として早期実現を目指しているが、時間とともに「サプライズ重視型」の問題が拡大しているようだ。

また、後者の予見可能性の低下については、市場の不安定化につながる点に加え、政策効果や議論が曖昧になるという問題もある。すでにエスカレートした緩和予想による効果を利用した政策運営を行っているため、実際に行った政策効果の抽出・分析を行えない状態にある。

さらに、日銀の政策に対する「予想」と「あるべき論」の議論の垣根が曖昧になるという問題も派生する。日銀の独立性が確保されていれば大きな問題ではないが、黒田総裁就任後、政府と日銀は一体となって物価安定目標の早期実現に向けた取り組みを行う方針を示した。このため、市場からのメッセージを真摯に受け止めて行動すべきという政府からの要請に逆らえなくなる恐れがある。予見可能性低下は、「日銀の金融政策は予想しにくい」というエコノミストの「愚痴」以上の大きな問題だ。

<米FRBは市場への過大な配慮がリスクに>

米国について、日欧と金融政策の方向性が異なることから、同じ土俵で議論することはできないが、「市場配慮型」だ。予想外のタイミングでの利上げは、市場の波乱につながる恐れがある。実際にインフレが加速すれば別だが、物価上昇の「合理的な確信」しかない状況下で、市場の予想を上回るペースでの利上げに慎重になる政策運営は「現実的」と評価できる。

ただし、市場の判断が正しいとは必ずしも言えない。世界的な金利低下圧力が米国に波及し、結果として、市場の利上げ織り込み度合いが低下している可能性もあるためだ。05年3月にバーナンキFRB理事(当時)が指摘した世界的な過剰貯蓄が、米金利の低下をもたらしているかもしれない。

金利低下が、世界的な物価押し下げ圧力が波及した結果なら正しい判断だが、2月のコア消費者物価は前年比プラス2.3%まで上昇している。FRBが、声明文で景気の認識を上方修正したように、米国内の経済状況だけに注目すると、利上げ回数を、昨年12月時点の4回から2回に下方修正する理由は見当たらない。

声明文で、世界経済と金融動向のリスクを指摘したが、これまでFRBは基本的に国内経済・物価動向に焦点を絞った政策運営をしてきた。物価の押し上げについては、日欧の中銀が実施した非伝統的な政策の効果が証明されていない半面、物価の押し下げに対しては、利上げという伝統的な手段が確保されている。物価コントロールに対する政策運営手段の非対称性がインフレ下方リスクへの警戒感を強め、これが自らの判断に基づく政策運営の障壁になっている可能性がある。市場への過大な配慮が、今後の政策運営方針の急変につながるリスクを、念頭に置く必要があるだろう。

日米欧の金融政策に対する評価は、後に修正される可能性もありそうだ。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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