August 21, 2019 / 3:13 AM / 3 months ago

コラム:YCC捨てる日銀、拾うECB=唐鎌大輔氏

[東京 21日] - 日本の10年金利が恒常的にマイナス0.2%を割り込んでいる。日銀が許容するプラスマイナス20ベーシスポイントの変動幅が機能していない状況を受け、9月の金融政策決定会合でイールドカーブコントロール(YCC)の枠組みが見直されるのではないかとの思惑が強まっている。

 8月21日、日銀が現在の金融政策の枠組み「イールドカーブコントロール」を見直す観測が浮上する一方、欧州中央銀行(ECB)がこれを導入する可能性があると、みずほ銀行の唐鎌大輔氏は指摘する。写真は ECB本部。3月7日、ドイツのフランクフルトで撮影(2019年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

それでも世界的に金利が下がる中、日本の低下幅が相対的には押さえられており、これは長期金利を一定水準に誘導するYCCの「成果」が出ているとも言える。しかし、設定したレンジを逸脱している以上、説明責任が生じるのも確かである。

<日銀に待ち受けるポストYCC>

もちろん、黒田東彦総裁は「ある程度弾力的に対応していくことが適当」と述べ、YCCを柔軟に運用することへの理解を求めている。現状で厳格にレンジを適用すれば、それは「金利を引き上げる」という判断に至り、円高を招く懸念があるだけに、そのような説明を繰り返さざるを得ないだろう。

日銀の政策反応関数、つまり政策金利を決める上で最も重要な変数である為替を犠牲にしてまでプラスマイナス20ベーシスポイントのレンジにこだわる理由はない。また、消費増税直前にそのような自滅を図る理由もない。

要するに、現状の経済・金融動向を踏まえる限り、「金利低下は黙殺が吉」というのが日銀の本音だろう。しかし、レンジを修正して変動幅を広げる現状追認は、結局のところYCCの有名無実化であり、永続性のある対応ではない。ある程度の時間稼ぎをしたところで、今の状態が続く限り、日銀を待ち受ける次の課題が「ポストYCCの枠組み作り」であることは否定しようがない。

繰り返しになるが、世界を見渡せばYCCが奏功しているからこそ円金利の低下が穏当なものにとどまっており、それが銀行株を中心とした株価の大崩れを抑止している面もある。それは円金利のリバーサルレート化(行き過ぎた緩和による悪影響)をYCCが抑制しているという意味で望ましいという考え方もあるが、円高を前に金融機関の収益性(とその先にある健全性)といった論点は脇に置かれる公算が大きい。

日銀のYCC終了がささやかれる一方、これに関心を示す海外の中央銀行もある。

例えば米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード理事は今年5月の講演で、「特定の証券の利回りをターゲットにすること」に関心があると述べ、「伝統的に操作対象としてきた短期金利がゼロ%に達した場合、やや長期の国債を対象にするかもしれない。例えば最初は1年物金利を対象にし、さらなる刺激が必要ならば、恐らく2年物金利を対象とする」との胸中を明らかにしている。

これはYCCを念頭に置いた発言に聞こえる。もっとも、現時点でFRBにはあと8回の利下げ余地がある。将来的にYCCの導入を強いられるとしても、まだ幾分かの時間稼ぎは可能というのが実情だろう。

<ECBは量的緩和再開が視野に>

次の枠組みを検討する必要があるのは、FRBよりも恐らく欧州中央銀行(ECB)だ。ドイツの10年金利はマイナス0.70%まで沈んでいる。マイナス金利政策が銀行部門を毀損(きそん)している可能性について、今年春の時点でECBが憂慮し始めていたというのは、かなり懸念すべき状況である。

すなわち、ECBのマイナス金利がリバーサルレート化している疑いが強いということだが、日銀同様、自国通貨の価値を低めに誘導することが優先課題となりがちなECBでも、銀行部門の健全性という論点は脇に置かれる可能性が大きい。

しかし、ECBはすでにマイナス0.40%という日銀よりも深いマイナス金利を当座預金(と預金ファシリティ)にチャージする状況にある。1、2回の利下げは検討されても、それ以上の深掘りは困難だろう。近い将来において「金利」ではなく「量」の議論にシフトせざるを得ないことは目に見えている。

要は、量的緩和(QE)の再開、厳密には拡大資産購入プログラム第2弾(APP2)の検討である。

その導入も単純ではない。域内国債の金利水準があまりにも低いからだ。現状、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの4大国に加え、ベルギー、オランダ、オーストリアといった準中核国の国債までもがマイナス圏に水没しており、現時点でプラス金利を辛うじて維持しているのは「PIGS」で総称される南欧4カ国のポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインぐらいだ。スペインに至っては、概ねゼロ金利付近であり、水没は時間の問題という雰囲気も漂う。

このコラムを執筆している時点で米10年金利は1.6%、これに対してイタリアの同年限が1.4%、最も高いギリシャでも2.0%である。足下の成長率がゼロで、景気後退入りの瀬戸際にあるイタリアの国債金利のほうが、潜在成長率並みの成長が続き、労働市場が完全雇用に到達しつつある米国よりも低い状況をどう理解すべきだろうか。また、ギリシャと米国の金利差が50ベーシスポイントもないというのも、直感的には強い違和感を覚えるところだろう。

域内のこうした超低水準の金利を出発点としてECBが「量」の路線に舵を切るということは、歴史的高値圏にある国債を積極的に買い進めるという判断にほかならない。出資金比率に沿って購入すれば、先進国で最も深いマイナス金利に陥っているドイツ国債の買い入れ額が最も多くなるはずだ。

昨年末にAPPを停止している分、ECBが「量」に訴えかける余地はまだ残されているようにも見えるが、上述の通り、マイナス利回りの国債を大量に抱えるという政策判断は中央銀行として難渋するだろう。APP2を決定するにしても、相応の障害があるのが現実だ。

<「水準」よりも「方向感」に焦点か>

日銀は2016年1月、「量」の限界を認識し、「金利」の道へ回帰した。その結果導入したのがマイナス金利だったわけだが、同年9月には金融システムへの影響などを念頭に、その追求は難しいと判断し、10年金利をゼロ%程度にとどめおくYCCを採用した。

要するに、「量」も「金利」も限界が近づいた際、「意図した水準に金利を固定する」という着想に至り、それがYCCとして結実したのである。前後左右どこにも動けなくなったので、「動かなくする」しか選択肢がなくなったとも読める。

ECBに再び目を向ければ、「量」にも「金利」にも余地がなくなりつつあり、やはり「動かなくする」ことが検討されやすい状況だ。

しかし、ECBがYCCを検討するにしても、「どの国の金利を対象とするか」という問題点がある。国内総生産(GDP)で加重平均した加盟国の10年金利だろうか。それは本質的には経済規模の大きい中核国と準中核国の金利操作に過ぎないので問題含みだ。

金利の「水準」が駄目なら「方向感」という発想はあるかもしれない。日銀のYCCでも目標値のゼロ%程度からプラスマイナス20ベーシスポイントというレンジを設けているが、これにならうように、「加盟国の10年金利に対してある時点(例えばAPP2を決定した政策理事会の日)からプラスマイナス20ベーシスポイントに限定する」といったやり方はあり得る。出発点となる「水準」がバラバラな以上、基準日からの変動幅を設定するしかあるまい。

これはナローパスだがECBに残された数少ない手段の1つと考えられる。枠組みの完成度が各国中銀の市場調節に委ねられる、言い方を変えれば「ECBに委譲された裁量の再委譲」という面もはらみ、ECBとしてはそれなりに重い判断になるようにも思える。

いずれにせよ、「APP2とECB版YCC」の組み合わせには技術的な創意工夫が必要なことは確実だ。内部の専門委員会への作業指示を経て決定という流れを踏むことになるだろう。今年11月以降、ラガルド新総裁誕生後の見どころの1つと言える。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

(編集:久保信博)

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