February 21, 2018 / 3:17 AM / 8 months ago

コラム:視界不良のドル円、5つの論点で占う反転シナリオ=山口曜一郎氏

[東京 21日] - 足元でのドル円相場は円高ドル安の地合いが続いており、16日には一時1ドル=105円台半ば(105.55円)まで下落した。本稿執筆時点(日本時間21日正午)では107円台後半まで戻しているが、センチメントは今なお円高方向という声が多く聞かれる。

また、テクニカル的には、106円台後半をいったん下抜けた後は「真空地帯」であり、100円近辺までサポートラインがないと言われている。

すでに多くのエコノミストやアナリストが今回のドル円下落の要因分析を行っていること、後解釈を試みると事実に対して無理やりロジックを作ってしまう恐れがあることから、あまり下落の理由探しにはこだわらない方がよさそうだ。

だが、今後の相場展開を予想するには、ある程度、今回の変動要因に当たりをつけておく必要がある。また、今もなお、市場関係者の間では、正直なところ何で下落したのかよく分からないという声もあるため、筆者なりに状況を整理してから先行きを考えてみたい。

<金融政策動向と米保護主義>

ポイントは5つある。1つ目は、金融政策の方向転換のインパクトは2国間の金利差を凌駕するという考えだ。

1つの例が、昨年半ばからのユーロの値動きである。政治懸念が大きく後退し、ユーロ圏経済は一段と拡大。これを受け、欧州中央銀行(ECB)が金融緩和縮小の姿勢をほのめかしたことから、ユーロが急速に上昇した。昨年初めに1ユーロ=1.05ドルだったユーロドルは、現在1.23ドル台での推移となっている。

日本に関しては、昨年11月の黒田東彦日銀総裁の「リバーサルレート」への言及、今年1月の日銀オペ減額、同じく1月の「(日銀が掲げる2%の物価上昇目標に)ようやく近づいている」との黒田総裁発言などが金融政策の方向転換として受け止められた。

筆者は、この動きは年後半になってから出てくるとみていたが、市場関係者は上記の材料から前倒しで反応した。ただし、前倒しで反応して、先に円高が進むと、逆に金融政策の方向転換が後ずれする可能性がある。

2つ目は、トランプ米政権の保護主義的な行動や、1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でのムニューシン米財務長官の「明らかにドル安はわれわれにとって良いことだ。貿易や各種機会に関わるからだ」との発言が、市場参加者の頭の中にインプットされたことが挙げられる。

ムニューシン長官はその後、訂正発言を行っているが、いずれまた同様の発言が出てくるかもしれないという思いが人々の頭の隅に残っているだろう。このまま沈静化すれば、時間が解決してくれるだろうが、しばらくは潜在的にドル円の上値を重くする。

<世界外貨準備のドル比率低下が影響か>

3つ目は、米国のインフレ上昇に対する懸念だ。2月14日に発表された米1月消費者物価指数(CPI)は前年比2.1%上昇した。このことは、マーケットではドル売りの要因だと分析されている。

筆者は、この点については、やや疑問を持っている。インフレは好調な経済によるものであり、ついこの間までは景気が良いのに賃金やインフレが上がってこないことが「ミステリー(謎)」と言われていた。ようやく正常な動きとなり、実質成長率も上向いている中で、これがドル安要因と言われると不思議な感じがする。

4つ目は、グローバル経済が上向く一方、米国の債券市場、株式市場が大きく調整するという状況で、現在は米国以外の資産が選好されていることだ。このことが、為替市場では、相対的にドルが弱い原因として考えられている。

ただし、これはリアルタイムではデータで確認することが難しい上、事後的にも、米財務省が公表している国際資本統計などでどこまで確認できるかは定かではない。いずれにせよ、状況分析からこのような可能性があることには留意しておきたい。

5つ目は、各国中央銀行の外貨準備におけるドル以外の通貨比率が上昇している可能性だ。国際通貨基金(IMF)が公表している世界の外貨準備の通貨別データでは、2017年第3四半期時点で、外準に占めるユーロの割合は20.04%となっている。

筆者は、政治リスクの大幅後退や金融政策の緩和縮小などの流れの中で、20%台前半まで組み入れ比率が回復してくる可能性をみており、足元ですでに進行中と考える。外貨準備の構成比率をドルからユーロに移すため、ユーロ買いドル売りの圧力となる。

また、1月にドイツ連邦銀行(中央銀行)が外貨準備に人民元を加えると発表しており、金額としては大きくはないが、人民元の組み入れ比率も2017年第3四半期の1.12%からは上昇している公算が大きい。円自身に強い買い要因がなくとも、このような動きが円相場に影響した可能性はあるだろう。

<105円割れではドル投資妙味が高まる可能性>

大胆な議論を展開すれば、1つ目については、マーケットは日銀金融政策の方向転換を前倒しで織り込んでおり、ここが修正される可能性がある。加えて、もしも一段と円高が進むようであれば、金融政策の出口シナリオ自体が変わってくる。

2つ目は、ある程度は時間が解決してくれる。3つ目は、金融市場の混乱の中で材料視されている要因であり、必ずしも本質的ではない。

4つ目は、米国の資産価格および為替の調整が進めば、どこかで投資妙味が出てくる。特に利回りが3%近辺に上昇している10年物国債(米10年債)など債券の魅力が高まりつつある。

5つ目は、外準の組み入れ比率変更が今後、どの程度加速するか、あるいは減速するかであり、もしもユーロの組み入れ比率がすでに20%台前半まで上昇しているのであれば、ここからのドル売り圧力は弱まる。

また、経済状況や金融政策の段階が異なるため、全く同じに扱うことはできないが、2004年の米連邦準備理事会(FRB)による利上げは参考の1つになるかもしれない。当時は、6月末に利上げを開始した後、秋から翌年初頭にかけて、ドル円は110円前後から101円台後半まで円高ドル安となった。

しかし、その後、ドル円は反発し、利上げが続く中、2005年12月には121円前半まで値を上げた(むろん当時のブッシュ政権下でのリパトリ減税の影響もあったが)。ちなみに、その間の米10年債利回りは3.80―4.70%でのレンジ相場、米S&P500株価指数は1150から1060に下げた後、1270まで反発している。

これらを踏まえると、注目するポイントして、外貨準備を含めたドル以外の通貨や資産への分散投資が今後どの程度進むか、他方、ドルおよび米資産への選好がどこで戻ってくるか、が挙げられる。1年かけて進むと思っていた金融市場の動きが2カ月足らずの間に予想以上に進んだことを考えると、どこかで揺り戻しがあるとみる。ここからさらにドル安が進むようであれば、ドル資産購入の意欲が出てきてもおかしくない。

前述した通り、ドル円については、テクニカル的には100円近辺までサポートラインがないと言われている。それが足元で市場参加者が手を出しにくい一因とも考えられているが、105円割れの水準では、投資妙味を感じた市場参加者がドル買いに転じる公算は相応に大きいのではないか。

だとすれば、105円アンダーに下落したとしても滞空時間は短く、その後は110円台を目指し、さらには今や高嶺の花となってしまった115円をうかがう展開もあるとみる。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年にニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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