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コラム:日ロ関係の複雑化招く「米中」要素=斉藤洋二氏
2016年12月26日 / 03:37 / 1年後

コラム:日ロ関係の複雑化招く「米中」要素=斉藤洋二氏

[東京 26日] - ロシアのプーチン大統領が12月15―16日、首相時代の2009年以来7年ぶりに来日し、日ロ首脳会談が行われた。

プーチン大統領は就任以来、日本との対話を頻繁に行っていることから、日ロ平和条約締結の前提とされる北方領土問題の行方が特に注目されたが、ロシア側が経済協力問題を優先する中、両者の主張はすれ違ったままで終わったようだ。

今後の日ロ関係は、ロシア側に日米同盟への根強い不信感が存在していることから、一筋縄での進展を期待するのは難しい。ただ、北方領土での「共同経済活動」が語られたように、日本の経済協力が両国の未来をつなぐ鍵であることが再認識されたと言えよう。

ついては、ロシアの極東進出の実情と日本への接近の意図について、考えてみたい。

<極東開発を急ぐロシア>

ロシアのクリミアにおける帝国主義的行動に対して、欧米が2014年3月に経済制裁を発動して以来3年近くが経った。欧州は、天然ガスの約3割をロシアに依存している(バルト3国や東欧諸国はほぼ100%)。

したがって、欧州各国では制裁の長期化に悲鳴が上がっているが、欧州連合(EU)は今後も強い姿勢で臨むと言明しており、しばらくこの戦略は継続されることになるだろう。

一方、ロシアは、農産物や食料品などの輸入禁止措置(逆制裁)で対抗しており、その結果、国内は物不足に陥るなど国民生活に支障が出ている。さらに、資源安や通貨安も重なり、経済は疲弊。成長率は過去3年間、ゼロ%台からマイナス3%台で推移するなど厳しい状況が続いている。

このようにウラル山脈の西側では苦戦するロシアだが、ウラル山脈の東側、つまりシベリア・極東開発の手を緩める気配はない。もともとロシアの「東進」は16世紀にイワン4世(雷帝)がコサックに探検を命じて以来、探検隊やラッコの毛皮を求める商人によって進められたと言われる。現在はさらにアジア太平洋へと乗り出そうとしているところだ。

ロシアにとって、この「東進」と、不凍港を目指す「南下政策」が国家の宿願だったことは有名な話だ。現在、黒海艦隊はウクライナのセバストポリ港、シリアなどに補給港を確保しているが、太平洋艦隊はウラジオストクを拠点に極東での活動を活発化させている。極東はエネルギーのみならず軍事的にも重要であり、択捉島と国後島には最新鋭ミサイルが配備されたと報じられている。

また、極東における重要な拠点として位置付けられているウラジオストクでは、2012年にアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開かれた。同市はロシアの太平洋への表玄関として、空路・海路で日本やアジア諸国と結ばれている。

加えて、ロシアは2014年5月に、世界最大の天然ガスの輸入国である中国との間において、期間30年・総額4000億ドルの大型売買契約を締結した。

中ロ間では長年、アムール川(黒竜江)流域などで国境紛争が続いてきた。だが、ロシアは1990年代にまず最大の係争地となっていたダマンスキー島(珍宝島)の中国帰属で合意し、さらに2004年、残る係争地をほぼ二分割し、中国との国境問題を事実上終結させた。ロシアはその後、中国資本を導入することで、極東開発を前進させている。

また、東シベリア・太平洋石油パイプライン建設において、スコボロジノ・大慶間の中国向け支線が日本向け支線に先行して建設された。このように中ロ両国は、中華人民共和国建国当時以来の蜜月状態となっており、エネルギー戦略とユーラシア大陸での覇権確立に向けて共同歩調を取っている。

<ロシアの資源と日本の技術>

1945年2月のヤルタ会談において、ソ連が対日参戦した場合の条件として、千島列島と南樺太をロシアの領土とするとの密約が当時のルーズベルト米大統領とスターリン・ソ連共産党書記長、チャーチル英首相の間で交わされたとされている。さらにスターリンは北海道の北半分を自国領にするとの考えを有していたと言われ、ソ連は同年8月、択捉島と国後島を含む千島列島や歯舞群島、色丹島を占領し、今日に至っている。

60年前の日ソ共同宣言(1956年署名)では、両国は平和条約締結交渉を行い、締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとしているが、実際はロシアの実効支配が続いたままだ。しかし、欧米の経済制裁によりロシアの懐事情は苦しく、極東の開発には中国に加えて日本の協力が欲しいところだろう。

そのような環境下、ロシアは、日ロ平和条約を締結することに前向きな姿勢を示しているが、北方領土問題をめぐる両国の認識の違いが今回のプーチン大統領来日時にも改めて浮き彫りとなった。

しかし、日本側から提示されるさまざまな経済開発プロジェクトは、ロシアにとって魅力的であるはずだ。ロシアはアジア太平洋への進出意欲が強く、その点でも日本との結びつきが強まるのは渡りに船である。

特にロシアの資源と日本の技術は補完的であり、互いに垂涎の的だ。実際、極東においてサハリン海洋石油ガス開発事業はすでに本格的に稼働しており、日本にも天然ガスが輸出されている。

一方、ロシア側が日本側に期待しているのが、ハイテク技術だ。資源輸出に頼らない経済成長を目標とするプーチン大統領が、日本企業からモノづくりの技術修得を目指しているのは明白だ。

ロシアは、資源を輸出し、機械製品などを輸入する対外依存型経済からの脱却を図っている。それは、中国との協力関係からは得られないものであり、技術立国・日本を相手にするからこそと言えるだろう。

<米ロの板挟みは日本外交の宿命>

加えて、ロシアは、アジアの繁栄を国内経済に取り込むために、また日米同盟そして欧米の緊密な関係にくさびを打ち込むためにも、日本との関係改善を優先するだろう。ロシアが目指しているのは、アジア太平洋での経済的、軍事的なプレゼンスを高めることだ。その延長線上において日本との関係緊密化を図っているのである。

他方、日本がロシアとの関係改善を図っていこうとすれば、米国が重要なカードを握ることは明白だ。プーチン氏との良好な関係をアピールしているトランプ次期米大統領の存在が、日ロ関係にとって吉と出るのか凶と出るのかはまだ不透明だ。

次期米国務長官に選ばれたティラーソン氏(エクソンモービル会長)は親ロシア派とされるが、次期米国防長官に指名された元中央軍司令官のマティス氏は「狂犬」の異名を持つ元軍人だ。ロシアには穏当でも、そのロシアと連携を深める中国に対して、トランプ次期政権がどう出るかは分からない。日ロ関係の命運は、とどのつまり、米国の世界戦略次第ということだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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