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コラム:円相場の「大いなる安定」崩壊はいつか=斉藤洋二氏
November 27, 2017 / 4:03 AM / in 17 days

コラム:円相場の「大いなる安定」崩壊はいつか=斉藤洋二氏

[東京 27日] - 今年もクリスマス商戦が始まり2017年の総括と2018年の予測を行う季節が巡ってきた。過去30年を振り返ると1987年のブラックマンデー、1997年のアジア通貨危機、2007年のパリバ・ショックと10年周期で7の年には金融危機が起きた。

中銀による緩和マネーがあふれる金融市場において1カ月もあれば何が起きてもおかしくないが、ひとまず年内の金融危機の可能性は薄れたと言っても良さそうだ。

2017年の金融市場は米国株(ダウ工業株30種)が約20%に当たる4000ドル近く上昇したようにトランプラリーの1年になった。同時に日本においても経済成長が「いざなぎ景気」越えを実現するとともに世界同時株高の波に乗り、株価(日経平均株価)も26年ぶりに一時2万3000円を超えた。

一方、ドル円相場を振り返れば、トランプ米大統領によるインフラ投資とリパトリ減税への期待から118円台の高値で始まった。しかし、その後は米政権の不安定感に北朝鮮リスクへの不安が加わって下押しされ、結局、107―108円台から114円台の間を3往復する一進一退が続くことになった。

つまり、2017年の為替相場は、かつての株高・円安といったような株価と為替の連動性が失われたことに加えて、年間の変動幅が11円程度と比較的変化の乏しい1年だったと記憶されることになりそうだ。

とはいえ、いまだトランプノミクスと米金利上昇への期待が相場を下支えしており、ドル円相場には安定感が漂う。では、2年にわたり100―120円レンジで継続している円相場の「大いなる安定」はドル円再上昇に向けての踊り場なのか、はたまたドル円下落への出発点なのか。これが2018年の注目点である。

<日本にとっては居心地の良い水準>

そもそも為替相場は購買力平価(PPP)を中心に期待と不安そして欲望と恐怖が交錯しては上下動するものと言えるが、最終的にはその時々の為替需給が水準を決定する。中心軸となるPPPには消費者物価ベース、輸出物価ベース、企業物価ベースなどがあるが、各々の水準が大きく異なることから、残念ながらその適正水準がどこにあるか特定できない。とりあえず企業物価ベースのPPPが示す90円台後半から100円程度が1つの水準と考えて良いのかもしれない。とすれば現在のレンジはやや円安に傾いているように見える。

一方、過去5年のドル円平均レート(年間)を見ると、2012年から2016年にかけて、それぞれ79円台、97円台、105円台、121円台、108円台と推移しており、2017年は1―10月で112円台だ。つまり、2012年末の安倍晋三政権誕生後の3年間において一時は40円以上円安が進んだが、その後の2年は上昇力が失われ、110円前後を中心に比較的落ち着いている。

相場安定の理由として挙げられるのは、まず2015年6月に125円越えの相場について「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準になっている」とし、ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは「普通に考えればありそうにない」との黒田東彦日銀総裁による発言が今も心理的に天井を形成している結果だ。

実際、120円以上では輸入企業群そして一般消費者から円安への怨嗟の声も強まるし、一方で100円割れに対する輸出企業そして政府の景気失速への恐怖感も尋常ではない。つまり、現在のレートは日本経済にとって、いたって居心地が良い水準ということだ。

そして、第2の理由として、為替需給が均衡していることだ。この2年間右肩上がりのトレンドが消え相場が安定化しているのは、2017年度上半期が11.5兆円の黒字になったように経常収支黒字が膨らんでおり、金融収支に分類される日本の機関投資家などによる証券投資や企業による海外直接投資などとの間で均衡が実現しているためと考えて良いだろう。

そもそも需給には目的別に実需、仮需、投機の3種類があり、需給は短中期的にこそ仮需や投機に大きく左右されるが、長期的には実需が相場の決定要因になる。2013年から2015年にかけてのドル高円安はアベノミクスの影響とされるものの、実際のところは原発停止にともなう化石燃料輸入増に起因した貿易収支の悪化によるものだったことからも明らかだ。

<米金利と原油価格の上昇期待に落とし穴>

もともと「大いなる安定(グレート・モデレーション)」とは、リーマン・ショック前の、株式や債券など金融市場が安定し、堅調な経済成長がもたらされていた状況を指した言葉であり、2004年に当時米連邦準備理事会(FRB)の理事を務めていたバーナンキ氏(のちの議長)が講演の題目としたことで世間に知れ渡った。

とはいえ、今となってみれば、しょせん永遠の安定などあるはずはなく、また安定の後には不安定が生じるものであり、安定が長く大きいほどその後の波乱も大きいということだ。

それでは何が目下の円相場の「大いなる安定」を突き崩す材料となるのか。それは米国の長期金利と日本の為替需給の変化ではないだろうか。米国の長期金利(10年国債利回り)については、年初来はほぼ2.1―2.6%の範囲で推移し、目下の2.3%台からの上昇が相当適度織り込まれている状態だ。

しかし、米国での労働市場の現状は労働需給が引き締まり、失業率は4.1%と低水準になっているものの、FRBが物価の目安として注目するコア個人消費支出(PCE)物価指数は目標の2%を下回り続けている。これこそが、FRBが利上げに逡巡する理由であり、たとえ政策金利が今後引き上げられても期待インフレ率の上昇とともに長期金利が3%へと接近する際の足かせになる。逆に現在の水準から下落傾向を示しでもすればドル安円高の可能性が高まる。

一方、為替需給については原油価格の動向および機関投資家の行動に大きく影響される。現状、石油輸出国機構(OPEC)やロシアによる減産体制が堅持され、またサウジアラビアにおける内政・外交面での緊張が原油相場の上昇をもたらしている。従って2018年以降も原油需給のひっ迫感が強まるとの見方が根強いが、万が一、余剰感が出たりすれば為替需給が緩み、ドル円相場への下押し圧力が強まる。また、機関投資家も外債投資において為替オープンを進めているが、円相場の不安定化次第では為替ヘッジ付きの比率が上昇し、相場を下押しする可能性が高まる。

このように2018年のドル円相場は、米国金利と原油価格の上昇期待が続く限り安定を続けるだろうが、期待は時間の経過とともにしぼんでいくこと、上がった相場は下がること、さしたる理由がなくても相場は動き出すこと、そして理由は後からついてくるといった数々の経験則を無視することはできない。つまり、一見盤石に見える100―120円の「大いなる安定」はいつ崩壊するとも限らないのである。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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