December 27, 2017 / 2:10 AM / 9 months ago

コラム:2018年の円相場左右する「5つのリスク」=斉藤洋二氏

[東京 27日] - 2017年の円相場はトランプ米大統領への期待による円売りと朝鮮半島リスクを嫌気した円買いが交錯して107円から115円の間を往復し、結局、112―113円前後で越年する気配が濃厚となってきた。従って、2018年の円相場もこの地合いを引き継ぎ、円安を基調としつつも地政学リスクが台頭するたびに円高圧力を受ける展開が予想される。

円には依然、地政学リスク発生時の逃避通貨としての役割が大きく、世界で安全保障に関わる深刻な事態や金融ショックなどが発生するたびに円高の動きが強まることは不変だろう。さらに対外純資産残高が膨らみ、かつ投機的なポジションが円売りに傾いていることから、リスク表面化のたびに円買いが強まる環境にある。

では、2018年にその円買いを引き起こしそうなリスクとは何か。以下、特に懸念される5つに絞って、分析を試みたい。

<トランプリスク>

第1のリスクとして米国の政治リスク、つまり「トランプリスク」が挙げられる。トランプ大統領の就任1年目はホワイトハウスの混乱や国際協調体制への挑戦的な言動などが不安視された。しかし、公約として掲げた大型減税やインフラ投資などへの期待が政権への不安を上回る形となって株価も上昇し、経済・金融面ではひとまず無難に過ぎた。

とはいえ、米国内を見れば格差の拡大が進む一方で、人種問題がクローズアップされ社会の分断が進んでいる。そして、対外的には「自国第一主義」を唱え重商主義に立ち返ったような政策理念を打ち出しては世界の安定をかく乱する事態を招いている。その矛先は公約の実行を目指して中独日など貿易黒字大国や中東へと向かい、安全保障と通商をディールしようとする姿勢は世界各地で摩擦を起こしては地政学リスクの懸念を増幅させている。

従って、就任2年目については、ロシアとの癒着疑惑(ロシアゲート)を巡る捜査の進展や、政府の多くの要職が空白状態であることによって、米国の外交政策に不備が生じる恐れが拡大する。その結果、これらに起因したトランプリスクの金融市場への波及を注視する必要性が高まる。

<東アジアリスク>

第2のリスクは北朝鮮と中国が位置する東アジアだ。円が直撃されるリスクは深刻である。北朝鮮は核開発とミサイル発射を繰り返しているが、当面この脅威から日本が解放される可能性は低い。

米国による対話と圧力の両面政策は不変だとしても、どこかで劇的な局面展開となる可能性を否定できない。それが平和的解決なら良いが、決定的な対決になれば円相場への影響は大きい。

そして、東アジア安定の要(かなめ)の役割を担う中国は、すでに世界の国内総生産(GDP)の15%に達する経済規模を誇る大国となったが、さらに外交や軍事上果たす役割は拡大する一方だ。そうした状況下、この超大国を独裁的に統治することになった習近平国家主席への権力集中は、国内にとどまらず、東アジアのリスクでもある。

要するに、「北京で蝶(ちょう)が羽ばたくとニューヨークで嵐が起こる」とのたとえ話の通り、チャイナリスクは世界のテールリスクなのである。

<ユーロリスク>

第3のリスクはユーロリスクだ。2017年の欧州は英国の欧州連合(EU)離脱交渉が進む一方で極右の台頭にも歯止めがかかり政治的安定が見られた。さらに予想外にユーロ圏経済が好調だったこともユーロのポジティブサプライズとなった。

そして、2018年もこの好環境が維持されるかが注目されるが、足元で欧州の盟主として指導力を発揮してきたメルケル独政権が揺らいでいる。9月に議会選に勝利したものの、連立協議の難航が続き、いまだ組閣できない。

議席数を減らしたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は少数与党に転落するか、社会民主党(SPD)と大連立により政治的こう着を脱するか、それとも再選挙を行うかの選択肢を有するが、どれを選んでもこれまでの12年間とは異なり4期目のメルケル政権の弱体化は否めず、ユーロの不安定要因となる。

さらにイタリアの総選挙、ギリシャの債務問題など不安材料が横たわる。欧州では一朝事あれば直ちに欧州統合の先行きへの悲観論が台頭するのが常態化しているだけに、ユーロ危機の再来がいつも背中合わせである点に対する備えは肝要だ。

<中東リスク>

第4のリスクは中東だ。日本は化石燃料の大部分をこの地域に頼っているだけに、中東情勢の円相場への影響は甚大だ。その目玉となるのが人口増大と原油価格下落により経済状況が悪化しているサウジアラビアだ。

同国ではムハンマド皇太子がトップダウンでサウジアラムコの新規株式公開(IPO)などの経済改革を進め、さらに周辺シーア派諸国への強硬路線を打ち出している。こうした動きが中東情勢をさらに流動化させる可能性は高い。

中東では過激派組織「イスラム国」(IS)問題こそ一段落しつつあるものの、対IS作戦でシリア、イラクなどと連帯を深めたシーア派大国のイランの存在が強大化した。このイランに対しスンニ派の代表であるサウジアラビアは対決姿勢を強め、イランの影響を強く受けるレバノンやイエメンさらにはカタールなどとの外交関係の対立が表面化している。

加えて、米国がエルサレムをイスラエルの首都と宣言するなど中東政策の変化は新たな火種となりつつある。2017年は北朝鮮リスクに明け暮れたが、2018年は中東発の地政学リスクに目を離せなくなりそうだ。

<黒田リスク>

第5のリスクは、円相場のおひざ元である日銀の金融政策動向、すなわち「黒田リスク」だ。2018年4月に黒田東彦総裁の5年の任期が切れるが、その後任人事は安倍晋三首相の腹の内だ。

続投にしても新たな総裁が選任されるにしても基本的にはリフレ派の人が選ばれることになるのだろう。その点で基本路線は踏襲されるが、これまで一貫して進められた異次元緩和に対して修正が行われる可能性は否定できず、その非連続性がリスクの根源となる。

すでに量的緩和策の影響下、日銀の保有資産は500兆円を超えており、その資産価値の変動が日銀の財務に与える影響は極めて大きくなっている。また、緩和政策継続による銀行経営に対する副作用も大きくなっていることから、実質的な緩和縮小(テーパリング)が進んでいくのではないだろうか。現行のイールドカーブ・コントロールによる低金利政策も永遠に不変とは行かず、その修正とともに金利上昇圧力が高まるのは避けられない。

これまで述べてきたように、円はトランプリスクから黒田リスクまで5つのリスクに囲まれている。ここにさらに、米国景気の息切れも加わるようなことがあれば、2012年末に始まった5年にわたる円安地合いが一変する可能性は否めない。2018年は、要警戒の年だ。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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