January 22, 2018 / 4:47 AM / 7 months ago

コラム:「戌笑わぬ」2018年の円高シナリオ=斉藤洋二氏

[東京 22日] - 1月も下旬になって、2018年の相場予測を干支(えと)に絡めて語るのは、時期外れの感は拭えない。とはいえ、相場格言をひも解けば、「申酉(さるとり)騒ぐ、戌(いぬ)笑う」と言われるだけに、2018年は戌が笑ってくれるのか、つまり円安・株高のリスクオン相場が継続するのか気になるところだ。

申年の2016年も酉年の2017年も、中国株の下落や北朝鮮リスクを懸念し、迷走気味のスタートとなったが、戌年の2018年も同様に前途多難の始まりとなった。

1月10日には、中国が米国債購入の減額・停止を検討しているとの一部報道を受け、米国債(10年物)の利回りが10カ月ぶりの高値水準である2.60%付近まで上昇(22日東京時間午後1時現在は2.65%付近)。翌日の11日、中国当局が報道を事実上否定したので、市場の動揺はひとまず収まったが、米国の赤字は中国など海外マネーに依存していること、そして、その動き次第では米国の根本がぐらつきかねないことを改めて浮き彫りにした。

つまり、トランプ米大統領が自国第一主義をいくら唱えたとしても、現代の国際金融市場は多国間協調の上に成り立ち、複雑な構造になっていることを証明したと言えよう。

実は、この情景には既視感を覚えた。それは、1997年6月に橋本龍太郎首相(当時)が米コロンビア大学での講演で質問に答える形で、「大量の米国債を売却しようとする誘惑にかられたことは幾度かある」と発言したことだ。これを受け、115円台にあったドル円相場は7月初旬にかけて111円後半まで円高が進んだ。当時の日本は、今の中国のように米国に対する影響力を保持する大国だったのだ。

為替に話を戻せば、ドル円相場はその後、アジア通貨危機を挟んで、いったん147円台まで円安が急激に進んだ後、円買い・ドル売りの日米協調介入やロシア財政危機、大手ヘッジファンド(LTCM)破綻などを受け、円高方向に急旋回した(1998年10月には、数日間で136円付近から111円台半ばまで円が対ドルで急騰したこともあった)。国際情勢いかんで、変動相場がいかに乱暴に動くかは、こうした過去の教訓が示している。

2018年については、よもやそこまでの事態が起こるとは、筆者も想定していないが、「ゴルディロックス(適温)」や「グレート・モデレーション(大いなる安定)」といった聞こえの良い言葉が躍り、楽観が相場を支配していることは気になるところだ。北朝鮮情勢もさることながら、昨年1月のトランプ政権発足後、国際情勢は日に日に不安定さを増しているようにみえる。

また、米国自体、与野党の対立で連邦政府のつなぎ予算が20日に失効し、オバマ前政権下の2013年10月以来約4年ぶりに政府機関の一部閉鎖に追い込まれるなど、政権運営は安定さを欠く(その後、つなぎ予算は22日成立し、政府機関の一部閉鎖は解除されたが、同予算は2月8日に期限を迎える)。

筆者は、地政学や米国政治の専門家ではないので、そこは諸賢の論考に任せたいが、経済分野では、次の2点に2018年以降の相場を読み解く重要な鍵があると考える。1つは日本経済が抱えている構造的な不況の芽、もう1つは世界的に進む金融政策正常化の流れだ。このいずれのリスクも、「戌笑わぬ」2018年、つまり円高・株安基調への転換を示唆しているように思う。

<五輪後に高まる不況リスク>

まず世界に目を転じる前に、日本経済について、足元の状況と展望を押さえておきたい。

年が改まったことから、2019年5月1日に予定される改元も間近に感じられるようになり、さらに東京五輪もわずか2年半後に迫った。この2つのイベントは、平成の改元や他の五輪開催都市にみられる通り経済ブームをもたらす材料だが、同時に五輪後もしくは目前にした時点から景気は息切れし、後退局面に突入するケースが散見される。

実際、五輪を控えた日本経済は東京の中心地において建設の槌音(つちおと)が響くとともに不動産価格が高騰し、株価も26年ぶりの高値を更新している。そして、非正規雇用を中心に賃金が上昇するなど労働需給が逼迫。ミニバブルが発生しているとの声も聞こえる。

しかし、この好況感も2020年の東京五輪までとの見方は根強く、過去のバルセロナやアテネなどの五輪開催都市と同様に早晩景気が腰折れする懸念を拭い去ることはできない。

何より、循環的な問題だけでなく、構造的にも東京五輪後の日本経済には暗雲が垂れ込める。2020年代前半までは女性と高齢者の労働参画で生産年齢人口(15―64歳)の減少ペースにも歯止めがかかることが見込まれている。だが、それ以降は総人口の減少を背景に、労働者数の減少ペースが速まり、日本経済が構造的な不況感にさいなまれる時期に突入する。

むろん、日本の好況感には、黒田日銀が5年にわたり量的質的緩和策を推し進めてきた影響も大きい。とはいえ、金融緩和はしょせん一過性そして時間稼ぎでしかなく、日本経済が直面する構造的問題の原因を取り除くことはできなかった。従って、これから日銀は資産の膨張とリスクの増大に配慮し、金融緩和の出口戦略に向けたかじ取りを優先させ、政府も公的債務が拡大する中で財政規律を守らねば、日本は立ち行かなくなる。

政府と日銀が行っている事実上の財政ファイナンスの継続は危険であり、すでに財政赤字問題が解決できる限界に達していると言ってよいだろう。

<金融政策正常化がもたらす円高>

世界に目を転じても、主要中銀のメインテーマは、非伝統的金融政策をいかに手じまいし、金融正常化を進めるかである。

このような環境下、耳目を集めるのが、2月にパウエル新議長が就任する米連邦準備理事会(FRB)だ。その政策は基本的にはイエレン現FRB議長の路線を踏襲するとみられるものの、政策変更の市場への影響度が大きいだけに、小さな変化も注視しなければならない。

また、欧州中央銀行(ECB)も出口戦略へと明確にかじを切っている。つまり、世界の主要中銀が正常化へと動き出している以上、これまで出口戦略を否定し不動のスタンスを貫いてきた黒田日銀の次の一手への関心が高まるのは当然の成り行きだ。

1月9日には、日銀の国債買いオペ減額が113円台から一気に円高の流れを誘い、前述した中国の米国債投資関連の報道も重なって、110円台に円高が進んだが、今後も日銀の実質的なテーパリング(緩和縮小)の進ちょくが円高を後押しすることになるだろう。

その日銀では黒田東彦総裁の任期が4月に満了する。その後任に誰がなるにしても5年に及んだ異次元緩和の壮大な社会実験がインフレ目標を達成できなかった以上、早晩「修正」が行われることになるだろう。金利を下げ過ぎれば金融機関の貸し出し意欲を減退させ、かえって金融緩和の効果を反転させるという「リバーサルレート」議論が、黒田総裁の口から出たことは、やはり注目に値する。

今後、日銀がどう動くのかを予想すれば、現行路線の転換が喫緊の課題となり、仮に黒田総裁が続投しても任期途中で交代するというハプニングが起きる可能性も捨て切れない。つまり、「大胆さ」と「機動力」を売りにした異次元緩和から、白川方明前総裁時代の政策スタンスへと回帰する可能性がある。

実際の白川氏は在任中に金融緩和を15回も行い、また上場投資信託(ETF)の購入も始めるなど緩和を推進したが、黒田総裁の異次元緩和と比べれば穏健な政策スタンスだった。

日銀が行う政策修正が、「2018年は円高が進行し、戌は笑わない年だ」と決定付けることになるのではないだろうか。

*情報を追加して、再送します。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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