June 26, 2018 / 3:35 AM / 3 months ago

コラム:G7の亀裂とSCOの台頭、行き着く先はドル不安か=斉藤洋二氏

斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表

 6月26日、ネクスト経済研究所の斉藤洋二代表は、中ロがけん引する上海協力機構(SCO)の台頭とトランプ米政権の独善で深まるG7の亀裂は、ドル基軸通貨体制に頼り切ってきた国際金融秩序を揺るがす恐れがあると指摘。SCO首脳会議の集合写真、中国山東省青島で10日撮影(2018年 Sputnik/Dmitry Azarov/Kremlin via REUTERS)

[東京 26日] - 6月8―9日にカナダのシャルルボワで開催された主要7カ国(G7)首脳会議は、「アメリカ・ファースト(米国第一)」を掲げるトランプ米大統領に翻弄されたまま幕を閉じ、前身のG5初会合から45年を経たG7の使命の終わりを感じさせるものとなった。

ただでさえ、G7(米国、日本、ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダ)の経済力は衰えを隠せずにいる。国際通貨基金(IMF)のデータを追うと、名目国内総生産(GDP)で見た世界経済に占めるG7のシェアは1980年代後半には60%台後半あったが、現在は50%を切っている(2018年見通しで約45%)。1970年代に15%程度あった人口シェアも今では10%ぎりぎりの水準まで落ち込んでいる。

こうした状況から、そもそもG7は存在意義が問われることが増えていたが、そこへきて、G7の盟主たる米国がトランプ政権下で国際協調体制に背を向け始めた。これでは、国境をまたぐ諸問題の解決能力について信頼が地に落ちたと言われても仕方ないだろう。

一方、G7とほぼ同じ時期(9―10日)に中国山東省青島で上海協力機構(SCO:The Shanghai Cooperation Organisation)首脳会議が開催された。SCOは1996年に開催された上海ファイブ(中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)を前身とする組織で、2001年にウズベキスタンが参加して6カ国で発足。その後、インド、パキスタンが参加して現在8カ国で構成されている。

また、核合意問題を巡ってトランプ政権と対立を深めているイランがオブザーバーであり、同国は長年、SCOへの正規加盟を目指している。今回のSCO首脳会議にも、イランのロウハ二大統領が参加。亀裂が走るG7に対し、SCOの存在感がじわりと高まっている。

報道によれば、中国の習近平国家主席はSCOの役割について「地域の安全を守り、共同発展を促進し、グローバルガバナンスを整備する重要な力になっている」と夕食会であいさつしたというが、要するに、中ロが近隣国を取り込む形で米国に対抗し影響力を広げる戦略を鮮明にしている。

その経済的パワーの源泉は、突き詰めれば、ユーラシア大陸の大部分を占めるという地理的優位性だ。内外の有識者の多くが指摘するように、米国や英国そして日本が海洋に活路を求めて国力を伸ばした「シーパワー」ならば、まさに「ランドパワー」と呼べる存在である。

現在のところは、SCO全体で準加盟のイランを加えても世界名目GDPの22%程度のシェアしかなく、しかもそのうち70%超を中国が占めるという一強状態(G7は米国のシェアが約50%)だが、中国が中心となって眠れる巨像インドと過去の相克を乗り越えて連携を深化させ、ユーラシアに巨大経済圏を作ることができれば、G7を追い抜くのも夢物語とは言えないだろう。

SCO構成国の合計人口は約31億4000万人(準加盟のイランの約8000万人を加えれば約32億2000万人)。G7の約7億7000万人をはるかに上回る豊富な労働資源を有し、エネルギー・鉱物資源も潤沢だ。加えて、加盟国の半数の4カ国(中国・ロシア・インド・パキスタン)が核兵器を保有しており、米国のヘゲモニー(覇権)に挑戦し得る存在だ。

むろんSCOと言っても実態上の主体は中国とロシアだが、中ロ色を薄めて国際社会を突き動かす上でもこうした国際的枠組みの存在は二国にとって有益となろう。

<北朝鮮情勢の鍵を握るのも米ロ>

では、SCOの潜在的政治力を検証するに当たり、まず北朝鮮問題への関わりを見てみよう。トランプ大統領は6月12日にシンガポールで行った金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との米朝首脳会談の成果を強調しているが、「完全(Complete)かつ検証可能(Verifiable)で不可逆的(Irreversible)な非核化(Dismantlement/Denuclearization)」(CVID)を事実上「スルー」した共同声明を見るにつけても、この会談は単なる「キックオフ」にとどまったとの印象は拭えない。

一方、中ロはかなり以前より北朝鮮との「対話路線」を強調し、米国と事あるごとに意見衝突を繰り返してきた。今後も金委員長の後ろ盾として陰に陽に米朝交渉への関与を強めることだろう。従って、中ロ両国が今後の朝鮮半島情勢の鍵を握ると言っても過言ではない。

また、米国が離脱を表明したイラン核合意でも中ロは合意を支持する姿勢を変えておらず、今後イランとの経済連携に意欲を示して米国へのけん制を続けることになるだろう。このように国際政治の重要問題において、中ロを中心としたSCOがこれまで以上に発言力を強めていく可能性は高い。

さらに、貿易分野においても、SCOは「加盟国による自由貿易圏」を目指している。同時に中国が経済圏構想「一帯一路」を前面に打ち出して近隣諸国との緊密化を図っていることからユーラシアにおける地域経済圏構想が進む公算は大きい。保護主義を唱えて環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)からの撤退も辞さない状況で孤立化しつつあるトランプ米政権との立場の違いは際立っている。

<米国に戻ってくる関税のブーメラン>

これまで述べたように、戦後70余年米国が主導したブレトン・ウッズ体制そしてそれに続くG7による国際協調体制が終わりを迎えようとしている可能性は否定できない。

すでにBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの言葉で21世紀に入って以来、米国一極体制の終わりの始まりが語られてきたが、ここにきてトランプ政権が米国の内向き化を加速させているだけにその終えんがまた一歩近づいたと言えそうだ。これからは、先進国クラブがけん引してきた国際協調体制のさまざまな矛盾が多方面で露呈して、さらに劇的な変化が訪れることになるのではないか。

トランプ大統領は政治公約の大きな柱としてきた通商問題において、今後(再選を果たせば最長6年半にわたり)、コア支持層(白人労働者階層)を意識して「保護主義」への傾斜を強めていくだろう。しかし、この政策は国内受けが良くとも他国との摩擦を助長することになり、米国にとって「もろ刃の剣」となる。

米中貿易戦争は始まったばかりであり、欧州、日本、メキシコ、カナダなどとの通商問題の不協和音は鳴り止む気配もない。各国に課した高率関税は結果的に報復関税としてブーメランのように農業や製造業をはじめ米国を傷めることになるだろう。

トランプ政権における最大の政治課題は、11月の中間選挙における与党・共和党勝利そして2020年の大統領選挙での再選となる。しかし、米国の財政面での制約に伴う軍事力の弱体化と指導力の衰えは明らかであり、トランプ大統領が頼みとする外交(通商外交含む)においても得点よりも失点の方が目立つことになるのかもしれない。その結果、これまで米国主導の世界秩序において機能してきたドル基軸通貨体制(およびそれに頼り切ってきた国際金融秩序)も、激震に見舞われる局面が増えるのではないだろうか。

財政収支と経常収支の「双子の赤字」が常態化する米国が、外交面において一層の威信低下を招けば、将来的にドル不信を招きかねないのは自明の理だ。ここ数カ月、ドルは急反発したが、トランプ政権の意図とは無関係に「弱いドル」の時代が近い将来到来する可能性は高いように思われる。

斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表(写真は筆者提供)

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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