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コラム:中国の夢、第一関門は「ゾンビ淘汰」か=斉藤洋二氏
2016年3月8日 / 04:22 / 2年後

コラム:中国の夢、第一関門は「ゾンビ淘汰」か=斉藤洋二氏

[東京 8日] - 空前の利益をたたき出してきた著名投資家ジョージ・ソロス氏は第一線を退いた現在でも、国際金融資本市場に絶大な影響力を有している。1月21日のダボス会議での発言はまさに同氏の面目躍如だった。

ソロス氏は米系メディアのインタビューに答え 中国経済がハードランディングし、世界的なデフレにつながる恐れがあると発言。「これは予想ではなく、実際に目にしていることだ」とも語り、中国情勢などを考慮して、自らは米S&P総合500種をショートに、米長期国債をロングにしていることを明らかにした。

それに対して、中国の人民日報(海外版)は1月26日付の1面で、ソロス氏の人民元と香港ドルに対する挑戦は成功しない、とする中国商務省調査担当者の意見記事を掲載。中国政府はその後も不安打ち消しに躍起になっている。

ただ、中国が資本流出による人民元下落に対し元買い(ドル売り)介入を続けている結果、外貨準備高は大幅に減少。不安心理がかえって高まる結果となっており、上海株価指数も低迷したままだ。

ともかく1992年にソロス氏の英ポンド売りにより英国が欧州為替相場メカニズム(ERM)からの脱退を余儀なくされたように、今回は中国がどのように危機を乗り切るのか注目される。どちらにしても市場の萎縮は回避し難く、中国の正念場はしばらく続くことになるだろう。

<「国退民進」が急務>

ソロス氏の指摘に見られる通り経済の先行き不安が高まる中国・北京において3月5日から15日までの予定で、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕した。今回は今後5年間の成長目標を年平均6.5%以上とする第13次5カ年計画案を正式決定する重要な大会と位置づけられている。

すでに習近平指導部が発足して3年半近くが経過し、その権力は政府、共産党、そして軍の最高機関・中央軍事委員会と3部門に及ぶ。この間、「反腐敗」の名の下に繰り広げられた薄熙来氏や周永康氏らとの権力闘争に打ち勝ち、李克強首相との力の差を見せつけて今や習氏は特別の地位に立ったようである

孫政才氏や胡春華氏らがポスト習体制の第6世代トップ候補として語られたりすることがあるものの、その権力集中ぶりから、習氏が国家主席の任期(最大で2期10年)満了後も事実上の院政を敷くとの憶測も飛び交う。このように習氏は故・毛沢東氏以来の権力を手中に収めたようにも映るが、経済環境を見ると2015年は天安門事件の影響を受けた1990年以来25年ぶりの低成長となった。したがって、ハードランディングの恐れが拭えない中で、「供給側改革」が唱道されており国有企業改革は待ったなしとなっている。

リーマンショック後の2008年11月に発動された総額4兆元の景気刺激策により国有企業が需要を無視した生産を行ったが、現在でも実需より3―4割は多いと言われる生産力を抱えているのが実情だ。特に赤字の垂れ流しを続ける「ゾンビ企業」の整理は喫緊の課題となっている。

実際、中国政府はこのところ、石炭・鉄鋼セクターを中心に大胆な構造改革を断行する意向を公に示しているが、地方政府と銀行による支援を受けて生き延びる「ゾンビ企業」についてその改革を進めた場合、百万人規模の失業者が発生するとも言われる。

それでなくとも民族問題、過激派の脅威など様々な治安問題が指摘される中での失業者増加は国内の社会的緊張を高める原因となるのは明らかだ。しかし、「国退民進」、つまり国有企業の効率化そして国有企業の民間企業による代替は不可欠であり、改革の先延ばしは難しくなりつつあると言えよう。

一方、政府は「新常態」、つまり投資から消費主導経済への移行を打ち出し、既存体制にメスを入れるとともに、成長産業育成に向け国民に起業を勧めている。しかし、諸外国のキャラクターが不法に横行するように、知的財産権が確立していないことは、起業インセンティブの阻害原因となる。

アリババ、テンセント、バイドゥなどIT関連企業の成功物語は全くの例外にとどまるのか、それとも今後同様の起業家が陸続するのか、中国はその分かれ道に立っていると言えよう。

<鄧小平体制以来の「矛盾」>

中国は1921年の共産党設立から100年を迎えるにあたり、2020年には2010年に比べて国内総生産(GDP)を2倍にすることを目標としてきた。また、建国100周年の2049年には「中国の夢」である中華民族の偉大な復興を成し遂げ、「富強・民主・文明・和諧的な社会主義現代国家」を実現するとしている。

この「中国の夢」を実現するための最大の関門の1つは故・鄧小平氏が1978年12月に舵を切った改革開放政策による高度成長が37年にわたり積み上げた「矛盾」である。

中国経済はこれまで共産党一党独裁下において社会主義市場経済を進めてきたが、その結果、非効率な国有企業が存続し民間の活力が阻害された。さらに共産党・国有企業を巻き込んだ腐敗が蔓延したことから現状を変革しなければ社会の安定も担保されず、次の発展が実現しないということだ。

すでに中国における労働人口は、開発経済学に言う「ルイスの転換点」を超えたと指摘されるように農村部からの供給が枯渇し始めた。したがって、「世界の工場」として安い労働力で安価な製品を輸出して稼ぐ成長モデルは、労働コストも急上昇する中で、持続不可能だろう。

中国の1人当たり国民総所得(GNI)はすでに8000ドルに達し、1万2000ドル超が目途とも言われる先進国への仲間入りを目前にしている。しかし、中南米の多くの国がその陥穽に落ちたように、中国も「中進国の罠」を抜けて先進国の仲間入りを果たせるかどうかは構造改革と技術革新により成長産業を育成できるかどうかにかかっている。

その関門を突破するために、経済減速下において財政出動と構造改革をどのようにポリシーミックスさせるのか。習指導部の手腕が問われるところとなる。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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