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コラム:シャープの蹉跌に学ぶ為替対策の重要性=斉藤洋二氏
2016年4月7日 / 04:56 / 2年後

コラム:シャープの蹉跌に学ぶ為替対策の重要性=斉藤洋二氏

[東京 7日] - 過去半世紀、自動車産業とともに日本の高度経済成長をけん引してきた電機産業が苦境に陥っている。2000年代前半はテレビや液晶パネル分野における技術力と円安の後押しで好調を維持したが、その後は円高シフトとアジアでの競争激化が重なり、一転して不振に陥り、傷口を広げてきた。

特に「液晶一本足打法」と言われたシャープ(6753.T)は自力再建が不可能となり、救いの手を待つこととなった。一時は日本の技術を国内に止めおきたいとの意向を持つ官民ファンド・産業革新機構が大手各社の液晶事業を集約して電機産業の競争力を回復させるとの再建プランを提示。そして、このプランが本命視される局面もあったが、豊富な資金力を背景に救済案を提示した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業(2317.TW)の傘下に入ることで決着した。

一方、12年にパナソニック(6752.T)は旧三洋電機の白物家電事業を中国の家電大手、海爾集団(ハイアール)(1169.HK)へ売却。そして、今年3月には東芝(6502.T)が白物家電子会社を同じく中国の家電大手である美的集団(000333.SZ)に売却することで最終合意するなど、電機産業のグローバルな再編が進み出した。今や日本勢は、外資との提携なしで、競争力を失った不採算事業の延命を図ることはできなくなったと言えよう。

では、日本の電機産業が負け組となった敗因は何か。特に液晶に賭けて15年前には「勝ち組」と見られたのもつかの間、一気に凋落したシャープに焦点を当て、日本企業の為替対策の重要性について考えてみたい。

<円相場を読み違えた電機産業>

15年前に1インチ1万円と言われた液晶テレビにおいて日本企業は技術的な優位性を確保していたが、安い労働力と通貨安の追い風を受けた韓国のサムスン電子などとの価格競争が激化。液晶テレビ価格は今では1インチ1000円から4000円水準へと大きく値下がりした。

この過程でシャープ、パナソニックなどの家電大手は国内生産の強化に動いた。2000年代前半に円相場がおおむね1ドル=100―120円水準で円安に推移していたことから、1985年のプラザ合意以降の円高をコスト圧縮で乗り切った苦い経験を忘れてしまったのだろうか。一方、自動車メーカーの多くは、いたずらに国内生産を増やすことはなく、結果としてその苦い経験が生きた。

むろん、両産業内にも例外的な存在はいたので一概には言えないが、相対的に電機メーカーの多くが、足元の円安地合いに安心して、その後の円相場を読み違え、経営判断を誤ったことは否めない。ドル円相場はリーマンショック後の08年に80円台、11年には70円台に突入するなど円高に転じ、通貨安の恩恵を受けるアジアの競合他社の後塵を拝することになった。

なかでも業務ポートフォリオに広がりの乏しいシャープの傷は深かった。同社は2000年代に亀山工場(三重県)や堺工場(大阪府)への巨額投資を行ったが、ほどなくして需要低迷と供給過剰の負のスパイラルに沈み、存亡の瀬戸際に追い込まれた(約4000億円を投じた堺工場は12年にホンハイ傘下入り)。

また、シャープの液晶に対抗してプラズマテレビを推進していたパナソニックは2000年代に約6000億円を投じて兵庫県尼崎市にプラズマパネルの生産拠点を作ったが、それも13年度に閉鎖した。これにより、「パネルベイ」と囃(はや)された大阪湾に投じられた巨額の投資資金(シャープとパナソニックだけで合計約1兆円)は事実上、露と消え、電機産業衰退の象徴的な出来事となった。

<負けに不思議の負けなし>

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言われる。その意味するところは、勝ちには偶然の勝ちがあるが、負けには必然的な理由が存在するというものだ。

つまり、日本の電機産業の敗因としては、1)技術水準で追いつかれたこと、2)合併・買収(M&A)による合従連衡が進まなかったこと、3)新たな商品開発はじめ業務ポートフォリオの見直しが不十分だったこと、4)為替リスクへの対応不備、などが挙げられるだろう。

とりわけ「円高」つまり為替リスクへの対応不備は致命的な痛手となった。事実上のドルペッグを採用していた韓国ウォンなどのアジア通貨が2000年代後半においてドル安に連れて下落していたのに対し、日本円は突出して高くなった。やはり2000年代前半に国内にこだわらずオフショアリング(=海外シフト)を進めるべきだったと言えよう。

技術力などに絶対的な優位性があったときならばいざ知らず、すでに東アジアの経済が離陸した現在において各国間の技術力格差は縮小している。労働コストについても、アベノミクス下で円安が進んだと言っても、日本はいまだアジアでは突出して高い。さらに高い法人税や高いエネルギー価格なども考えれば、国内生産を縮小させオフショアリングを進めることは本来、当然の帰結だったと言えよう。

<為替対策としてのオフショアリング>

大型ヒット商品も絶えて久しく、また技術力の優位性も失いつつある日本の電機産業がアジアにおいて体力勝負で勝ち抜くのは難しい。この局面を打開する次の一手は、やはり企業が乱立する日本国内で合従連衡を進め、同時に外資を積極的に導入することだろう。

すでに自動車業界では、仏ルノー(RENA.PA)の出資を仰ぎ企業風土を変化させた日産自動車(7201.T)や、米フォード・モーター(F.N)の傘下入りを経たマツダ(7261.T)の例がある(フォードはすでにマツダの全株を売却)。これらに続き電機産業のみならず日本企業はシャープの蹉跌に学び、今後厳しい変革に身をさらす覚悟をしなければならないだろう。

そして、何よりも重要なのが為替対策だ。日本経済が原材料を輸入し、製品を輸出する貿易構造である以上、為替リスクから逃れられない。その意味でも、またコスト面においても、オフショアリングを積極化させるのが賢明な選択肢ではないだろうか。

高い技術力を要する高付加価値製品については国内で開発・生産を図るとしても、低付加価値かつ大量生産を伴うものについては、東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体(AEC)が発足した今、同経済圏を中心に海外生産比率を引き上げていく必要があるだろう。

そして、大幅変動を繰り返す円相場を見れば、その予測の難しさは今に始まらず、今後も続くだろう。すでに日本企業においては、為替決済を早めたり遅らせたりするリーズ・アンド・ラグズや為替予約、さらには為替デリバティブなどによる為替対策がこれまでも講じられてきたが、経営へのインパクトは限定的だ。

現在の為替相場は名目的にも実質的にも円安地合いが続き、総じて日本企業の多くから業績の好調が伝えられているが、為替相場が購買力平価を中心に大きく上下するとの習性を考えれば、再度1ドル=80―90円台の円高到来の可能性は否定できない。とすれば、やはりオフショアリングこそ為替対策として最も優先されるべきではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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