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コラム:「ブレグジット」波乱相場に備えよ=斉藤洋二氏
2016年5月23日 / 03:57 / 2年後

コラム:「ブレグジット」波乱相場に備えよ=斉藤洋二氏

[東京 23日] - 1992年に欧州連合(EU)発足を決定したマーストリヒト条約が調印されて、すでに四半世紀近くが経った。これまで英国はEUが目指す統合に対して非協力的な態度をとり続け、同時にEU加盟に伴うコスト負担の大きさに英国民の不満は高じていた。特に昨年来の移民・難民急増と過激派による攻撃の多発を受けて、EU離脱の声が一段と高まっている。

この国民の声を受け6月23日にEU離脱・残留を問う国民投票が実施される。しかし、昨年5月の総選挙でキャメロン首相が国民投票を公約した時点で現在のような接戦を予想する向きは少なかった。投票日までわずか1カ月とカウントダウンが迫る現在、結果は予想し難く、英国民のみならずEUそして世界の金融市場は固唾をのんで行方を見守っている。

この状況下、昨年夏に190円を超えていた英ポンドは現在150ー160円台に下落。そして対ドルでも1.4ドル台と2010年来の安値水準に下落している。すでにブレグジット(BREXIT、英国のEU離脱)は相当程度、相場に織り込まれているとも考えられるが、その結果がもたらす国際政治・世界経済への影響の大きさを考えれば、金融市場の不確実性は今後、日に日に高まっていくことになるだろう。

<「光栄ある孤立」を目指す国民性>

現在のロンドンでは、英連邦の名残から多数の民族が混在する結果、「多文化主義」が根付いている。単一言語、単一文化で暮らしてきた日本人にとっては 想像を超える世界だ。だが、英国人の本質はこの「多文化主義」よりも、むしろ大英帝国時代の非同盟政策で培われた「光栄ある孤立」を目指す国民性に認められるのではないだろうか。

英国は19世紀から一貫して独仏など大陸諸国に対して一線を引いてきた。1973年、EUの前身である欧州共同体(EC)に約15年遅れて参加しているが、その際にも国内で賛否両論が沸き起こり、また独仏において参加反対の声も高まった。

このような英国の大陸との異質性、そして現在のEU予算への拠出金の負担感やEU官僚への不満などからブレグジットを求める声が高まる。加えて、英国への移民はこの10年間、毎年20万人超の純流入となっている。ここにきて、治安悪化や雇用確保といった観点からも大陸との国境線の強化を求める声が高まるのは自然の成り行きだろう。

こうした歴史的背景と現在の政治経済情勢を反映して、高級紙はじめ多くの知識層は「残留」を唱えるが、大衆紙が主導し労働者階級が「離脱」を支持する傾向にあるのも否めない。多くの世論調査で残留派・離脱派は拮抗しており、2014年9月18日のスコットランド独立に関する住民投票同様、ぎりぎりまで議論が沸騰し、当日の開票速報に時々刻々、一喜一憂することになるだろう。

問題を混迷化させている理由の1つは、内閣そして政党が意見不一致であることだ。例えば、キャメロン首相(保守党党首)やコ―ビン労働党党首は「EU残留」を唱えているが、保守党のジョンソン前ロンドン市長は「EU離脱」をけん引している。政治の迷走が先行き不透明感を高めている。

<英国とEUが失うもの>

離脱による経済損失については、4月18日に英財務省が試算を公表している。離脱する場合は、残留のケースと比べて、英国の国内総生産(GDP)は2030年までに最大9.5%、最低でも3.4%低下し、英国民の生活水準低下は免れない。

また、離脱後の貿易投資政策として、1)ノルウェーのような欧州経済領域(EEA)への加盟、2)カナダのようなEUとの2者間協定の締結、3)世界貿易機関(WTO)加盟国としてEU市場にアクセス、という3つの選択肢が挙げられているが、英国が目下どの方向を目指すのかも明らかにされていない。

どちらにしてもEU非加盟国となれば対EU貿易の関税が重くのしかかることになる。そして今後、メガ自由貿易協定(FTA)が主流となる時代において、英国が単独でFTAを世界中の国々と締結せねばならず、これまでと同様の経済効果を達成するのは困難であり、必然的に経済の縮小は避けられなくなるだろう。

このように離脱決定後は、貿易投資政策はじめ安全保障政策など国家の根幹について、1から議論が始まることとなる。つまり、様々な分野において離脱後10年から15年にわたり英国の混乱は必至との見方が強まっている。

そして、英国がEU加盟国としての地位を放棄するデメリットは大きい。この間の英国は人口増加を背景に経済も拡大傾向をたどってきたが、それらはEUに加盟しているおかげといっても過言ではないだろう。

また、シティが繁栄したのもEUの金融センターであればこそで、すでに金融機関においてはシティからの脱出を図る動きが強まっている。EU離脱となれば多くの雇用が失われると同時にシティの凋落を避けることはできない。

ともかくEUは経済から政治へと統合の深化を図り、トルコやウクライナを視野に入れるなど地域的拡大を進めてきている。特に2004年にロシアの軍事的脅威から逃れようとバルト3国がEUに駆け込んで以来、EUが政治統合の色合いを強めているが、この点がEUの発展のエネルギー源にもなってきたことは明らかだ。

しかし、EUはユーロ圏拡大過程において、南欧諸国の金融財政危機への対処の難しさに直面した。また、人の移動の自由を推進した結果、過激派組織による攻撃リスクも高まった。そして今後、英国の離脱が決定した場合、EUは3つ目の打撃を受けることとなり、求心力よりもむしろ遠心力が強まることは必至だろう。

<離脱なら1ドル=100円接近か>

これまで述べてきたように英国民投票の行方は世界経済の大きなリスクである。つまり、物価の安定と雇用の最大化という2つの使命を帯びる米連邦準備理事会(FRB)が金融政策運営上、このところ注視しているとする世界経済の安定を脅かす。

現状、英国民投票の直前にあたる6月14―15日に予定される連邦公開市場委員会(FOMC)において米利上げを予想する向きが多い。また、FOMCメンバーで投票権を有するダドリー・ニューヨーク連銀総裁らが早期利上げに対して前向きな発言を繰り返しており、ドル買いを支援する結果となっている。

しかし、各地区連銀総裁などの意見はともかく、イエレンFRB議長の本心は英国民投票への対応が優先課題ではないか。つまり、6月FOMCでの利上げは見送りと見るのが妥当である。

また、6月15―16日に行われる日銀金融政策決定会合において現在の国内経済成長の鈍化傾向を眺めて追加緩和実施の見方が強まっているが、日銀はFOMC同様に金融政策を現状維持とする可能性を捨て切れない。

以上を踏まえ、英国民投票の為替市場への短期的影響については、投票前後においてドル円は3円程度、ポンド円も5円程度のアップダウンは覚悟しておく必要があるだろう。最も可能性のあるシナリオを描くとすれば、5月後半から投票日に向けて105円水準へと円買いが進み、投票結果を見て離脱の場合は100円へと接近、残留の場合は110円台の水準へと円安に振れるのではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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