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コラム:ゴルディロックス相場、秋に終焉か=斉藤洋二氏

[東京 23日] - 2008年のリーマン・ショックから9年が経過しようとしているが、この間、ニューヨーク株式市場(ダウ工業株30種平均)は6500ドル台の底値を見た後、総じて上昇基調を続け、目下2万1000ドル水準で推移している。今春以降、北朝鮮情勢の緊迫化などを背景に何度か大きな調整があったが、いまだ過去最高値圏にあることに変わりはない。

 8月23日、ネクスト経済研究所の斉藤洋二代表は、米経済の相対的な優位性に異論はないものの、ゴルディロックス(適温)状態を根拠とする米株高は行き過ぎであり、秋にも試練を迎える可能性があると指摘。提供写真(2017年 ロイター)

米株高を支えているのは、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、アルファベット傘下のグーグルの頭文字を取った「FANG(ファング)」、そしてアップルやマイクロソフトなどに代表されるテクノロジー銘柄群だ。

また、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策正常化に向けた動きが緩やかなものにとどまるとの見通しも加わり、過去最高値圏にあるにもかかわらず、居心地の悪くないゴルディロックス(Goldilocks、適温)と称される相場が続いている。このゴルディロックス状態は、ブル(強気)派が今後の株高基調継続を予測する根拠の1つだ。

もっとも、通常、15―20倍程度が適正とされるS&P500種の株価収益率(PER、過去12カ月の実績ベース)は、足元で24倍。ナスダックに上場している主力テクノロジー企業では、PER30倍超はざらで、アマゾンのように200倍に届く銘柄もある。

住宅価格の代表的指数であるS&Pコアロジック・ケース・シラー指数(主要20都市圏)も直近の数字を見ると、サブプライムローン危機前の最高値に近い。「ゴルディロックス」との印象はまやかしで、実際には過熱しているとは言えないだろうか。

過去30年を振り返れば、ブラックマンデー(1987年10月)、メキシコ通貨危機(1994年12月)、世界同時多発攻撃(2001年9月)、そしてリーマン・ショック(2008年9月)と、秋から初冬にかけての相場は往々にして大波乱に見舞われてきた。今年も、このアノマリー(経験則)が牙をむく可能性に警戒が必要だと、筆者はみている。

<米国経済の優位性を支える3つの強み>

ただ、ゴルディロックス継続を予想するブル派が指摘しているように、米国経済の相対的な優位性については、筆者も異論はない。

米国経済も、程度の差こそあれ、高齢化の進展や生産性伸び率の鈍化など他の先進国同様の構造問題を抱え、成熟化してきているのは明らかだが、それでも2010年代の実体経済を比較すると、日欧よりも総じて高い成長率を維持している。

今後についても、比較論では強気の見通しを立てやすい。反移民志向が強いトランプ政権の政策動向は懸念されるが、15―64歳の生産年齢人口は先進国の中では相対的に高い伸びが続くと予想されている。また、それ以外にも、改めて整理すれば、特に以下の3つの強みが指摘できると思う。

第1に、シェール革命の進展などを背景に、エネルギー分野での自立が視野に入ってきていることだ。米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が1月に公表した展望リポートによれば、米国は2026年までにエネルギー純輸出国になる見通しだ。

もちろん、米シェール業界は2014年後半以降に中東産油国が仕掛けた低価格戦略の直撃を受け、苦戦を強いられてきたが、近頃はシェール関連の雇用・投資・生産活動は再度活発化しており、エネルギー面から見た米経済の見通しは底堅い。

第2に、アニマルスピリッツの存在と創造的破壊を地で行くビジネス風土の特異性だ。新興テクノロジー企業の台頭と目まぐるしい主役交代に示されているように、米国産業界の新陳代謝のスピードの速さと質の高さは他国の追随を許さない。その原動力としてシリコンバレーなどへ世界から流入する頭脳そして米国に集まる投資資金は、バイオ・IT・ネット企業などの日進月歩での進化を可能にし、経済をけん引する役割を果たしている。

ちなみに、現在の米国を代表するテクノロジー5大銘柄の時価総額は日本円換算(1ドル109円、8月22日時点)でアップルの約90兆円を筆頭に、アルファベット70兆円、マイクロソフト61兆円、フェイスブック54兆円、アマゾン50兆円と、ゼネラル・エレクトリック(23兆円)やIBM(14兆円)といった、米産業界に長年君臨してきた「ブルーチップ(優良銘柄)」をはるかにしのぎ、世界の上位を占める。

そして、これらの企業の共通点は、情報革命の波に乗って、その製品やサービスが世界中の人々の生活様式を激変させ、必要不可欠な存在として社会の利便性に貢献している点だ。

第3に、米国の金融力、つまり分厚い資本市場と効率的な資金配分を可能にする金融システムの存在だ。金利低下とイールドカーブのフラット化によって苦戦を強いられている日欧の金融機関とは対照的に、米国の金融機関は比較的利ザヤを確保できており、経営が安定している。その結果として実体経済への金融力の貢献を高めるところとなっている。

こうした3つの構造的優位性が過去10年にわたり米国の株式市場やドル指数の上昇に寄与してきたと言って良いだろう。

<ゴルディロックス後に訪れるベア相場>

しかし、だからと言って、過去最高値水準にある米国株価は果たして正当化されるのだろうか。この点について、ブル派は現実から目をそらしているように思える。

まず、過去の景気循環に照らして考えれば、米国経済は景気拡大の最終局面にある可能性が高い。それは、平均賃金の伸び悩みなど物価上昇の鈍化圧力に直面している点からも読み取れる。今後も景気が株価を下支えするかについては疑問と言わざるを得ない。

こうした中で、米連邦準備理事会(FRB)は、次の景気後退時に備えた金融政策の「糊代(のりしろ)」を極力大きくしようと、政策正常化に乗り出している面もあると思われる。だが、果たして冒頭で述べたように、緩やかなペースゆえに相場への影響も限定的と言い切れるのだろうか。

FRBは2015年12月から4度にわたり政策金利を引き上げているが、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)でバランスシート縮小決定、12月のFOMCで5度目の追加利上げを行うと予想されている。量的緩和の巻き戻しであるバランスシート縮小は文字通り未踏の領域であり、予期せぬマイナスの影響を相場に及ぼさないとも限らないだろう。もちろん、無難にこなす可能性もあるが、見通しにくい以上、本来はダウンサイドの警戒材料として捉えるべきだ。

ちなみに、適温相場の語源である英国の童話「Goldilocks and the Three Bears (3びきのくま)」では、主人公の少女がクマの留守の間に、ほどほどの熱さのスープを飲み、ほどほどの大きさの椅子、ほどほどの硬さのベッドを楽しんだものの、最後にクマが帰宅して逃げ出して終わる。

投資家にとって、この物語の教訓とは、そろそろクマの出現、つまりベア(弱気)相場への転換に注意すべきということではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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