February 19, 2018 / 3:13 AM / 7 months ago

コラム:平昌五輪後に待ち構える日本の国難と円高=斉藤洋二氏

[東京 19日] - NYダウが2月に入り1週間に2度も1000ドル超下落するなど、米国株式市場が不安定な動きを続けている。早晩、安定を取り戻すとの見方もあるが、方向感は依然定まらず、上昇相場に回帰するのか、調整局面の長期化を経て弱気相場入りするのか、現状はまさに運命の分かれ道にあると言っていいだろう。

米連邦準備理事会(FRB)高官の口からは、米国経済に不安材料は見当たらないといった趣旨の発言が聞かれる。しかし、市場センチメントが不安定化する中で、低金利がもたらした「ゴルディロックス(適温)相場」の終焉は投資家に意識されつつある。米国発の不安心理が今後、日欧だけでなく新興国にも波及し、第二、第三のショックを連鎖的にもたらす可能性は否めない。

ついては、この米株波乱の背景と日本への影響について検討したい。

<アポロ計画終焉と金融危機を結ぶ線>

アポロ11号が人類初の月面着陸に成功した1969年7月から来年は50年の節目だ。このアポロ計画は1970年代に財政負担に耐え切れず中止になった。しかし、本来なら米航空宇宙局(NASA)に向かうべき科学者や技術者たちがウォール街に大量流入することになり、金融工学が一気に開花して1980年代以降の市場発展に寄与したことは想定外の「果実」だったと言っていいだろう。

デリバティブ、レバレッジ、アルゴリズムによる高速取引の普及、さらに相場予測への人工知能(AI)の活用など、貢献は数え切れない。とはいえ、その副作用として相場の大変動がもたらされ、突発的な金融危機の原因の1つと目されているのは紛れもない事実である。

今回の荒れ相場のハイライトとなった2月5日午後の株価動向を見ても明らかだ。午前中こそ「人為的」な売りが出回り、常識的な範囲内の下落基調をたどっていたが、午後の瞬時の乱高下と暴落はまさに「機械的」な売りと呼ぶにふさわしいものだった。

種を明かせば、ボラティリティー・インデックス(VIX)に関連する金融商品の大量の巻き戻しが相場を下押しし(一部不正操作の疑いで米当局が調査を開始したとの報道もある)、さらにアルゴリズムが作動して高速回転取引やストップロス取引が大量に執行されたのだ。具体的には、わずか数分の間に前日比1600ドルに迫る急落を見せ、そこからほぼ半値戻しした後、再度下落し、前日比1175ドルの下落で引けた。

このような乱高下を伴う暴落はリーマン・ショック時にも散見されたが、瞬間的な値動きは一段と急峻化している。30年以上の年月をかけて、金融工学を応用した商品や運用手法が一般化し、市場にはレバレッジとさまざまなリスクが複雑に組み込まれている。上げ相場はより上がり、下げ相場はより下がることが現在の相場の特徴だと言えるだろう。

<市場崩落を告げる為政者の強気発言>

もちろん、リーマン・ショック以降、その原因究明と反省を踏まえて金融規制改革が進められてきた。だが、2017年1月のトランプ大統領就任後、改革の流れは不透明となり、にわかに見直しの声が高まっている。

つまり、金融工学の発展が助長する相場変動を奇貨として利益を得ようとする動き(人間の強欲さ)は根強く、現在の金融市場の荒っぽい値動きは多くの投資家には歓迎できない状況であっても、一部の望むところであるのも事実と言えよう。

大型の金融危機は10年に1度ぐらいしか起きないが、2015年夏の人民元切り下げを発端とするチャイナ・ショックのような比較的規模の小さい「相場大変動」は頻発しており、その場合しばらくの間、市場は後遺症に悩まされることになる。特に今回の変動は相場が長きにわたり上昇し高値圏に達した時点で起きていることから、高所恐怖の感覚も拭えぬだけに、一過性の自律調整と見なすことは危険だろう。

振り返れば、株高に沸いていた1996年当時、FRB議長だったグリーンスパン氏は「根拠なき熱狂」という言葉で警告を発したが、今年2月初旬までの株式市場はまさにその「根拠なき熱狂」に陥っていたのではないだろうか。アマゾン・ドット・コムやアルファベット(グーグル)、アップルなど時価総額1兆ドル超えが待たれるテクノロジー有力銘柄と言えども、ここ数年は押し並べて上昇ペースが早過ぎる印象は拭えない。

また、トランプ大統領は1月末の一般教書演説で、株価・経済の実情に触れ、インフラ投資と税制改革を進める自らの実績として強調した。為政者によるこのような発言は得てして市場の高値を告げるものになったとの既視感を覚えるところだ。

そして、金融各市場は複雑に連関していることから、米株暴落の影響は国境を越え、また債券・為替・不動産など各市場の壁を越えて、複雑な経路で波及していく。今回の波乱はこれから収束するよりも各方面へと広がっていく蓋然(がいぜん)性が高いのではないだろうか。

<北朝鮮と米国の挟撃で高まる円高圧力>

さて、東アジアではこのところ、北朝鮮の「ほほえみ外交」によって、雪解けムードが演出されている。地政学リスクは低下しているような錯覚に陥るが、平昌冬季五輪が終われば米韓軍事演習の実施に反応して北朝鮮が再度ミサイル発射や核実験に打って出る可能性は否めない。市場は、地政学リスクで円高圧力が高まるパターンに戻る。

一方、米国に目を転じれば、北朝鮮とトップ同士が激しく応酬しているとはいえ、切実なリスクは国内にあり、その根源はトランプ大統領自身、そして高度化したがゆえに脆弱さを見せる金融市場にあると言っていいだろう。

トランプ政権はロシアゲートにさいなまれて安定感に乏しいが、他方で保護主義を追求して北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなど通商問題にシフトして世界を揺さぶる。モノの取引に限った2017年の米国の貿易赤字は7962億ドルと2008年以来の高水準を記録。国別では、全体の半分を占める対中赤字が3752億ドルと過去最高を更新し、対日赤字は横ばいとはいえ688億ドルとなっている。

このような状況下、トランプ政権は2年目を迎え、いよいよ「自国第一主義」を実現すべく本格的に保護貿易主義の強化と貿易赤字圧縮を図るに違いない。短期的にはドル安誘導を志向するのではないか。従って、平昌五輪後の日本は、北朝鮮と国内リスクが高まる米国に挟撃されて円高圧力に気を抜けない状況が続きそうである。

そして、2017年の日本の経常収支は史上2番目の黒字幅となっており、さらに3月末の決算を控えてリパトリ(本国への資金還流)の円買いも出回る時期が巡ってきただけに、為替需給の不足感は乏しい。まさに米国株の乱高下を機に円高加速へと相場が動き出す条件が整ったようにみえる。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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