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コラム:中東発の金融市場「激震」あるか=斉藤洋二氏
2016年1月24日 / 08:58 / 2年後

コラム:中東発の金融市場「激震」あるか=斉藤洋二氏

[東京 24日] - 2016年の円相場は120円台で始まったものの、早々に中国不安が高まって相場は一気に円急騰地合いとなった。以来、東京の株式・為替市場は午前10時15分に中国人民銀行が発表する人民元基準値に注目し、さらに上海株価指数を見ながら上下動を繰り返している。

今年はこれまでにも増して、中国の影響をリアルタイムに受けながらの展開となりそうだ。

市場には現在、中国リスク、北朝鮮リスク、さらに原油安と、暗雲が垂れこめている。そして、世界の主要都市では「ホームグロウン(自国産)テロ」への恐怖も強まるなど、地政学リスクへの不安は事欠かない。

その結果、逃避通貨としての円買いの動きが目覚ましいが、加えて米国の金融正常化の動きを背景に7年にわたった緩和相場も転換点にきていることから、積極的な投資行動に対して心理的抑圧が強まることは避けられないだろう。

<中東情勢の液状化を加速させるオバマ・ドクトリン>

このように年頭から相次いだ様々なリスク事象の中でも注目されるのが中東情勢、特にイランとの対決姿勢を強めるサウジアラビアの動きだ。

かつて冷戦時代はイデオロギーが対立軸の中心にあったものの、中東で現在進行する事態は既存の国際秩序を基本的に受け入れる米欧と、それを認めないロシア、中国などとの対立構造を反映したものであり、その代理戦争が繰り広げられていると言えるだろう。

そもそもサウジアラビアはサウド家を中心とした王族が支配する国家であり、莫大な石油の富と米国の力を後ろ盾に中東に睨(にら)みをきかせてきた。この国では2015年1月にサルマン国王が即位し、さらにその愛息であるムハンマド副皇太子(国防相)へと権力は移行されて新たな時代を迎えた。

スンニ派の盟主としてのサウジアラビアはこれまで米国と協調し、また湾岸協力会議(GCC)6カ国を率いて中東を主導してきたが、ここにきてシーア派の聖職者を処刑したことからシーア派を代表するイランとの対立が表面化し国交断絶に至った。

この背景には、イラクでの失敗を踏まえた抑制的な外交戦略、いわゆる「オバマ・ドクトリン」を掲げる米国との共同歩調の乱れがある。特に米国は核協議合意を通じてイランに接近しているが、この動きには過激派組織「イスラム国」(IS)制圧に向けてイランの力を借りたいとの米国の思惑が透けて見える。

こうした米国の姿勢に危機感を強めるサウジアラビアは、ロシアに急接近している。昨年6月にはムハンマド副皇太子がロシアを訪問、原子力協定や100億ドルの巨額投資を決めた。このように中東和平を推進してきた米国・サウジの関係稀薄化は中東情勢の液状化を一層推し進めることになるだろう。

一方、中東でサウジアラビアとヘゲモニー争いをするイランはイラク、シリアをつなぐ三日月地帯にシーア派連合を構築している。さらにイエメンにおけるシーア派武装組織「フーシ」やシリアのアサド大統領を支援するなど拡大主義を強めている。

したがって、サウジアラビアはイエメン支援や有志連合によるIS攻撃に参加するなど国防と安全保障に関する財政支出を急増させており、折からの油価下落に財政状況は厳しさを増している。すでに15年の財政赤字は国内総生産(GDP)比15%に達した模様だ。サウジアラビア政府は昨年、8年ぶりの国債発行に踏み切っている。

<需給改善に伴う着実な油価回復は期待薄>

他方、サウジアラビアは米国、ロシアと並ぶ世界の3大原油産出国であり、依然として石油輸出国機構(OPEC)のリーダーとして価格支配力を有している。

油価下落を受けて財政危機に苦しむベネズエラなどメンバー各国からの生産調整を求める声に耳を傾けず、米国のシェール関連企業を排除してのシェア拡大に取り組んでいる。その結果、シェールオイルの稼働リグ数が減少しつつあるなど一定の成果も確認されているが、財政上の損益分岐点が90ドルといわれるサウジの石油部門の収益も同様に打撃をこうむるところとなっている。

このような「肉を切らせて骨を断つ」と言った瀬戸際戦術をいつまで続けることができるのか。仮に同国が財政の持続性を脅かされる何らかのイベントに直面するようなことがあれば、原油市場のみならず世界の金融市場に激震が走ることは必至だ。

原油の供給面を見れば、2000年代からシェールオイルの増産を続けてきた米国が40年ぶりに原油輸出の解禁を決定した。その結果、産油各国が増産競争にのめりこむなど供給地図が様変わりとなっている。また、核協議合意で経済制裁の解除が決まったイランの増産が始まることから過剰供給感は当面続くと見るしかなさそうだ。

需要面に目を移しても中国経済の悪化懸念は根強く、需給の改善は当面読みにくい。このような状況下で油価低迷が長引くと、産油国の財政は当然、悪化することとなろう。さらに、原油安の長期化は米利上げとも相まってシェール企業を直撃していることから、これらの企業の資金調達手段の1つであるハイイールド債市場の緊張を招く可能性にも注意が必要だろう。

油価は、20日のニューヨーク原油先物相場(WTI)が一時1バレル26ドル台まで値下がりするなど、03年5月以来の水準に落ち込んだ。また、油価下落が鉱物資源など商品価格の下落をもたらすとの連想が当面払しょくされるとも思えない。

そして、エネルギーなど資源価格の動向が、円相場の行方にも大きく関わる点には注意が必要だ。特に原発停止により天然ガスはじめ鉱物性燃料の輸入が急増し、13年には同輸入額が約27兆円に達したことから円安の大きな材料となったことは記憶に新しい。

それ以降は原油安などを背景に鉱物性燃料の輸入額は急減している。今後も原油安と原発再稼働などによって貿易収支の改善と経常収支の黒字化が定着すれば、為替需給面においては円安圧力を減殺することになるだろう。

逆に突発的な要因で原油高に振れる場合、その要因は地政学リスクの顕現化である可能性が高く、「リスクオフの円高」となる公算が大きい。改めて指摘するまでもなく、日本の原油輸入に占める中東依存度は80%を超えており、中でもサウジアラビアへの依存度は30%超と、ひときわ高い。

つまるところ、アベノミクスが必要とする円安継続には、需給改善に伴う着実な油価回復シナリオが必要となろう。だが、現在の国際政治と世界経済の状況を眺めると、それはあまりに「狭き道」のように見える。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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