February 8, 2016 / 1:44 AM / 2 years ago

コラム:債券化する株式、マイナス金利で買いか=重見吉徳氏

[東京 8日] - 日銀はマイナス金利を導入した。株は買いか売りか。筆者の分析では、本稿で説明するように、債券に比べて相対的には「買い」である。

とはいえ、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が、実体経済や企業業績に与える好影響はほとんどないと考えている。その理由をいくつか挙げてみる。

国内経済を考えると、サービス業については、まずは金融機関の業績も気がかりなところだが、その他に目を転じると、すでに労働市場、中でもオフィス、ホテル、旅客輸送などは「完全雇用」の状態にある。円安で海外からの観光客がさらに増えるとしても、それにすぐに対応できるような容量がない。

一方の製造業については、在庫の積み上がりもあって未稼働が残っているが、その要因は国内主体の耐久消費財に対する需要の構造的な低迷と一巡の両方、そして海外景気の弱さによる外需低迷だろう。金融緩和はこれらに対処するためのものではない。

また、問題の根幹の1つは中国にある。日銀の金融緩和によって、中国の過剰な生産能力を一時的に埋められるわけではない。むしろ逆に、円安・ユーロ安は、コインの表と裏を考えれば、ドル高・人民元高であり、米国や中国の生産をクラウドアウトして(締め出して)しまう。

皮肉にも、円安・人民元高が投資・輸出主導の「古い中国」をさらに窮地に追い込むことで、消費やサービスへの構造転換を促し「新しい中国」の実現を引き寄せるかもしれないが、それは同国で「創造的破壊」の厳しい状況が続くことを意味する。

2014年10月末の量的・質的金融緩和第2弾(QQE2)以降に日本株が上がったのも、最近において日本株がQQE2前の水準まで戻ったのも、どちらもQQE2のためである。円安により株価は短期的に上昇するが、水面下では米中景気を窮地に追いやっている。そして、やがて中国の景気鈍化が目に見えるようになってくると、株価が下がる。

では、なぜマイナス金利で、株は買いなのか。

今後の株式市場の動向について、筆者が考えているのは、実体経済の低成長に伴う「株式の債券化」である。マイナス金利の導入は、「株式の債券化」を促進する可能性がある。そして、この見立てが正しければ、株式のバリュエーションは上昇する。

言い換えれば、株式が、債券のように安定的な金融資産に近づけば近づくほど、今まで考えられてきたよりもリスクが低くなるわけだから、現在の水準よりも買われることになる(すなわちバリュエーションは上昇する)。

その根拠をもう少し詳しく述べよう。労働力人口の鈍化や資本蓄積によって低成長の見通しが強まると、以下のことが考えられる。

●企業は投資・収益機会を見いだせず、企業による投資は鈍化する。結果的に、企業がリスクを取る機会が減り、金融機関や投資家が拠出した負債や資本がリスクにさらされる機会も減る。

●経済のパイ(規模)の拡大が鈍化する中で、企業は収益の伸びを確保すべく、合併・買収(M&A)を行う。結果的に、企業間の競争が減る。

●企業の投資・収益機会が減ったり、情報技術(IT)など投資のソフト化が進んだりすることで、企業は配当や自社株買いを通じ、資本を株主に返還する。結果的に、世界的に見て、株式(エクイティ)の供給が減る。

これらにより、次のことが予想される。

●企業によるリスクテイクと企業間の競争が減り、利益は安定する(大きく成長することもない)。

●利益の安定と株主還元(配当や自社株買い)の増加で、株式投資がもたらすキャッシュフローは安定する。

●株式(エクイティ)の供給が減り、株式への超過需要が発生する。

総合すると、1)株式は債券の色彩を帯び、日々の価格変動を含むリスクは低下する、2)株式のリスクが低下するならば株式の期待リターンも低下する、と考えられる。

<株式の債券化が進み、実体経済の低成長は自己強化される>

ここで期待リターンについて簡単におさらいしておこう。

債券の期待リターンは利回りである(便宜的に、利息/債券価格と表す)。一方で、株式の期待リターンは、益回り(予想利益/株価)に相当する。この益回りの逆数は、株価収益率(PER=株価/予想利益)である。

前述したように、「株式のリスクが低下することで、株式の期待リターン(益回り)も低下する」と、その逆数である株式のバリュエーション(PER)は上昇することが確認できる。

低成長が招く資本の還元や利益の安定から生じる「株式の債券化」とは、株式のリスクが低下し(債券のリスクに近づき)、リスクの低下に合わせるように、株式の期待リターンも低下するような状態である。株式は(今まで考えられてきたよりもリスクが低くなるわけだから)現在の水準よりも買われることになる。それは、バリュエーションの上昇を示唆する。

実体経済の低成長と「株式の債券化」という将来を見通すと、現在の株式のバリュエーションは、少なくとも債券と比較すれば、相対的に割安にとどまっている可能性がある。米国市場を見ると、S&P500指数の益回りと10年国債利回りは過去に比べれば、かい離が広がっている(益回りが国債利回りを大きく上回っている)。

仮に、現在が「債券バブルのために金利が低過ぎる」と考えれば、債券は売られ、金利が上昇することで、株式益回りと債券利回りのかい離は調整されるだろう。一方で、低成長と低インフレ率が低金利を正当化するならば、債券が売られるのではなく、反対に株式が買われ、株式のバリュエーションが上昇する(益回り=期待リターンは低下する)ことで、両者のかい離は調整されると考えられる。

実体経済の低成長が期待される中でのPERの上昇は一見するとバブルのようにも思えるが、低成長期待を反映する株式(エクイティ)の減少と益回り(期待リターン)の低下と考えれば、バブルとは真逆の現象と言える。

マイナス金利の導入による、金融機関の競争激化と融資金利の低下は、世界の企業で見られるトレンドと同様に、企業の負債調達によるM&Aや株主還元(配当や自社株買い)を下支えし、「株式の債券化」が進むとともに、実体経済の低成長は自己強化されるだろう。

以上は、筆者の非常に大胆な予想である。この予想が正しいとすれば、株式は債券に比べて相対的には「買い」と考えられる。またこのとき、株式と金利の相関関係は長年続いた「業績相場」(金利上昇・株上昇もしくは金利低下・株下落)から、再び1990年代までに見られたような「金融相場」(金利上昇・株下落もしくは金利低下・株上昇)に戻る可能性がある。

*重見吉徳氏は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの日本におけるグローバル・マーケット・ストラテジストで、エグゼクティブ・ディレクター。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済事務および外国債券・デリバティブ等の投資業務に従事。その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年3月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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