September 13, 2016 / 1:02 AM / 2 years ago

コラム:日銀追加緩和のベストメニュー=重見吉徳氏

[東京 13日] - 米国の経済指標が力強さを欠き、「9月は利上げ見送り」との見方が優勢になる中、金融市場の目下の関心は、日銀が21日に公表する「総括的な検証」と金融市場調節方針だろう。

この点に関して、日本経済研究センターが7日に公表した9月の「ESPフォーキャスト調査」によれば、マーケット・エコノミスト全41人の回答者のうち25人(約61%)が9月の追加緩和を見込んでいる。

筆者も21日に追加緩和が実施されると考えている。メニューは次の3つである。

●「政策金利残高」に適用する金利を、0.2%引き下げ、マイナス0.3%とする。

●「成長基盤強化の貸出支援基金」に適用する貸付利率を、「政策金利残高」に適用する金利と同じとする(すなわち、日銀がマイナス金利で金融機関に貸し付けを行う)。

●国債の買い入れを、年80兆円の残高積み上げ目標から、(当面は)長期金利で0―0.1%の利回り水準目標に変更する。

最初に上記3点の目的を説明すると、1点目と2点目は金融緩和の強化と金融仲介機能の維持(=銀行利ざやの回復)、3点目は国債買い入れの持続可能性の確保である。一方で、「2年で2%」はそのまま維持し、株価指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J―REIT)の買い入れについては、金融市場の流動性や安定性に鑑み、拡大はないと考えている。

おそらくこれらの組み合わせは、円相場や株式市場にとってのベストな回答だろう。率直に言えば、メニューの3点目(利回り目標水準の採用)は筆者の希望的観測を含んでいる。しかし、やがてはその方向だろうし、だとすれば2―3年後になるかもしれない次の検証を待たず、今回の検証を好機として「利回り水準目標」に移行することができるだろう。長期金利で0―0.1%の水準目標は、均衡実質金利(自然利子率)がマイナスと計測され、長期の期待インフレ率も0.1―0.2%程度にとどまる中では、市場の評価に沿うと考えられる。

他方、1点目(追加の利下げ)と2点目(日銀による金融機関へのマイナス金利での貸し付け)については、最近の総裁や副総裁、審議委員の講演やインタビューと整合性がある。これらの要人発言に共通する重要なキーワードは「イールドカーブのフラット化」である。

<追加緩和と金融仲介機能確保の両面作戦>

黒田東彦総裁は、米ジャクソンホール会合(8月27日)で、マイナス金利導入の「インパクト」について、イールドカーブのフラット化を挙げた。短期金利を引き下げたにもかかわらず、短期金利の引き下げ幅以上に長期金利が大きく低下した理由について、ゼロの下限制約が取り払われたことにより、「真の金利」が示現したとしている。その上で、現在のマイナス0.1%の政策金利について「下限制約からは、まだかなりの距離がある」とした。

続いて、きさらぎ会(9月5日)では「金融仲介機能に与える影響」について、マイナス金利導入以降のイールドカーブのフラット化がもたらした負の側面(=銀行利ざやの圧迫)を丁寧に解説している。これら2つの講演での論点は、中曽宏副総裁の講演(同8日)や、桜井真審議委員のロイターとのインタビュー(同2日)も同様である。

そして、総裁・副総裁はいずれも、「当面は、消費者物価上昇率が小幅のマイナスかゼロ%程度で推移する」ため、人々の(2%に向けた)物価予想の形成には「不確実性がある点にも留意しておく必要がある」としている。注意が必要なのは、それぞれの英文では「considerable(かなりの)」や「persist(執拗に持続する)」といった単語を使うことで、より強めの表現になっているという点である。

以上をまとめれば、日銀は「追加緩和と金融仲介機能の確保を同時に、かつ前向きに検討している」と考えられる。長期金利については黒田総裁の見立てどおり「真の金利」が示現しているならば、(国債の買い入れを増やすことなく)短期金利を引き下げれば、イールドカーブはスティープ化するはずである。

しかし、これは十分ではない。通常の金融緩和時には、短期金利を引き下げることでイールドカーブはスティープ化する(長期金利は短期金利ほど低下しない)が、その背景には、金融環境が真に緩和的と見なされる結果、先々の景気拡大やインフレ率の上昇が予見されていることがある。

現状においては、単に短期金利を引き下げるだけでは、追加緩和にも金融仲介機能の確保にもならないと考えられる。なぜならば、金融機関が実際に短期金利の水準で資金調達をできない(リスクを取って投融資を実行したり、有望な投融資先を探したりするインセンティブに乏しい)ためである。これについては「成長基盤強化の貸出支援基金」の貸付利率を、マイナス水準の政策金利と同じとする(日銀がマイナス金利で金融機関に貸し出す)ことで一部達成できよう。

<円高リスクはらむ目標柔軟化>

最後に9月会合に向けてのリスク要因を2つ挙げておく。いずれも先の「ESPフォーキャスト」でマーケット・エコノミストの半数前後が予想しているものである。1つは「80兆円」の国債残高積み増し目標を、例えば「70―90兆円」に柔軟化することであり、もう1つは「2年で2%」の「2年」を取り下げることである。これらはいずれも円高のリスクをはらんでいる。

まず、国債残高積み増し目標を「70―90兆円」といったレンジに柔軟化すれば、70兆円に焦点が当たり、金融市場は国債買い入れ縮小(テーパリング)の始まりと読み解くだろう。柔軟化の理由が積み増し目標の維持がやがて困難になると見ているためならば、利回り水準目標に移行することができるだろう。

そして、「2年で2%」の「2年」取り下げを主張する向きの根拠は、

●繰り返された「後ろ倒し」により、「2年」はすでに形骸化している、

●繰り返された「後ろ倒し」が日銀への信認を損ねている、

●目標達成の期間を定めない「柔軟なインフレ目標」が世界の常識だ、

といったものだが、金融市場は「2年」を取り下げるから、あるいは世界の常識に従うから、日銀を信頼しよう、円を売ろうとはならない。

彼らの根拠を逆に捉えるならば、「2年」はすでに金融市場には「強弁」と適切に理解されているはずであり、すでに十分に「信認」を損ねているからこその、年初来の円買い戻し(=円高)とも言える(実質実効レートの大幅低下と鈍いインフレ率の組み合わせ以外の円高要因としては、貿易収支の赤字縮小と実質政策金利差の拡大、さらにリスクオフ環境が挙げられる)。

「2年」は「念頭に置いてある」だけで世界の常識のとおり、「目標到達期間の後ずれ」は米連邦準備理事会(FRB)も欧州中銀(ECB)も同様である。マーケットにとって「2年」は「躊躇(ちゅうちょ)なく」との表現と同様、強気の黒田総裁の旗印であり、バロメーターである。したがって、筆者は「2年」の取り下げについてはその必要性も、ましてプラスの効果もないと考えている。

*重見吉徳氏は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの日本におけるグローバル・マーケット・ストラテジストで、エグゼクティブ・ディレクター。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済事務および外国債券・デリバティブ等の投資業務に従事。その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年3月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below