Reuters logo
コラム:トランプ流保護主義に「ドル安」は不可欠=亀岡裕次氏
January 26, 2017 / 9:04 AM / in 10 months

コラム:トランプ流保護主義に「ドル安」は不可欠=亀岡裕次氏

[東京 26日] - 米大統領選挙後のドル高・円安が反転している。これは一時的調整なのか、それともトランプ相場が曲がり角を迎えたのか。ドル円に影響を与える4つの点(米国金利、リスク許容度、米保護主義、日銀政策)から、相場展開を考えてみたい。

まず、ドル安に作用した一因は、米国金利の低下だ。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待は、昨年12月の利上げ直後をピークに後退し始めた。2年物などの国債金利は日本も低下したために日米金利差はほとんど縮小しなかったが、10年物などの国債金利は米国の低下が寄与して日米金利差が明らかに縮小した。

一転して1月後半は、米株価の上昇に伴い米金利が反発した。ただ、日米10年金利差は拡大に転じたものの、ドル円はほとんど反発していない。

これは、米国の期待インフレ率が上昇する一方で、実質金利が低下していることが一因か。期待インフレ率上昇の背景には、原油価格の高止まりや米インフレ率の上昇もあるが、完全雇用の米国経済に財政刺激が加わることでインフレ率が高まりやすいとの見方もあるだろう。財政刺激がインフレにつながりやすい一方で景気加速にはつながりにくいとの見方から、実質金利が低下したのではないか。

実質金利は為替相場との連動性が高い。インフレ期待により米国の名目金利が示すほどには実質金利が上昇しないとなると、米金利はドル円の上昇に作用しにくい。

<リスクオンの円安は持続性に欠ける>

クロス円が1月半ばにかけて下落したことから分かるように、ドル円の下落にはドル安だけでなく円高も寄与した。円高は、海外金利とリスク許容度の低下に原因があるとみられる。だが、1月後半は米株価が最高値を更新するなど、リスク許容度の上昇がクロス円の反発(円安)を招いている。

米株高は、米企業決算やトランプ政権の財政・規制緩和策よりも、保護主義政策によるドル安が米成長期待を高めているためではないか。ドル安がリスクオンの円安要因になっている。リスクオンはドル実効為替を下落させやすく、ドル安でリスクオンになり、ドル安がさらに進むという循環も生まれやすい。

ただし、ドル安は、米インフレ期待を高めて金利を上昇させることで株価を割高にし、株高の進行を難しくする。また、ドル安の一方で通貨高が進む国々の中には、景気悪化懸念でリスクオフに傾く国も出てくるだろう。

では、ドル安が米経済成長期待を支え、米株高とリスクオンの円安を招く動きは続くだろうか。鍵を握る要因の1つは経済指標だ。11、12月と連続して大幅に改善した米ミシガン大学消費者信頼感指数が、1月はわずかに悪化した。米企業景況感にも同様の傾向が表れる可能性がある。

為替変動が経済指標に影響を及ぼすまでに、発表に要する期間を含めて2―3カ月のタイムラグを持つケースが多い。1月のドル安の好影響よりも12月にかけてのドル高の悪影響が、今後発表される米経済指標に表れやすいだろう。

また、中国における年初からの自動車減税縮小が同国の経済指標に悪影響を及ぼしやすいだろう。主要国の経済指標が市場予想を下回ることを受けて経済成長期待が後退し、リスクオフの円高に転じる可能性がある。

<米保護主義政策の推進にはドル安が必要>

最近のドル安を生んでいる大きな要因が、トランプ大統領の保護主義政策だ。大統領が掲げた「米国製品を買い、米国人を雇う」という2つの単純なルールを、国民向けの呼び掛けや企業へのけん制だけで実現することは難しい。

大統領は、環太平洋連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を表明した。通商交渉により米国の輸入関税引き上げや相手国の輸入関税引き下げを図り、米国の輸入を減らし輸出や国内生産を増やそうとしているが、それは可能なのだろうか。

米国が輸入関税を引き上げるなら、相手国も輸入関税を引き下げるどころか引き上げようとするだろうし、米国に有利となるように通商交渉を進めることは難しい。米国がある国からの輸入関税を引き上げても、米国製品に価格競争力がなければ国内生産で輸入を代替できず、他国からの輸入で代替されるケースも出てくるだろう。あるいは、輸入価格が上昇しても輸入数量が減らずに輸入金額が増えるだけかもしれない。

関税引き上げという貿易障壁を高める施策は確実に米国のコストを高めるわけで、同時に米国製品を売りやすく(他国が買いやすく)する状況にしなければ、国内生産誘発のメリットよりもコストアップのデメリットが大きくなる。

また、企業が米国内で投資・生産・雇用を拡大しても、海外生産に比べてコストが上昇するだけで、製品の売れ行きが伸びずに在庫が増えるようなら、米国回帰は続かないだろう。結局、米国が保護主義政策を推し進めるためには、ドル安にしてこれまでよりも国内生産と輸出を有利に、輸入を不利にするしかないはずだ。

トランプ大統領が17日付の米紙インタビュー記事で、「われわれの通貨は強すぎる」「価値を引き下げる必要があるかもしれない」と述べていたのは、ドル安にしたいと考えている証しにほかならない。別の米系メディアによれば、ムニューチン次期米財務長官も上院議員宛ての書簡で、「時折、過度に強いドルは経済に短期的に悪影響を与える可能性がある」との考えを示したという。もはや、トランプ政権の通貨戦略は明確だ。

減税やインフラ投資をしても米国景気が減速するようなら、米金利低下のドル安、リスクオフの円高とともに、米保護主義のドル安圧力が強まりやすい。トランプ政権の通貨政策は「ドル高抑制」から「ドル高是正(ドル安志向)」にシフトし、主要な貿易相手国に通貨高圧力をかけるだろう。その筆頭は、対米貿易黒字が巨額な中国であり、人民元安を「為替操作」と批判している。

ただし、直近1年間の米国の2国間貿易赤字の大きさは、中国、日本、ドイツ、メキシコの順であり、日本も対米貿易黒字が大きい。そのうえ、主要通貨の実質実効為替を比較した場合、長期的な平均水準に比べて近年の通貨安が目立つ通貨の1つが円だ。選挙中に「円安誘導」と批判したトランプ大統領は、対日貿易赤字の大きさに不満を表している。日本が通貨高圧力を受けるターゲットとなる可能性は十分にあるだろう。

<日銀政策調整による円高にも注意>

日銀の中曽宏副総裁は20日の講演で、為替スワップ市場における非米系銀行のドル調達プレミアムが拡大している背景に、米国と日欧の金融政策の方向性の違いがあることを指摘した。そして、国際金融システムの不安定化を招くことがないようにするのも中央銀行の責務とし、邦銀の外貨資金繰りの状況を注視すると述べた。量的緩和とマイナス金利を続けている日欧の金融政策が招く問題点の一端を指摘したとも言える。

欧州中銀(ECB)はすでに資産買い入れペースの減額を決定したが、日銀の年間約80兆円ペースの資産買い入れが永続的でない以上、遠くないうちに日銀も減額する可能性がある。日銀が、金利が上昇している超長期国債の買い入れを増額せず、金利が低下している中期国債の買い入れを減額(回数減)したのは、その布石ではないか。

トランプ政権が日本に円高圧力をかける中で、日銀の金融緩和政策を批判することも十分にあり得る。日銀の政策調整(資産買い入れ減額や金利操作目標引き上げ)により円高が進む可能性にも注意すべきだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below